伍
「……それでね、平田は直江君が中二病だと思ってるみたいなの」
「中二病か。あんまり言われたことないな」
学校からの帰り道、直江君と私はそんな会話をしていた。
「直江君、もうすぐ夏休みだよ。どこか行こうよ」
「そうだね、考えておく。それより、ちょっと真面目な話なんだけど」「何?」
直江君がこんな話を切り出すのは初めてのことだ。
「高校を卒業したら俺達は別の道を進むわけだけど……もしそうなったら、この関係は終わるわけだよ」
「あ……そうなるね」
遠距離恋愛など私達にできるはずもない。私は直江君と一緒にいたいと告白したのだ。一緒にいることは出来ても、世間一般で言うような恋愛関係にはなれない。「良かったら、その辺考えてくれないかな」
「……分かった」
それからしばらくの間、私達は無言で歩いた。
「……あ、この辺で」
「うん、じゃあね」
直江君と別れ一人きりの家路につく。気付けばもう空は暗くなっていた。
「これから、か……」
独り言を呟きながら歩いていると、正面に人が立っているのに気付いた。
(……?)
黒いジャケットにフードを被り、無言で佇んでいる。「こんばんは」と呼び掛けても返事がない。
不気味に思っていると、その不審者はポケットから光るモノを取り出した。
瞬間、学校での会話が脳裏を過る。『何を買ったと思う?』『さあ』『折り畳み式のナイフ』
「直江君……?」
うっかり声に出してしまったが、よく考えてみるとそれは無理がある。まだ別れて数分なのに、着替えて待ち伏せなんて不可能だ。第一、襲うなら一緒に歩いている時に襲えばいい。
「ぎひ」私の言葉を聞いた不審者は醜悪に笑う。その声は、やはり直江君のものではない。
「ひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひ、いひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひ……」
恋人への疑いは晴れたがこの状況はヤバいだろう。なんて呑気に考えていると突然、不審者がこっちに走って来た。
「ひひゃはぁ!」
「きゃああああ゛!」 私も必死になって逃げる。こんなに本気で叫んだりはしったりしたのは何年ぶりだろう?
数百メートル走ったあたりで後ろを振り返る。もちろん走ったままで。
不審者は私のずっと後ろを走っていた。
「……あれ?なんだ遅いじゃん」
とは言っても相手は不審者。油断は出来ない。
そう思って、全速力のままで家に帰った。




