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夏休みが始まった。

私は部活もしていないし大学に入るだけの学力は持ち合わせているつもりだ。よって、私が夏休みに為すべき事は何もない。

ということで、その日も私は惰眠を貪っていた。

特に用事もなかったので昼過ぎまで寝るつもりだったが、それは阻止された。

私の携帯の着信、という形で。

『ぴよぴよ、ぴぴぴぴぴ』と携帯から聞こえてくる。

「んん……んー?」

寝起きだったので相手の確認もせず電話に出る。

「ふぁい……もひもひ?」『今起きたの? もう十時だよ』

「なっ……おえくん?」

『正解、直江舜だよ』

「どうしたの? まだ十時だよ?」

『もう十時、だよ。せっかくいい天気なんだし、どこかに行こうと思って』

「私と?」

『そう。だから電話したのに』

「行く!」

『返事早っ……まあいいやとりあえず迎えに行くよ』

「すぐ用意するから!」

その十五分後に直江君は来た。いつもの制服ではなく、まさに今時の若者といった服装だ。

「遅くなったかな?」

「いやっ全然!」

「そう、よかった。どこに行きたい?」

「えっと、買い物とか」

「よし、じゃあ行こう」


「あー……楽しかった!」

買い物からの帰り道、私達はいつもの通学路と同じ道を通っていた。まだ陽が高い。

「俺はてっきり、何か欲しいものがあると思ってたんだけど……何も買わなかったね」

「え? あーうん……そうだね。でも楽しかったよ」「それはよかったよ」

しばらくそのまま歩き、気付くと直江君は不思議そうに私を眺めている。

「何?」

「前々から思ってたけど、君って俺の誘いを断った事ないなって。いつも二つ返事で付き合ってくれるし」

「そりゃそうだよ。勿体ないじゃない」

「ふーん……そんなに俺なんかと一緒にいたいなんて変わってる」

「変わってないよ。直江君は特別だもん」

「その通りだぜ、直江ぇ」 「「っ!?」」

私と直江君が同時に振り向くと、そこにいたのは黒いジャケットに帽子を被ったあの不審者だった。

口角を吊り上げ笑っているのが帽子の陰から見えると同時に、あの時の不快感が甦る。

「久しぶりだなぁ、直江。半年振りぐらいかぁ? そっちのお嬢ちゃんは何? もしかして彼女?」

「ああ」と直江君は返したが、不審者は本気にせず声をあげて笑う。

「はぁーっはははははは!超ウケるなそれ!いつから芸人になったんだお前?」「冗談とかじゃないんだ。それじゃあな」

直江君は強引に私の手を引き、すたすたと歩き出した。

「あー……おい……」と不審者は寂しそうにしていたが、やがて私達と逆方向に去っていった。

「直江君、今の人がこの前私を追いかけてきたの」

不審者の姿が完全に見えなくなった後、私は歩きながら打ち明けた。

直江君はまだ私の手を引っ張っている。

「ああ、あいつならやりそうだ。ごめんね」

いつもの穏やかな口調で直江君はそう言ったが、その顔は今まで見たことがないくらいに硬く険しかった。

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