13、特番は超過激(1)
30秒のオープニング曲が流れた後、練習通りに拍手をして、いよいよ番組がスタートした。
「はいっ、今夜は2時間特番「その目で見るシリーズ」第2弾。
『霊能者・超能力者の真実を暴け!』生放送始まりまーす!」
司会者は超ベテランのもとお笑いタレント、里田サトシ。 アシスタントは頭のいいタレントとしてクイズ番組からニュースキャスターの真似事までやってのける、南海栄子という元アイドルがやっている。
前回のゆるゆるワイドショーとは違って、かなり絞り込んだ趣旨の番組という気がした。
まず、ステージに出て来たのは馬鹿でかいパネルだった。
里田が指付きのスティックを手にして説明を始める。
「はい、昨今いろいろ話題になっております、霊能者による詐欺、悪徳商法、その他各種犯罪のリストがここに出ております。
教団内でマインドコントロールして殺人、ありましたね。 こっちは御祈祷で水責め、溺死させた事件。 「呪い」を掲げて、巨額の祈祷料を脅し取った事件、これはごく最近でしたね。 それと先日のオニバサリ事件もそうですし……。 ここ10年だけでもこれだけの事件が起こってます。
一方で、先日の如月吹雪さんのように、犯人逮捕に一役買ったという事件は本当に少ない。
という訳で、こういう霊能者、預言者の方々の中のね、誰が本物なのか、偽物に騙されないようにするにはどうしたらいいのか、という事を私たちが知るための、いろいろな試みや調査をしていこう。 これが今回の番組の趣旨です。
で、スタジオには、今を時めく話題の霊能者、占い師、霊媒師さんにお越しいただきました。 見て下さい、このひな壇の怪しい事!」
カメラがひな壇の右半分を舐めると、会場から笑いが起こった。
ひな壇右半分の人たちの服装は、巫女風、イスラム風、黒魔術風、何風か判らないがただ派手なだけのものまで、様々な方向に極端な個性を発揮しているので、ちょっと引きたくなるほど画面が濃い。 ごく普通にスーツにネクタイで来ているウィズなんて、地味すぎてどこにいるかわからないくらいだ。
「ひな壇右半分、青のお名前プレートが霊媒師の方。 黄色のプレートが占い師の方で、全部で16名いらっしゃいます」
「里田さん、さっき伺ったら、霊媒師と占い師の方の中で、かなりの出演拒否があったという事ですが」
アシスタント南海が、わざとらしく質問した。
「そうなんだよ栄子ちゃん、ホントは20人ずらっと並ぶ予定だったのに、インチキを暴きますっていう話をしたら、4人ほどキャンセルしちゃったの。 失礼なって怒って帰った人もいたんだけどさ。
腕を競って頂きますって下話の時はやる気満々だったのにさ。 もうそこで帰るってことは、インチキだって言ってるようなもんじゃねーかと、俺なんかは思っちゃったけどね」
「でも、ということは、ここに残っていらっしゃる方は、本物の自信をお持ちだってことじゃないですか? 頼もしいですよね!」
南海がうまく話を盛り上げていく。 その間、カメラがゲストの顔をひとりひとりアップに映し出す。
ウィズのサイボーグみたいな無表情を見るのがつらくて、あたしはなるべくモニターを見ないようにしていた。
「いやいや、本人は自信ありでも、我々は納得いかねーよって方もたくさんいらっしゃるという事で、はい、ひな壇の左半分には、こういった霊感商法に異議を唱える攻撃サイドの方々にお越しいただきました。
赤いプレートが評論家や研究家の方。 白いプレートが新聞や雑誌の記者の方。 緑のプレートは、トリックのネタをたくさんご存知の、マジシャンの方をお呼びしております」
ここであたしは、今更ながら、あっと小声で叫んで息を飲んだ。
「マジシャン/瑠王サイモン」と書かれたプレートを前に、真顔で座っている昨日のイカしたオジサマが、つまりウィズとは敵方の人間だという事に、あたしは初めて気づいたのだ。
(ただでさえ、知らない人と意気投合って珍しいのに、これってよっぽど……?)
番組が始まってすぐ、これは大変な企画なのだと気が付いた。
多分、構成としては、ちゃんと台本が存在する。 でも司会者・アシスタント以外でその台本を貰っているのは、攻撃側の人間だけなのだ。
ウィズたち霊媒師・占い師側の出演者には、進行の詳細がほとんど伝えられていないと思われた。
それが証拠に、攻撃側の発言はあからさまにチームプレイだった。
まず司会者が、実際の事件や、迷惑をこうむった視聴者からの投書を紹介し、記者がそれに関連した事例や周囲の状況などを列挙。 トリックが想定される事例には、司会者がマジシャンに話を振り、最後に評論家がしたり顔で批判をしまくる。
「大体ねえ、人間が不幸になる原因ってのは、霊現象以外にごまんとあるもんなんだよ。 それを霊媒師なんてものは、ぜーんぶ霊が憑いてる先祖が怒ってる守護霊が弱ってる、だからお祓いをしましょうって言って儲けを取ろうとするんだ。 何でそれが出来るかって言うと、言ったもん勝ちだからですよ。
私には見えます、他の人にはわかんないでしょうけど、ってね。 こんなん、例えば病院で医者がやったら大問題になる」
灰谷という赤ら顔のジャーナリストが、鼻の穴を膨らませて力説した。
「お祓いしますって言わなきゃ金がとれない、そのためには、いもしない霊をいるって言ったってバレないってのが、あんたがた霊媒師の強みなんですよ。
でね、お祓いしてみて偶然だか効き目アリだか知らんけど、事象が治まったらラッキー私のおかげよって顔して金とって、もし治まらなかったら、強力な霊ですからもっと効くお祓いしましょうとかお守り買えとか言って、まだ重ねて金が取れる。 ぼろもうけじゃないですか」
「失礼な! 少なくとも私はそんなインチキなんかやってない!」
「霊のせいじゃない依頼なんてめったに来やしませんよ、お客様だって相当悩んでから、自分なりに見極めていらっしゃるんですから」
「過去にインチキもいたかもしれないけど、一部の人ですから! 一緒にされては迷惑です」
霊媒師たちが口々に反発した。
「これはなかなか難しい問題ですね」
司会者が交通整理に入る。
「病院だと、レントゲンとか心電図とかで検査結果が出るんで、異常がなければ他の科に行ってくださいってことになるんですけど、例えばもっと昔、レントゲンなんかなかった頃には、とにかく医者が痛み止めを出して延々と面倒を見ていた時代があったわけです。 要するに霊はいませんって、誰でもわかるものなのか、わかったらそう言ってもらえると信じていいのか、そのあたりですね。
では、皆様ちょっとこちらをご覧ください」
後ろのスクリーンに馬鹿でかく、3枚の写真が映し出された。
それぞれにA、B、Cと記号が振ってある。
「これはいわゆる心霊写真と言われるもの、それから霊傷と呼ばれる、悪霊の仕業で出来た傷の写真も入ってますね。 今回そういう物を3点集めて来ました。
これから、霊媒師の皆さんに、この3枚の写真それぞれから感じる事、わかることをパネルに書き出していただきます。 正しいことが判る人ばかりだったら、皆さん同じことを書かれるはずですよね」
Aの写真は、古い白黒写真で、七五三の記念撮影らしかった。
おかっぱの女の子の着物の肩口からお腹の所にかけて、不気味な男の顔が白く浮き出している。
Bの写真はカラーだった。 診察台に座った中学生くらいの男の子の背中の傷が映っている。 皮膚一面が真っ赤になってボロボロに剥げ、ところどころ黒く縮れて垂れ下がっていた。
Cは中年の男が、浴衣姿で寝ている写真だった。 旅館らしい場所の籐椅子の上で眠る男の額のあたりから、白い煙のようなものが漂い出して、上空に怪しげに固まっているのが撮影されている。
ゆっくりとしたBGMが流れる中、霊媒師たちがスクリーンを睨みながらボードに文字を書き込んでいる様子がモニターされていた。 ほかの出演者たちはやることがないので、よく見るとそれぞれ本性丸出しの表情になっていて面白かった。 退屈そうにあくびを噛み殺す人、意地悪く霊媒師を観察して笑っている人、イライラしてる人。 そして、あたしの魔術師は……。
「あっ、如月さんは、ボードを書かなくていいんですよ!」
突然司会者が叫んだ。
お約束のオトボケを、ウィズがやり始めたらしい。 会場が笑いでざわついた。
「今回お答えになるのは、霊媒師の方だけでいいんです。 如月さんは、霊を否定されてますでしょう?
書かずに待ってらしていいんですよ」
「書いたらダメなんですか?」
子供のように無邪気な態度で、ウィズは反論した。
「ダメって……もしかして、そのボード使いたいんですか?」と司会者。 ドッと笑いが起こる。
「ええ、書きたいです。 面白い物がいっぱい見えるんで」
悪びれなさすぎの口調でウィズが言うと、今度はちょっと違ったざわめきが広がった。
司会者はちょっと考えてから、
「いいでしょう、お書きください。
あ、他の占い師の方は書かないでくださいね。 時間とボードが足りなくなるそうです」
きっちり笑いを取って許可を出した。
ウィズは満足そうに微笑んで、熱心にボードにマジックを走らせ始めた。




