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「はい。えー……もうすぐ夏休みだが、気を抜いちゃいかんぞ。この時期は特に問題が多いからな。じゃあ、えー……また明日」

不審者と邂逅した次の日のホームルーム。定年目前の先生は先週と同じ話をしている。

昨日の事はまだ誰にも言っていない。他の人の安全を考えれば言った方が良いのだけど、変に騒ぎ立てられるのは嫌いだ。

とは言うものの、もうあんな目に遭うのは御免だ。

「直江君、帰ろう」

彼にだけは伝えておこうと思う。


「不審者……」

いつもと同じ帰り道、その途中で直江君に相談した。あの光るモノが本当にナイフだったかは判然としないものの、変な笑い声をあげながら追いかけてくれば、それだけで相当な変人と言えよう。

「それは怖いねぇ」と直江君は言ってくれるが、あの不気味さは体験した者にしか分からないだろう。

「うーん……じゃあ夏休みに入るまで俺が家まで送るよ」

「えぁ?」

「怖いでしょう、不審者」

「いや、でも、悪いし」

「気にしないでいいよ。それとも迷惑かな」

「迷惑ではないです……」

「決まり」

なし崩し的に決まってしまったが、これは案外良い展開じゃないだろうか?

恋人が家まで送ってくれるなんて、一年前まで想像もできなかったことだ。

そんな風に喜ぶ一方、私は奇妙に思っていた。

どうして直江君はこんなに親身になってくれるのだろう。自分と世界とを切り離しているような人間が、ここまで他人に優しくするものだろうか? そこには律儀という言葉で片付けられない何かがあるように思えた。

私はまだ、彼の事を何も知らないんじゃないか?

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