肆
「やったじゃない!おめでとう」
直江君への告白を無理矢理成功させた次の日、早速平田に打ち明けてみた。
「でもねー、恋愛って実るまでが楽しいって言うし」「だから平田は恋人作らないの?」「うるさいよ」
茶化したつもりだったが、わりと本気で怒られた。「モテないんだよ、あたしゃ」「ごめんなさい」「よし」
なんて会話をしていたその時、教室のスピーカーから声が響いた。
『三年二組、直江舜。職員室まで来なさい。繰り返す……』
「あらら、呼び出し? 何したの直江君」
「さあ……悪いことじゃないと思うけど」
しばらくして教室に帰ってきた直江君は、悪戯がバレた子供のような笑顔を浮かべていた。
「直江君、何したの?」
私はすかさず歩み寄り、訊いてみた。直江君は平然としている。
「ああ、この前の進路調査のことで」
「進路調査? 何て書いたの?」
少し答えにくいかと思ったが、直江君はどうと言うこともなく答えてくれた。
「日本中を旅してみたいって書いたんだ。そしたら、『金稼いで旅行でもしてろ』って言われた」
「そりゃそうだよ」
「何か良い手はないかな……そういえば、君はどうするの?進路」
「うーん、とりあえず大学に行くかな」
「真面目なんだね」
「普通だよ」
そんな他愛のない日の二週間後、夏休みの話題が出始めたとある日のことだ。 その日もいつものように平田が話し掛けてきたが、今回は内容が違った。「ねえ、直江君のことだけど」「何?あげないよ?」
「いらないよ。で、彼、どうしていつも長袖なの?」「ああ、そう言えば……」 直江君はいつも長袖のカッターシャツのままだ。他の同級生達は半袖か、そうでなくとも袖を捲りあげている。
「ちょっと気になる、かも?」
「もう一つ。これは他の友達に聞いたんだけど、彼、この間ホームセンターにいたんだって」
「別に普通じゃない」
「何を買ったと思う?」
「さあ」
「折り畳み式のナイフ」
「ふーん……アウトドア派なのかな」「だったらナイフだけ買う? 普通は他の物もまとめて買うわよ。私が思うに、彼は……」
「直江君は?」「中二病」「あっははははははっ!」思わず笑ってしまった。
「ちゅ……中二病って、ふふ、あはは」「だって、それしか考えられないでしょ?……もう、知らない」
ぷいっとそっぽを向いて立ち去る平田と入れ違いに、直江君が近づいてきた。
「一緒に帰ろうか」「あ、うん」
告白してから二週間、直江君は私に優しくしてくれる。それは良いことだ。
ただ、どんなに優しくしてくれようと、彼は独りでいるのだろう。私は彼の中にはいない。
それが、少し悲しかった。




