深海結晶都市の潮汐大剣士 〜海淵冒険者ギルドの緊急特級依頼と古代海竜神討伐〜
本文に生成AIを使用しています。
「おいネレイダ、頼むから討伐依頼書と、今まさに海竜の返り血を研ぎ落として潮汐の魔力油を塗り込んでいる俺の大剣の真上で、熱々のシーフードパイにかぶりつくのはやめてくれ。石窯で焼きたてのサクサクしたパイ生地と、深海オマール海老、肉厚なホタテ貝柱、そして濃厚な白ワインクリームソースの匂いは最高だが、ハラハラとこぼれ落ちたパイ生地の欠片と、トロリと垂れ落ちた熱いソースが、これから高圧水流を巡らせる刀身のスリットに落ちたらどうする。大剣の重量バランスがコンマ一ミリ狂っただけで、海竜の硬い甲殻を叩き斬るときに刃こぼれしちまうだろうが」
キィィン、シュッ……キィィン、シュッ……と、きめ細かな青金剛砥石が青銀の大剣を研ぎ澄ます重厚な金属音が、喧騒に包まれた酒場の一角に心地よく響いていた。
ここは、地上の太陽の光が決して届かない水深五千メートル、深海大断層の底に広がる神秘の海底都市――深海結晶都市『オケアノス』。
見上げる頭上には、太古の巨神が遺した巨大な発光青水晶の天蓋ドームが広がり、五千メートルの圧倒的な水圧と冷たい海水を完全に遮断している。
ドームの内部には呼吸可能な空気が満ち、青白く輝く巨大な発光珊瑚樹の並木と、白亜の貝殻建築が美しく立ち並んでいる。
そして、その深海港湾のドック正面にそびえ立つのが、海淵を探索する数千人の猛者たちを統括する『海淵冒険者ギルド』の本部だ。
一階の大ホールに広がるギルド直営酒場「青嵐の錨亭」では、頑丈な沈没船の樫材で造られた長机がずらりと並び、壁の巨大掲示板には無数の討伐依頼書が貼り出され、武骨な鱗甲冑を纏った戦士、杖を手にした魔術師、軽装の魚人族斥候たちが、大きな木製ジョッキに注がれた珊瑚麦酒や発光海酒を片手に、豪快な深海冒険談で盛り上がっている。
その酒場の奥、歴戦の猛者たちだけが座ることを許される特級ブースで、俺――アリューシャ(アリューシャ・ヴァレンティン、二十四歳)は、身の丈一・七メートルもある青銀の両手剣『海神の断絶剣』の刀身を丁寧に布で拭いながら、呆れ顔で向かいの席を見上げた。
「相変わらず神経質なことを言うわね、アリューシャ。これは散らかしてるんじゃないわ。これから命懸けの海溝ダンジョン深層に潜るっていうのに、カロリーと魔力を補給しておかなきゃ、ここぞという極大魔法の詠唱速度がコンマ五秒遅れちゃうじゃない。ギルド酒場の石窯で今まさに焼き上がったばかりの、外はサックサク、中はホクホクの深海オマール海老と大粒ホタテ、そして深海ルビーベリーが隠し味に入った特製クリームパイを前にして、我慢できる人魚族の魔導士がいたら連れてきてほしいものだわ」
テーブルのベンチシートの上で真珠色に輝く艶やかな魚尾をしなやかに揺らし、胸元を貝殻の魔導鎧で飾った絶世の美貌の少女――ネレイダ(二十歳)が、パイを両手で美味しそうに頬張っていた。
透き通るような白銀の肌に、波打つ長い真珠色の髪、そしてサファイアのように澄み切った碧眼。
深青の魔導ローブを纏い、背中には古代真珠が埋め込まれた海神樹の魔導杖を背負っている。
華奢な見た目とは裏腹に、極大の氷結魔術と天雷魔術を自在に操るパーティ『蒼穹の波頭』の誇る主砲――大魔導士だ。
口の端に濃厚なホワイトクリームをつけて、ネレイダは満足そうに微笑んだ。
「ネレイダの言う通りだぜ、リーダー! 腹が減っちゃ激流も泳げねえってな!」
ガハハと豪快に笑いながら、特大の深海カレイの骨付き丸焼きを骨ごとバリバリと噛み砕いているのは、斥候のギル(二十三歳)だ。
灰色の肌と鋭い背びれ、首元に三本のエラを持つ鮫魚人族の青年。
全身にしなやかな海獣革の軽装甲を纏い、腰のベルトには十数本のミスリル製銛と、高張力海流ワイヤーのホルダーを吊り下げている。
「それにアリューシャ、お前さんのその大剣は昨日も第六十層のメガロドンを一刀両断したばかりだろ。手入れなんざ完璧すぎるくらいだぜ」
「二人とも、真面目に作戦会議をしてくださいまし」
ため息混じりにたしなめたのは、パーティの守りの要であるセレスティア(二十一歳)だ。
背中に純白の翼を持つ有翼人の血を引く聖騎士の少女。
光沢を放つ白銀のサーコートとミスリル胸当てを着込み、横には大人の背丈ほどもある深海青真珠の大盾と、神聖な祈りが込められた銀のメイスが立てかけられている。
「今回の依頼は、ただの深海魔物退治ではありませんのよ。ギルドマスター自らが指名してこられた、最高難度の緊急特級依頼なのですから」
セレスティアがテーブルの中央に広げた羊皮紙の依頼書。
そこには、深海の海竜の紋章が刻印され、金文字で『緊急特級討伐任務』と記されていた。
「待たせたな、お前たち!」
ドスンッ!と床を揺るがす重い足音とともに現れたのは、海淵冒険者ギルドマスターのバラムだった。
身の丈二メートル半を超える巨漢の鯨人族は、険しい表情でアリューシャたちのテーブルに手をついた。
「アリューシャ、ネレイダ、ギル、セレスティア。お前たち金等級パーティ『蒼穹の波頭』に、オケアノス王国の存亡を懸けた緊急討伐を頼みたい。標的は――海溝迷宮第八十層『海嶺マグマ断層・海底火山神殿』にて目覚めた古代の災厄『深海魔竜神・海溝のリヴァイアサン(アビス・リヴァイアサン)』だ!」
「アビス・リヴァイアサン……!?」
アリューシャの瞳が鋭く細められた。
「数千年前に海底神殿の奥底に封印されたはずの古代海竜神か。なぜ今になって目覚めた?」
「海嶺プレートの歪みと深海魔力の異常集中だ」
バラムが太い腕を組み、苦渋に満ちた声を絞り出す。
「奴が目覚め、体内の超重圧・暗黒炉心から放つ暗黒波動と過熱熱水流によって、第八十層の古代水脈結晶が異常過熱を起こしている! このまま奴の暴走が続けば、あと一時間半で天蓋の青水晶ドームを支える魔力結界が崩壊する! 五千メートルの超水圧と熱水津波が都市に雪崩れ込み、十万の民と冒険者たちが圧死・壊滅するまで――残り一時間半もないんだ!!」
「一時間半……!」
セレスティアが息を呑み、胸元の十字架を握りしめた。
「五千メートルの水圧が直撃すれば、ドーム内の誰も生き残れませんわ……!」
「引き受けるぜ、ギルマス」
アリューシャは迷いなく立ち上がり、青銀の大剣を背中のホルダーへとカシャリと収めた。
「第八十層だろうが古代竜だろうが、俺たちの街を水圧の藻屑にさせるわけにはいかない。ギル、深海水流トラップの解除具と耐圧ポーションの残量は?」
「バッチリだぜ、リーダー! 特級耐圧薬は全員分、索敵用の音波閃光弾と拘束ワイヤーも満載だ!」
ギルがニッと鋭い牙を剥き出しにして笑う。
「ネレイダ、極大魔法の詠唱準備は?」
「ふん、愚問ね。あの巨大トカゲの重装甲ごと消し飛ばす天雷と氷結の複合極大魔法、いつでも撃ち込めるわよ」
ネレイダが杖の先で青白いプラズマを散らす。
「セレスティア、真珠光盾の祈りは?」
「我が命に代えても、皆さんを暗黒波動から守り抜いてみせますわ!」
セレスティアが力強く頷き、白銀の大盾を構え直す。
「よし――野郎ども! 海竜喰らいの時間だ! 海溝迷宮第八十層へ突撃するぞ!!」
◇◇◇
ゴオオオオオオオオッ……!!
迷宮の深海転送門を抜け、第八十層『海嶺マグマ断層』へと続く古代回廊に踏み込んだ瞬間、鼓膜を圧迫するような超重量の気圧と、煮えたぎる熱水蒸気がパーティを襲った。
天井からは鍾乳石のような黒曜石と発光鉱石が垂れ下がり、足元の玄武岩の通路の左右には、摂氏四百度を超える過熱熱水を噴き上げるブラックスモーカー(熱水噴出孔)が立ち並んでいる。
魔力結界によって海水自体は排除されているものの、空気中には濃密な硫黄臭と、肌を焦がすような高熱の魔力が充満していた。
「全員、特級耐圧・耐熱ポーションを服用! ギル、先行して索敵だ!」
「応よ! ――スキル発動、『海流の気配』!」
アリューシャの指示に従い、ギルが低姿勢で音もなく滑るように駆け出した。
鮫魚人特有の頭部側線器官が、視界を遮る熱水蒸気の奥の微小な圧力変化と生体電流を瞬時に察知する。
「止まれッ! 前方十メートル、床の石板に感圧式の『超高圧水刃トラップ』だ!」
ギルが壁の岩肌に飛びつき、鋭い爪で急制動をかけながら警告を発した。
「踏んだ瞬間、千気圧の圧縮水流カッターが四方八方から噴き出して全身をミンチにされるぜ!」
ギルは身軽に着地すると、腰から取り出した極細のミスリル製ピンセットを石板の隙間に滑り込ませ、水圧解放バルブのロックピンを一瞬で固定した。カチリと乾いた解除音が響く。
「解除完了! ルートクリアだぜ!」
「さすがだな、ギル!」
アリューシャが踏み出そうとした、その時だった。
ボゴッ……ボゴボゴボゴッ!!
左右の熱水溝から、猛烈な熱水柱が噴き上がった。
現れたのは、硬質な黒甲殻で全身を覆われた巨大な深海魔獣『ディープ・アビス・クラブ』が十五頭、そして赤熱した溶岩と岩石の巨躯を持つ『深海マグマ・ゴーレム』が四体!
体長三メートルを超える魔物の群れが、灼熱の熱水を撒き散らしながら、赤く濁った眼をギラつかせて襲いかかってきた!
「グルアアアアアッ!」
「敵襲! 前衛は俺とセレスティアで塞ぐ! ネレイダ、後方から広域魔法を叩き込め!」
アリューシャが叫び、背中から『海神の断絶剣』を一気に引き抜いた。
青銀の刀身が高圧水流の魔力を励起させ、キィィンと澄んだ金属音を響かせる。
「主の御名において、揺るぎなき防壁を! ――『真珠光輝障壁』!」
ドガアアアアンッ!
セレスティアが巨大な真珠貝の大盾を地面に叩きつけると、前方に虹色に輝く巨大な半透明の障壁が展開された。
突進してきた二体のマグマ・ゴーレムの巨大な岩石の拳が光壁に激突するが、セレスティアは両足を踏ん張り、盾の魔力装甲で衝撃を完全に殺しきる!
「くっ……重いですわ! ですが、一歩も通しません!」
「ナイス受けだ、セレスティア! ギル、足元を崩せ!」
「任せな! ――『海流鋼糸陣・脚絡め(タイダル・バインド)』!」
ギルが両手から放った十数本の鋼鉄ワイヤーが、ゴーレムたちの足首に複雑に絡みつき、怪力で引き絞られた。
バランスを崩したゴーレムの巨体が、ドスンと膝をつく!
「隙だらけよ、焼き石ども! ――凍てつき裂けよ、氷天の嵐『フロスト・テンペスト』!!」
後方のネレイダが海神樹の杖を掲げ、氷結の極大魔法を解き放った。
キィィィィィンッ!
発生した数十枚の絶対零度の氷刃が、ゴーレムの赤熱した岩石を急冷させて激しいヒビを走らせ、周囲のアビス・クラブの群れを甲殻ごと一瞬で凍結・粉砕していく!
「ギャオオオオッ!?」
吹き飛んだ魔物の隙間を縫って、アリューシャが跳躍した。
「我が青銀の刃よ、激流を断て――『潮汐連斬』!!」
青銀の大剣が残像を描いて三連撃を叩き込む。
ズバッ! ズバッ! ドガァンッ!
急冷されて脆くなったゴーレムの核を、圧倒的な質量と高圧水流の刃で粉々に粉砕!
赤熱した岩石が砕け散り、魔物たちの群れはわずか二分で完全に殲滅されたのだった。
◇◇◇
「ふう……雑魚の露払いは終わったわね」
ネレイダが額の汗を拭い、杖の魔力残量を確かめる。
「だが、本番はここからだ。空気が震えている」
アリューシャは大剣を肩に担ぎ、回廊の奥を見据えた。
足元の玄武岩が激しく震動し、天井から巨大な黒曜石の塊がボロボロと落下してくる。
通路の突き当たりに現れたのは、巨大な発光青水晶の門。
かつて古代の海洋文明が海竜神を祀り、そして封印したという『海底火山神殿』の入り口だった。
ドォォォォォォォン……!!
門の向こうから、深海全体を上下に激しく揺さぶるような、天地を揺るがす咆哮が轟いた。
厚さ三メートルの水晶門が凄まじい衝撃波で吹き飛び、摂氏千度を超える過熱蒸気と暗黒の重圧が吹き荒れてくる!
「全員、身を低くしろッ!」
アリューシャが叫び、四人はセレスティアの大盾の背後へ身を滑り込ませた。
暴風の向こう、広大なドーム状の神殿空間に足を踏み入れた瞬間――四人は息を呑んだ。
広さは巨大な海底競技場ほどもある大空洞。
中央には沸き立つ海底マグマ湖が広がり、その中央の祭壇岩の上に君臨していたのは、神話の怪物そのものだった。
「グオオオオオオオオオオオオオオオッ……!!」
体長三十メートルを超える超巨大魔竜――『深海魔竜神・海溝のリヴァイアサン(アビス・リヴァイアサン)』。
全身をダイヤモンドよりも硬い漆黒の深海重装甲鱗で覆い、頭部の巨大な二本の角からは青白い暗黒プラズマが迸っている。
背中の巨大な水かき翼を広げるたび、マグマ湖から巨大な熱水柱が巻き上がり、胸部には太陽のように青白く白熱する超巨大な暗黒魔力炉心が脈打っていた。
奴が吐き出す息吹だけで、周囲の岩壁がドロドロに溶けてマグマの滝へと変わっていく。
「あ、あれが……アビス・リヴァイアサン……!?」
ギルが喉を鳴らし、全身のヒレを逆立たせる。
「冗談だろ……あんなの、地上の海軍艦隊が丸ごと突っ込んでも一瞬で海の藻屑にされるぜ!」
「見なさい、神殿の天井の古代水脈結晶を」
ネレイダが杖を構えながら、切迫した声で言った。
神殿の天井に埋め込まれた巨大な青水晶コアが、魔竜の暗黒熱波を吸い込んで赤黒く明滅し、激しい亀裂を走らせていた。
「結晶の限界まで、あと三十分もないわ。あれが砕けたら、オケアノス王国全体に五千メートルの超水圧と熱水津波が吹き込むわよ!」
「ああ、タイムリミットだ」
アリューシャは両手で大剣の柄を握り締め、不敵な笑みを口元に浮かべた。
「奴の首を落として、オケアノスの街を守る。作戦はいつも通りだ。俺が正面から突っ込んでドラゴンのヘイトを完全に引く。セレスティアは俺の背後を光盾で支えろ。ギルは機動力を活かして奴の足元を攪乱し、ネレイダは最大威力の天雷魔法で胸の装甲を剥ぎ取れ!」
「ふふ、相変わらず無茶な作戦ね」
ネレイダが不敵に微笑み、杖の先端に極大の魔力をチャージし始める。
「でも、アンタが斬れない敵なんて、この世にいないんでしょ? 背中は任せなさい!」
「主の御加護が、皆さんと共にありますように!」
セレスティアが真珠光盾を前に構え、決死の覚悟で祈りを捧げる。
「よし――行くぞ、『蒼穹の波頭』!!」
アリューシャの号令とともに、パーティの命を懸けた海竜討伐戦が幕を開けた!
◇◇◇
「グルオオオオオオオッ!」
侵入者を察知したアビス・リヴァイアサンが、狂乱の咆哮とともに巨大な尾を薙ぎ払ってきた!
ドガガガガガアンッ!
激突した神殿の巨大な岩柱が一撃で粉微塵に粉砕され、火炎を纏った瓦礫が散弾のように降り注ぐ。
アリューシャは身を低くして地を這うように疾走した。
「海神の牙を喰らえ――『重力断絶斬』!」
ドスゥゥンッ!
大剣に宿った高圧水流の魔力が炸裂し、迫り来る尾の先端を力任せに弾き返す!
だが、魔竜の深海甲殻は驚異的な硬度を誇り、鋼鉄をも断つアリューシャの一撃を受けても、わずかな火花を散らすだけで傷一つ負わない。
「装甲が硬すぎる! 生半可な攻撃じゃ皮膚まで届かないぞ!」
ギルが壁の岩肌を立体機動で駆け巡りながら、ミスリル投擲銛を魔竜の関節部へ連射する。
キンッ! キンッ!
銛はことごとく跳ね返されるが、ギルの狙いはダメージではない。敵の視界を奪うことだ。
「こっちだ、深海トカゲ野郎! こっちを見やがれ!」
だがその時、魔竜の二つの巨大な眼がギラリと怪異に光り、胸部の超熱炉心が眩い白熱光を放ち始めた。
周囲の熱水マグマのエネルギーが一気に竜の口腔へと収束していく。
「グオオオオオオオオオオオオッ――!!」
放たれたのは、神殿の空間全てを呑み込み粉砕する、魔竜の最大奥義――『暗黒極大水流ブレス(アビス・カタストロフ)』!
直撃すれば山すら瞬時に削り倒す超高圧と暗黒熱波の奔流が、アリューシャめがけて津波のように迫り来る!
「アリューシャさんっ!!」
セレスティアが叫び、大盾を構えてアリューシャの前へと滑り込んだ。
退路はない。左右はマグマの海、背後は崩落した絶壁だ。
だが、セレスティアは一歩も退かない。仲間を守るのが、聖騎士の誓いだからだ。
「主よ、我が祈りを盾となし、深海の暗黒を遮断せよ! ――『極大真珠光輝障壁』!!」
カアアアアアッ……!!
セレスティアの大盾から、純白と黄金に輝く多面体の神聖結界が展開された!
ドッゴオオオオオオオオオオンッ……!!
魔竜の放った暗黒ブレスが、神聖結界に真正面から激突した。
激しい光と重圧のせめぎ合い。
「くっ……ああああああっ……!」
結界の表面が激しく軋み、凄まじい衝撃波がセレスティアの銀甲冑を焦がす。
だが、彼女の瞳は決して挫けていなかった。
「破らせません……! この盾は、皆さんの命を預かる約束の盾ですわ!!」
パアアアアアンッ!
黄金の結界が最後の瞬間まで耐え抜き、暗黒ブレスを左右の空間へと完全に受け流し、マグマ湖へと拡散させた!
「よく防いだ、セレスティア!」
アリューシャが叫ぶ。
ブレスを放ち終えた魔竜の胸部。反動でわずかに上体が仰け反り、胸の装甲の継ぎ目が露出していた。
「ギル、足を止めろ!」
「任せな! ――『極限拘束・海流魔導鋼糸陣』!」
ギルが両手から放った十数本の魔導ワイヤーが、魔竜の両足と水かき翼の付け根に絡みつき、周囲の巨大な岩柱へと瞬時にアンカー固定された!
ギチチチチッ!とワイヤーが悲鳴を上げ、魔竜の巨体が一時的に縫い留められる!
「ネレイダ、装甲を砕けッ!」
「言われなくても――穿ち抜きなさい! 蒼天と海神の雷槍『タイダル・ライトニング・ランス』!!」
ネレイダの杖から、超圧縮された雷撃と氷結の光の槍が放たれた。
バチィィィィィィンッ!!
音速を超えて放たれた槍は、魔竜の胸部、装甲の継ぎ目へと正確無比に直撃!
バゴオオオオオンッ!と硬質甲殻の破片が吹き飛び、魔竜の胸の奥でドクンドクンと脈動する唯一の急所――『真紅の逆鱗』が完全に剥き出しになった!
「ギャオオオオオオオオオオッ!?」
逆鱗を露出させられた魔竜が、激痛と恐怖に身悶えして暴れ狂う。
「アリューシャ! 装甲を砕いたわ! 決めなさい!!」
ネレイダの鋭い叫びが神殿に木霊した!
◇◇◇
「うおおおおおおおおっ!!」
咆哮とともに、アリューシャが大地を蹴った。
崩れ落ちる巨石の足場を踏み台にし、地上十五メートルの虚空へと高く跳躍する。
見下ろすのは、拘束ワイヤーを引きちぎろうと狂乱する魔竜の巨体。
そして、その胸部で露出し、脈動する真紅の逆鱗核。
アリューシャは両手で握りしめた『海神の断絶剣』を頭上高くへと掲げた。
体内の全潮汐魔力が限界を超えて励起され、全身から青銀のオーラが奔流となって噴き上がる。
「我が魂を喰らい、青銀の刃となれ……!」
セレスティアが祈りを捧げる。
「聖なる光よ、アリューシャさんの刃に勝利を! ――『神聖光刃付与』!」
大剣の青銀の魔力刃に、セレスティアの放った純白の聖光が重なり合い、刀身は息を呑むほど神々しい青銀と黄金の二重螺旋のオーラを吹き上げた。
「これが――俺たち『蒼穹の波頭』の全力だッ!!」
虚空から急降下するアリューシャ。
迎撃しようと振り上げられた魔竜の巨大な前足の爪を、ギルの放った投擲銛とネレイダの雷撃魔法が弾き飛ばし、完全な射線が開けた。
照準は、魔竜の逆鱗ただ一点!
「一刀両断――『潮汐咆哮・海神竜断絶』!!」
ズバアアアアアアアアアアアアアンッ――――!!
青銀と黄金の閃光が、神殿の空間を真っ二つに切り裂いた。
アリューシャの大剣が、魔竜の胸の逆鱗核を、頭部から胸骨に至るまで一閃のもとに両断したのだ!
「ギ……オ……ァ……ッ……!?」
魔竜の瞳から光が消えた。
逆鱗を両断されたアビス・リヴァイアサンの巨躯から、激しい青白い光の粒子が内側から噴き上がる。
魔竜の放っていた超重圧の暗黒オーラが一瞬にして霧散し、巨大な身体が光の粒子となって四散していく。
ドッカアアアアアアアアアアアアアンッ!!
大爆発とともに魔竜は完全に消滅し、その場には巨大なドラゴンの海藍魔石だけが残された。
同時に、過熱暴走しかけていた古代水脈結晶の光が穏やかなマリンブルーへと戻り、マグマ湖の沸騰もピタリと静まり返った。
着地したアリューシャは、大剣を一振りして熱水蒸気を払い、背中のホルダーへとカシャリと納刀した。
神殿の静寂の中に、駆け寄ってくる仲間たちの足音が響く。
「アリューシャさんっ!」
セレスティアが安堵の涙を浮かべながら駆け寄り、アリューシャの無事を確かめるように手を取った。
「やりました……! 討伐完了ですわ!」
「へへっ、さすがはうちのリーダーだぜ! あのデカブツを一刀両断たぁ、最高にスカッとしたぜ!」
ギルが満面の笑みで親指を立てる。
「ふん、まあ及第点ね」
ネレイダが杖を背中に収め、ツンと顔を背けながらも、その頬を嬉しそうに赤らめて微笑んだ。
「私の魔法のアシストが完璧だったからだけどね」
アリューシャは三人の顔を見渡し、煤と汗にまみれた顔でニッと笑った。
「ああ。俺たち四人の完全勝利だ!」
◇◇◇
翌朝。
昨夜の海底神殿での死闘が嘘のように去り、深海結晶都市オケアノスには、天蓋の青水晶ドームを通して神秘的で穏やかな蒼天の光が降り注いでいた。
発光珊瑚樹の並木は美しく七色に輝き、大迷宮の崩壊危機が防がれたことを知った街中には、鐘の音が鳴り響き、歓喜の声が満ち溢れている。
海淵冒険者ギルドの一階、酒場「青嵐の錨亭」。
酒場は昨夜の激闘を労う冒険者たちと海底市民で埋め尽くされ、割れんばかりの歓声と熱気に包まれていた。
「『蒼穹の波頭』に乾杯!」「古代海竜神の討伐、見事だ!」「オケアノスの英雄たちに珊瑚麦酒を奢らせろ!」
無数の冒険者たちが陶器ジョッキを打ち鳴らし、アリューシャたちのテーブルを取り囲んでいる。
テーブルの中央には、ギルドマスターのバラムから直々に手渡された、ずっしりと重い特級討伐報酬の白金貨袋と、魔竜の巨大な海藍魔石。
そして――酒場の料理長が「街を救ってくれた最高のパーティへ!」と腕によりをかけて焼き上げた、湯気を上げる特大の耐熱皿があった。
「わあぁぁぁ……! 焼き立てのパイ生地から、芳醇な発酵バターと白ワイン、そして深海オマール海老の香ばしい香りがふわあぁって広がって……たまりませんわ!」
ネレイダとセレスティアが目を輝かせ、さっそくフォークを握りしめている。
運ばれてきたのは、直径三十センチもの特製深海オマール・シーフードパイだ。
黄金色にこんがり焼き上がったサクサクのパイ生地の中には、ぷりぷりのオマール海老の身と、肉厚なホタテ貝柱、そして濃厚なホワイトクリームソースがぎっしりと詰まっている。
サクッ、ジュワッ……!
ネレイダがパイを口いっぱいに頬張り、幸せそうに頬を緩めた。
「んんん〜〜〜っ! サックサクの生地の中から、熱々でジューシーな海老の旨味と濃厚なクリームが溢れ出して、隠し味のルビーベリーの甘酸っぱさと完璧に調和しているわ! 昨夜の死闘で空っぽになった魔力回路の隅々まで、天上の幸福が満ちていくようだわ!」
「本当に美味しいですわ……!」
セレスティアも上品に口元を押さえながら、満面の笑みを浮かべてパイを味わっている。
「ギル、お前も食えよ。肉ばかりじゃ体に毒だぜ」
アリューシャが笑いながら言うと、ギルは特大ジョッキの珊瑚麦酒をグイッとあおり、プハッと息を吐いた。
「おうよ! 最高の酒と最高のパイ、そして最高の仲間だ! これ以上の幸せがあるかってんだ!」
仲間たちの笑顔を見つめながら、アリューシャも大きく切り分けられたパイを口へ運んだ。
香ばしいパイの旨味が広がり、戦いの疲れが心地よく溶けていく。
「さて、リーダー。次はどの階層に潜る?」
ネレイダがフォークを置き、悪戯っぽく微笑みながら尋ねてくる。
「まだ第八十一層からの未踏破海溝が待ってるぜ」
アリューシャがニッと笑うと、仲間たちも力強く頷いた。
剣を握り、魔法を放ち、仲間とともに未知の深淵へと挑む。
冒険者たちの戦いと絆の物語は、この深海都市で、これからも続いていくのだ。




