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第1話 蒼星

[3丁目の銀行に強盗、数千万円を盗んだか]


[マンションで連続空き巣、警察の対応に不満も]


土曜日の午後2時、電車の中でSNSのタイムラインを淡々とスワイプする。


俺は三剣(ミツルギ) 彗(スイ)


剣道部に所属している高校2年生で、今は剣道の大会が終わり、家に帰っている最中だ。


[交差点で金品の盗難事件、今月10回目]


ここ最近物騒なものばかりだな。


それにしてもこういったニュースを見るのは気分が悪い。俺はスマホの電源を落とした。


そんな事を考えているうちに、電車が自分の降りる駅へ着く。


早く帰りたいが、部活の疲労もあって、急ぐ気にはなれない。


俺はゆっくりと改札へ向かい、駅を出る。


外の風が疲れた身体をちょうど良く癒してくれる。


しばらく歩き、交差点を2つほど渡った。


家まであと半分くらいだろうか。


その時


「助けて!」


と、涙交じりの子どもの声が前方から聞こえた。


「何か事件が起きているかもしれない」


ただ事ではないと思った俺は、疲労など忘れて声のした方向へと走る。



「無事だといいが……」


辺りを見渡しながら走っていると、もう1つ声が聞こえる。



「ほらな!助けなんて来ねぇよ!」


その声は、少し先の路地裏から聞こえた。

俺はさっきよりスピードを上げて路地裏へ向かう。


「大丈夫か!」



そう言いながら路地裏に入る。


路地裏にはあちこちに落書きや食い散らかしがあり、近くの金属類は軒並み錆びきっている。


そんな、荒れた路地、そこには人がふたり。


ひとりは5、6歳くらいの男の子。


青いシャツを着て、その体中にはいくつも痣がついている。軽いものではあるが腕や頭からも出血をしている。


もうひとりは30歳のくらいの男性。


坊主に近い短髪で、ガタイがかなり良いように見える。



そして、その男の子に殴る、蹴る、などの暴力を振るっている。


「いい加減俺に従いやがれ!」


「嫌だ!」


「しつけぇぞ、ガキは黙って俺の言うこと聞いてりゃいいんだよ!」


男が強めに少年の腹を殴る。



「ぐっ……!うぅ……」


耐えきれずうずくまっている上から男はさらに踏みつけ、蹴り続ける。



……ふざけるな


こんな非道な奴、許せるわけがない。


俺は堪らずこう叫んだ。


「何をやっているんだ!」


「子どもに暴力を振るうなんて、それでも大人のすることか!」


「あァ?なんだこのガキ…!」


こちらに気づいた男は、蹴るのをやめて俺を睨みつける。


「生意気言いやがって、お前もこうなりたいのか?」


男は少年の胸ぐらを掴み、見せつけるように持ち上げて俺を脅しをかける。



「やってみろ」


持っていた竹刀を向けて、奴を挑発する。


「へぇー」


それを聞いた途端、男は奇妙な笑みを浮かべて俺に近づく。見知らぬ街を優雅に散歩するようにゆっくりと、おまえが何をしようが対処できるぞ、と言わんばかりに無防備に。



明らかに俺のことを舐め腐っている。


見るからに慢心している。


つまりこれはチャンスだ、この油断している隙に子供を助け出してやる。


よそ見をしたところを狙って、俺は勢いよく男に向かって走り出しタックルを仕掛ける。


「……ッテメ…!」


相手の慢心で、完全な不意打ちとなりバランスを崩して尻もちをつく。


今だ!


俺は子供を抱きかかえ、急いで路地裏の出口へと向かう。


「ハァ……ハァッ……」


路地裏から出て少し離れたところで、疲労により俺は足を止める。


慌てて後ろを振り返るが、誰もいない逃げ切ったのか?


どちらにせよ油断は禁物だ。


「もしものためだ、名前を教えてくれるか?」


「………知矢(シラヤ) 流盛(リュウセイ)」


子供はか細い声で、名前を教えてくれた。




「分かった、もう大丈夫だ」


「俺がなんとかしてやるからな」


俺は子供にそう言って、また抱きかかえて走ろうとしたその時だった。


「彗ちゃん?」


声をかけられ、前を向くとそこには両親がいた。


唐突なことに驚いている間もなく、母さんが話を続ける。


「部活の試合お疲れ様」


「父さんも観てたぞ、よく頑張ったな」


「晩御飯を買って帰ってるとこだったのよ、今日はあんたの好きな……」


「ってちょっと、どうしたのよその子!」


「いったい何があったんだ!?」


少し遅れて、親が目の前の異常事態に気づく。



「説明は後で!今ここの付近は危険だから、早く離れよう!」


「何?どうしたの急に…」


後ろの方から嫌な気配を感じた、もしかしたら追ってきているかもしれない。


ここから離れないと。


「いいから!早く!」


俺がそう言って3人を無理やり連れて走ろうとした。


―その時だった―


突如として顔、身体に飛んでくる赤い液体、それとほぼ同時、足元に何かがぶつかってきた。


そして俺はすぐに、さっきのものが人の血であると理解する。




足元に転がって来たのは、母親の頭だったからだ。


母親だけではない、父親も、子供も、首と胴が分かれて、身体が力なく横たわっている。


「……嘘……だ……なんで……」



俺の両親はさっきまで明るく話していた、子供も命に関わるほどの重傷ではないように見えた。




どうして。


俺がもっと早く逃げなかったから?油断していたから?助けに行ったから?


俺はガクンと気の抜けたようにその場に座り込む。


「ハハッ、ダッセェ」

「何が、俺がなんとかするからな、だよ」



何だ?声が聞こえる、あの男の声だ。


俺はすぐに立ち上がり、辺りを必死に見回す。


すると誰もいないはずのところから男が姿を現した。


「オマケに被害を増やしてら、威勢だけだったな」



「お前の……!仕業か!!」



「ああ、そうだ今から俺は逃げるけど、殺されたいなら追ってくれば?」


男が俺を挑発しながら奥の路地へと走っていく。


殺されたいなら追ってくれば?だと?


ふざけるのも大概にしろよ。


先程までの悲しみが徐々に怒りへと変わっていく。


無論、追うに決まっているだろう。


俺は男の後を追い、路地へと入る。


「来ると思ったぜ」


男は余裕そうにポケットに手を突っ込みながらこっちを向いた。


「許さない!よくも、よくも!家族と子供を!!」


「うわああああああああああ!!!」


俺は涙を流し、咆哮を上げながら男に向かって竹刀で面を振り下ろす。



「お前が許さなかろうがどうでもいいんだよ」


男は竹刀を軽く躱し、そのまま死角に移動され、脇腹を殴られる。


「くっ……!」


俺が脇腹を押さえている隙に男は距離を取った。



「そうだ、名前を聞いといてやる」


「俺は久田(クダ) 圭矢(ケイヤ)だ」


「お前の名前は?」



「お前のような屑に、教えるわけないだろ…!!」

「あっそ…!」



「―抜刀(ばっとう)― 【隠(カクシ)】」



そう言うと男の手から急に刀が現れた。


何だ?刀!?………なんでこんな奴が?どこから手に入れた?どこから取り出した!?


なんであれ、奴が今持っているのは刀、何百年前からある、人を殺すための道具だ。


そして俺も今から殺されるかもしれない。


恐怖と緊張感で先に死んでしまいそうだ。


いや、そんなことを考えている暇はない。


あいつは俺の家族と子供の命を奪ったんだ。


ここで仇を討ってやる!!


「うおおおおおおおお!!」


俺はもう一度、久田に向かって竹刀を振り抜く。


「眼撒(がんさん)」


しかし、今度も竹刀が空を切る。


まずい、また反撃を貰ってしまう…!


俺は咄嗟に追撃しようとする。


だが、久田の姿はどこにも無かった。


何だ?奴はどこに行った?


あの一瞬で逃げた?いや、流石にそれはない。


さっき俺が攻撃する直前、何かを言っていた。


それに関係があるのか?


クソ……訳が分からない……!!



「どこだ!出て来い!」


俺は怒りのままに竹刀を振り回す。


しかし、その攻撃は空振りし続けるだけだった。


「逃げるな!俺と戦え!」



「バ〜カ、逃げてねえよ」


どこからかあいつの声が聞こえた、俺はすぐに警戒をしたが、遅かった。


次に辺りを見回した時、俺のすぐ目の前まで来ていた。



回避もガードも、間に合わない。


そのまま俺の腹は


……斜めにザックリと斬られた。




「がっ……!!ああああああああああ!!」


腹を切り裂かれる、平和に生きていればまず経験することのない痛み。本人にとっては想像し難い。


俺はその場に倒れ、のた打ち回る。


消えるはずのない痛みを誤魔化すように、体を必死に地面に打ちつける。


その姿を、久田は黙って見下ろしている。


血が流れるたびに、死という感覚が色づいていく。


痛い痛い痛い痛い痛い


嫌だ、死にたくない。



「いつまでもギャアギャアとうるせぇんだよ」


「ぐっ……がっは…ハァッ……ハァッ……」


苛立った久田に顔面を思い切り蹴られて、俺はようやく我に返る。



「ん?学生書……」


「俺が蹴った時に落ちたのか?」


久田が俺の学生書を拾い上げる。




「へぇー、三剣(ミツルギ) 彗(スイ)って名前なんだなあ」



「殺す前に覚えておいてやるよ」


「その様子じゃもう足掻くことも不可能だな、できるだけ苦しませて殺してやる」


「最期に何か言い残すことはあるか?」


俺はハンカチで腹を押さえ、片膝をつきながら最後の力を振り絞って叫んだ。


「なぜだ!なぜ罪なき人の命を奪った!!」


「父さんが、母さんが、あの子供が何をしたって言うんだ!何が目的だ!!」



「チッ………もうそんなこと言える立場じゃねえだろうが」


「ま、今から死ぬ奴に何言っても一緒か」


「教えてやるよ」


「俺は犯罪組織の一員でなあ」


「最近事件のニュース多いだろ、あれは全部俺の仕業だ」


「俺はなぁ!お前みたいな世の中の穢れも知らない癖に、正義ヅラしてる奴が大嫌いなんだよぉ!!」



「ここの道は人通りが少なく、さらにこの時間帯はほとんど人がいないということは調査済み」


「だから子供も、お前の家族も殺した」



「じゃ、彗くん?」



「絶望して死ねや」



久田は一方的に話し終わり、改めて刀を構える。


全てを聞いた俺は、かつてない怒りに満ちていた。


「ふざけるなよ……!!」


「そんな、自分勝手でくだらない理由で、罪のない人の命を弄んで来たっていうのか………!」



「最期に言っておく……」




「俺は、お前を絶対に許さない!!!」



俺は血反吐を吐き、叫びながら、殺される覚悟を決めようとしていた。



その時、俺の目の前がまばゆい光が現れる。


光が晴れると、そこにあったのは刀の形をした、蜃気楼のような、輪郭がぼやけたモノ。


「これは……刀……?」




「馬鹿な………神刀(じんとう)に覚醒しただと……!?」



神刀……?というのか?これ……


よく分からないが、とにかくチャンスだ!



(何でもいい、想(・)像(・)しろ!あいつに勝てる、強い力を!!)




俺はその輪郭のようなものを掴み


咄嗟に頭に浮かんだ言葉を叫んだ


―抜刀(ばっとう)― 【蒼星(アオホシ)ッ!!】


すると俺の手の中でぼやけていた輪郭が形作られ、


青い鍔の1mくらいの刀が手に握られる。



熱い、腹の底から力が湧いてくる。


「さあ、来い、お前が奪った人たちの力(・)を味わうがいい」


俺は溢れんばかりの殺意を冷静に向けた。



「覚醒したからって調子に乗るなよ、ガキが!!」


久田は俺に向かって走り出し、神刀を振るった。


俺は咄嗟に切っ先を前に向けると、久田は後ろに吹き飛び、地面に叩きつけられ転がる。


その時俺は直感で理解した。


これは、刀の切っ先を向けた方向に、力を加える能力だ、と。


「何だ今の、どういう能力だ!?」



「どんな能力だろうが見えなきゃ関係ねえ!!」


「眼撒!」


透明化の能力で久田の姿が消える。


(俺が、お前みたいなクソガキに負けるわけねぇだろうが!!)


俺は刀を持ってその場で一回転をする。


「見えないならば、こうするまでだ」


俺は全方位に力をかけて、無理やり攻撃を当てた。


久田はさっきよりも強い勢いで、地面に叩きつけられる。


「クッソがぁ……!俺がこんなガキにぃ……!!」


久田はダメージで立てないのか地面に仰向けに倒れたままだ。


「お前、俺に世の中の穢れも知らないと言ったな」


俺はゆっくりと久田のもとに歩み寄る。


「じゃあ今から知ってやる」



「死ね」


俺は胸のあたりに刀を突き刺した。


「ゴフッ……」


久田は勢いよく吐血する。



「死をもって……お前が奪った人の命を償え……」



「……………うるっせえ!!」


しかし、久田は残った力を振り絞り、俺の腕をつかみ、強引に胸に刺した刀を抜いた。


そしてそのまま立ち上がり、フラフラと走って逃げていってしまう。


「待て……」


逃がすか…!もう一度能力を……!


「ぐっ!」


(何だ…突然頭が……痛い…!割れそうだ……!)


突然の激しい痛みに頭を押さえながらも、俺は久田を追おうとする。


が、すぐにその場バタリと倒れてしまう。


(俺は、このまま死ぬのか………)


(父さん、母さん、子供も……守れなかった……)


(ごめん……なさい………)


こうして、俺は静かに目を閉じた。


……………


「おーいそこの君、大丈夫かい?」


「たまたまこの道を歩いていたら、人の死体を3つ見つけてね」


「何事かと思って、辺りを探索してみれば」


「こりゃあ只事じゃなさそうだ」


(ん?この子の手に持っているのって……)


(………なるほどね)


「もしもし、ちょっといいかな、高校生らしき子供が倒れててね、そっちで治療してあげてくれないかな」



「そうそう、その子は神刀を持っているから」


「………頼んだよ」

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