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「俺ってさ、昔からこんなだったから、周りと上手くいかなかったんだよ。特に家族とはね」

「……」

「うちの両親は言いたい放題でね、大変だったよ。俺が転校したいって言ったら諸手をあげて喜んだ。そんなことがあったから、人間とか怖くなってさ。真もそう言ってたでしょ」

「直江君は世界を怖がってるって言ってた」

「ま、ほとんど正解かな。人間は何するか分からないし、世界は何があるか分からないからね」

「そういうことだったの」

「さっきみたいに正直な奴の方が気楽でいい。好きではないけど。君が告白してくれた時も、内心ちょっとだけビビってたんだ」

「……今は?」

「怖いよ。あんな事があったし、腕の傷も見せたし。いつ君がいなくなってもおかしくないから」

「いなくならないよ。ずっとついていくから」

「本当?」「本当」

「だったら進路のこと、もう話さなくてもいいね」

「そうだね。じゃあ今日はゆっくりしていっていいかな?」

「どうぞ。ドア直さないといけないし」


 直江君とゆっくりいちゃいちゃしたその次の日、私は珍しく早めに目が覚めてしまった。

「あら、今日は早いのね。おはよう」

「うん……おはよ」

 テーブルに着いて何気なくテレビを見ると、私の町が映っていた。

『えー本日未明、〇〇町の公園で、男性三人の死体が発見されました』

 私の寝惚けた頭では、この地点ではまだ

『ふーん怖いな、最近いろいろあるなぁ』

程度にしか思わなかった。

『被害者は全員拳銃で殺されており、身元は現在捜査中であるということです』 ここでようやく私の頭が覚めた。何の変哲もないこんな田舎町だ、立て続けに拳銃沙汰が起きれば嫌でも気付く。

 私は慌てて階段を駆け上がり、携帯を取って直江君に電話を掛ける。

 だが、どれだけ待っても直江君が電話に出ることはなかった。

 嫌な予感がして、私は急いで服を着替え家を出た。

「ちょっとあんた、ご飯はどうするのー?」

「いらない!」


 昨日覚えた道を辿り直江君のマンションへ行く。インターホンを鳴らしたが、携帯と同じく返事がない。「直江君、どこに……?」

 それから町中を走って直江君を探し、陽が傾き始めたころ、それを見つけた。「これ……」

 それは、道なりに点々と続いている血痕だった。直感的にそれが直江君のものだと分かる。

「どっち?」

 右に行けば、工場や製鉄所が立ち並んでいる。

 左に行けば、私達の学校がある。

「……左っ!」

 ありったけの勘を総動員して、私は左の方向に駆け出す。私の予想通り、直江君の血痕は学校へと続いていた。一階の窓が割られていて、そこから入ったのだと分かる。さらに、学校付近の血痕はまだ乾いていない。私の勘は間違っていなかったようだ。

 直江君に倣い、私も窓から入る。血痕を見るまでもなく、私は直江君の居場所が分かった。

 そこは、かつて私が直江君に告白した場所。

「……直江君」

「やあ」

 直江君は、私が告白したときと同じように自分の席に座り、外を眺めていた。「君なら、来てくれると思った」

 近づいてみると、直江君の腹部から血が流れ続けていた。道についていた血痕の量と今流れている量を合わせると相当なものだ。素人の私でも分かる。

 直江君は、もう助からない。

「最後はここで過ごしたいな、って思って」

 訊きたい事は山ほどあるが、今はそんな状況ではない。

「昨日君が言った事、覚えてるかな」「?」「俺についてきてくれる、って言ってたけど……やっぱり、ついてこなくていいや」

 直江君は息を切らしながら話し続ける。

「いい機会だからさ、そろそろ、全部、終わりにしよう。君を一生独身にさせる訳にはいかないし。っはは……」

 いつかの問答を冗談混じりに言うが、直江君の身体はもう限界だった。

 私は直江君の手を握る。驚くほど冷たい。

「結局、人間は一人で生きて一人で死ぬんだ。どんな人間も、どんな風に生きても、同じ」

 私は直江君の眼を見た。彼の眼は虚ろで、もう私の顔も、この景色も映っていないかもしれない。

「でも、こうやって看取ってもらえるのは、嬉しい……まるで、俺の中に君がいるみたいだ。それは錯覚だろうけど、それでも幸せだ」

 気付けば、私は泣いていた。私の涙が彼の手に落ちる。

「……もうそろそろ、お別れみたいだ。今までありがとう。できればもっと、幸せに……」

「直江君?」

 返事はない。

「直江君」

 やはり、返事はない。

「ああ、もう……いないんだね」

 私は手を離し、ゆっくりと彼を抱きしめた。

「私、もうとっくに決めたから。直江君についていくって」

 直江君の身体を持ち上げ窓の反対側の壁に背中がつくよう座らせる。その時、直江君のポケットからナイフが落ちた。

 私はそのナイフを拾い、直江君に微笑みかける。

「じゃあ、行ってくるね」


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