闇を覗けば
謎の少年 山本を見失い明美は途方に暮れていた。まだ、この学校内にいるとは思うが何処にいるのか検討もつかない。ダメもとで校門近くの草むらに身を潜め山本が現れるのを待つことにした。
日が落ちかかり綺麗なオレンジ色から闇へと徐々に姿を変えていく。
「ううぅぅぅ〜〜〜、全っ然出てこない。帰ちゃったのかなぁ」
本音がぽろりと落ちる。4月の下旬で寒くはないが何もしないでただ待つという行動は辛すぎる。
「もう帰ろうかな」
そう口にし半ば立ち上がった瞬間。
「っ!!」
途中で行動を中止する。もう1度、急いで草むらに身体を隠す。昇降口から人影が現れる。
(やっと来た)
明美の標的の山本が出て来た。明美の隠れている場所を通り過ぎ校門を出る。
「よし!」
明美は迷わず後をつけた。他の人から見たらストーカーのようにも見えるが・・・。
山本は歩く。寄り道もせずただ歩く。そんな山本が商店街の中で立ち止まる。ポケットに手を入れ探る。取り出したのは携帯電話だった。そして、出る。多分、誰かからかかってきたのだろう。しかし、誰からなのだろう。教室にいた感じでは学校の友達は申し訳ないがいないに等しいだろうし。なら、家族か。考えは何となく出てくるが明美の位置からでは内容を聞くことはできない。
山本は電話を終えると走り出していた。
「ウソ、マジ!?」
予想外の行動に戸惑う。それよりも暗そうな山本が走るという概念がなかった。電話の内容がそれほど山本にとって重要なものだったのか。とりあえず明美も走って追い掛ける。
商店街を抜ける。そのまま山本は走り抜け廃工場が建ち並ぶ場所へと辿り着く。
それにしても速い。普通に運動が得意な人程に速い。
何とか廃工場区画までは付いてこれたがそこで見失ってしまった。
「はぁはぁはぁ、もう何処まで行くのよ」
今は商店街を抜けた先。廃工場が並ぶ地域。今では寂しさが残る場所。人気もなく不気味さも加わっている。
周りを見るも少年の姿は見当たらなかった。
「どこ行ったんだろう?」
見渡しても見当たらない。明美が山本を探していると・・・。
どこかから物音が聞こえてくる。なんの音なのかまでは分からない。
音を頼りに辺りを探る。
「この先から聞こえる」
建物と建物の狭い道。街頭も何も無い。唯一の明かりである月明かりもその間には入ってこない。明美の目に写るのは闇だけだった。耳を澄ませてもやはりこの先から聞こえてくる。
「ううぅぅ〜、マジでこの先だよ〜」
狭い通路での圧迫感。先が見えないという恐怖。そして何より暗闇が恐怖心を何倍にも膨らませてくる。そのせいもあり明美はなかなか1歩目を踏み出せずにいた。
「でも・・・」
明美は知りたかった。この先で何が行われているのか。山本が何をしているのか。その好奇心が恐怖心にほんの僅か勝り明美の足を前へと動かす。
手にはしっかりと自身のデジカメを握りいつでもシャッターをきれるようにしてある。撮り残しがないように撮影モードを連続撮影モードに切り替えておく。これも真実を知る為。もしかしたらとんでもなく酷い光景が待っているかもしれない。そんなことが脳裏を過ぎったがそれでも明美は前に進むこと以外に考えを変えることはしなかった。
明美が狭い通路に足を入れた瞬間、明美は感じ取る。この先は私達がいる世界とは違う。何故かそう思った。それでも何とか勇気を出し前に進む。
明美が狭い通路に入り程なくして物音は近付く。
「うっ、近い」
自然と明美も警戒体勢に入る。尚も音は近付く。近付くにつれ何の音なのかが聞き取れるようになってくる。
(これは・・・声?鳴き声?それに金属か何かがぶつかり合う音?)
はっきりは分からない。それに音が聞こえてくる所は地上からではない。少なくとも明美よりももっと高い位置。ついでに飛び交うような音も聞こえてくる。
そして、明美がいる場所の上空で音がすると同時に・・・。
「ギャァァァァァーーーーー!」
何かの悲鳴にも似た声が明美の耳に届く。急な音に身体がビクッと動き連続でカメラのシャッター音が鳴る。
そして、明美の一歩先にビチャビチャビチャッと液体らしき物が落ちる音する。まさかと思い何かが落ちたであろう場所に視線を送る。
「っ!!」
文字どうり息を呑む。そこには真っ赤な液体・・・血液が水溜まりのようにある。
「い、いやぁぁぁーーーーーー!」
ここは危険だ。ここにいては自分も殺される。直感で思い全身からシグナルが送られる。そして、走り出す。いや、逃げ出す。逃げるにしても逃げ切れるかどうかも分からない。それでも明美はここから離れたかった。無我夢中で家へと走り続けた。
やっと事件らしい事件が起きましたね~。
バトルの方はまだまだ先になりそうです。