第四話:『安全装置』の発動! 規格外の破壊を中和せよ
プロローグ:規格外の破壊と、絶対的な「標準」
最強の力は、常に制御不能な危険と隣り合わせだ。
攻撃力(STR)250を誇るゼノの**『過剰破壊』。その一撃は、魔物だけでなく周囲の環境、そして仲間すら巻き込む可能性を秘めた暴発寸前の爆弾**である。
**『影の森』**のボス、**影狼**との戦闘が始まり、ゼノの力は限界を超えて暴走を始めた。赤黒く揺らぐオーラは、ゼノの意思を無視して、すべてを無差別に破壊しようと膨れ上がる。
誰も、その力に触れることはできない。ゼノに近づけば、彼らの極端なステータス特性が、暴走をさらに加速させてしまうからだ。
この絶体絶命の状況で、動けるのはただ一人。
俺、レオン・アスター。
全ステータス『50』。この世界で最も**「均一」で「標準」**な周波数を持つ男。
俺の役割は、ゼノの荒れ狂う**「規格外の極端」を、自身の「規格内の絶対的な標準」で中和**し、制御可能な状態へと引き戻すこと。
**『安全装置』**の発動。
それは、派手さとは無縁の、命懸けの**「調整」作業だ。平凡な俺の『50』の波動が、最強の爆発を防ぎ、勝利へと導く鍵**となる。
(本編へ続く)
ダンジョンの奥から響いた**「影狼」**の唸り声は、静かな森の空気を切り裂いた。
「来るぞ。レオン、配置につけ!」
ゼノの声に緊張が走る。俺は言われた通り、三人の後方、**『標準的な距離』**を保った位置に移動した。この距離なら、三人の攻撃に巻き込まれず、かといって指示が聞こえないほど離れすぎない。まさに『50』が導き出した安全地帯だ。
ギィン!
銀色の軌跡が閃光のように走り、ゼノが腰の神剣を抜いた。攻撃力(STR)250のオーラが放出され、周囲の空気が熱で歪む。
「フィリア、カイン! いつもの通り、**『限界出力』**だ!」
「了解!」フィリアが詠唱を始める。彼女の魔力(MAG)300が、空中に巨大な魔法陣を描き出す。カインはすでに姿を消し、器用さ(DEX)210による『超加速』で影狼の周囲を駆け回っているはずだ。
ボスの影狼は、漆黒の毛皮を持つ巨大な魔物だ。通常、この階層のボス相手なら、ゼノの剣の一閃でカタがつく。だが、今回は違う。ゼノは本気だ。本気で**『過剰破壊』**の特性を発動させる気だ。
ガキィン!
ゼノと影狼の牙が激しくぶつかり合う。一見、拮抗しているように見えたが、ゼノの表情が徐々に苦痛に歪み始めた。
「くそっ、抑えきれない! **『過剰破壊』**の特性が、周囲の岩盤まで破壊しようと……!」
ゼノの剣に込めた力は、単に魔物を両断するだけでなく、その**『存在そのもの』**を破壊する特性を持つ。しかし、その力はあまりにも強大すぎるため、ゼノの意思と関係なく、無差別に破壊を撒き散らそうと暴走し始めるのだ。
ゼノの身体から噴き出すオーラが、赤黒い炎のように揺らぎ、不安定になる。このまま暴走すれば、影狼どころか、ダンジョンの天井が崩落し、俺たち全員が生き埋めになるだろう。
フィリアが慌てたように叫ぶ。
「ゼノ! まずい、魔力が**『標準値』**から離れすぎているわ! 私の調整魔法では間に合わない!」
「カインも動けねぇ! こいつの暴走オーラが強すぎて、**『標準的な接近』**すらできねぇ!」カインの声が、遠くの壁の陰から聞こえた。
誰も彼に触れられない。彼らの能力は極端すぎて、暴走するゼノの規格外の力に、さらに拍車をかけてしまう。
ここで、俺の出番だ。俺にしかできない、最も地味で、最も重要な役割が。
俺は両手を前方に突き出した。
「ゼノさん! **『50』**で中和します!」
俺の全身から、微かに、本当に微かに、無色のオーラが溢れ出す。
全ステータス『50』。
その数値は、**『この世界における最も安定した周波数』だ。高くも低くもない。強烈でも弱々しくもない。ただひたすらに『均一』**であること。
俺の均一なオーラが、ゼノの荒れ狂うオーラへと、静かに、しかし確実に**「浸透」**していく。
それは、嵐の中に放り込まれた、小さな石ころのようなものだ。だが、その石ころは、完璧な質量と完璧な速度を持っている。
「っ……なんだ、この…波は……!」
ゼノの荒れ狂う力が、一瞬、戸惑ったように揺らいだ。ゼノの力が**『規格外の極端な破壊』なら、俺の力は『規格内の絶対的な標準』**。
俺の**『50』の波動は、ゼノの『250』の暴走周波数に、強制的に『平均』**の概念を植え付けていく。
「いける! これだ、俺の力を、この『50』の波に乗せろ!」
ゼノの表情が苦痛から解放され、戦士の鋭い顔に戻った。暴走の炎が収束し、再びゼノの剣にのみ集中していく。
暴走寸前だった**『過剰破壊』の特性が、俺の『標準的な波動』によって一時的に「制御可能な最大出力」**へと引き戻されたのだ。
「フィリア! **『安定した詠唱』**を頼む!」
「ええ! 今ならできる!」
俺の**『50』による安定した波動は、フィリアの魔法陣にも影響を与えていた。彼女の魔力は、初めて「安定した状態」**で維持され、極限まで高められた魔法が、正確に影狼の退路を断つ。
影狼はフィリアの魔法を避けようと動くが、カインがその一瞬の隙を逃さない。
「もらった! **『標準の安定』**があれば、一瞬の静止も可能だ!」
カインは通常、止まれない。だが、俺の『50』が作り出した安定した波動空間の中では、彼は初めて、**『止まる』**という静的な行動を完璧に成功させた。影狼の動きが止まった瞬間に、カインは急所を狙って投げナイフを放つ。
影狼は怯み、動きが完全に鈍った。
「終わりだ!」
ゼノの剣が、まるで研ぎ澄まされた光線のように、一点の迷いもなく影狼の心臓を貫いた。
ドオォン!
影狼は砂のように崩れ去り、その場に大量の魔石とアイテムを残した。
俺は安堵のため息をつき、崩れ落ちた。全ステータス『50』の俺にとって、あれだけの強力なオーラを中和するのは、全身の魔力を使い果たすほどに過酷な作業だった。
ゼノは剣を納め、汗を拭いながら俺に近づいた。
「レオン。よくやった。いや、よく生きていた」
ゼノは真剣な眼差しで続けた。
「君の**『50』がなければ、俺たちは自滅していた。俺たちの力は、まさに『暴発する爆弾』だ。君は、その爆弾を『制御されたミサイル』**に変えたんだ」
「俺は、ただ……**『普通』**にしただけです」
「その『普通』が、俺たちには奇跡なんだよ」
フィリアとカインもやってきた。カインは不機嫌そうにしながらも、少しだけ表情を緩めた。
「補欠のくせに、俺たちより重要な役割かよ……ちくしょう、認める。お前の**『50』は、確かに必要**だ」
こうして、全ステータス『50』の俺は、最強パーティの補欠として、初めてのダンジョン攻略を成功させた。
俺の役割は、派手な戦闘ではない。しかし、この**地味な『安全装置』**こそが、最強パーティが世界を救うための、絶対的な鍵なのだと知った。
(続きは次回)
**第四話「『安全装置』の発動! 規格外の破壊を中和せよ」**をお読みいただき、誠にありがとうございます!
今回は、いよいよレオンの**全ステータス『50』**という能力が、最前線でどのような役割を果たすのかが明確になりました。
ゼノの**『過剰破壊』による暴走、フィリアの魔法の不安定化、カインの行動制限。最強であるがゆえに生じたそれらの「致命的な欠陥」を、レオンの『50』の均一な波動**が完璧に中和し、制御された力へと変換しました。
レオンは、派手な英雄ではありません。しかし、彼こそが、最強のパーティがその**「規格外の力」を安全に、そして最大限に発揮するために絶対的に必要な『安全装置』であり、『制御盤』**であることが証明されました。
最弱の補欠が、最強の戦士たちの命綱となった瞬間です!
さて、ボス戦を終え、パーティは一旦ダンジョンから帰還します。しかし、最強パーティの任務は、ただ魔物を倒すだけではありません。
次話では、レオンの**『50』の能力が、戦闘時以外の「日常的な側面」**で、さらに大きな力を発揮することが明かされます。
なぜなら、カインは「普通の速度で歩く」だけでなく、**「普通の情報収集」も苦手。そして、フィリアは「普通の火」だけでなく、「普通の計算」や「普通の判断」**も苦手になっているようで……?
レオンの地味で平凡な『50』の活躍は、まだまだ続きます!
第五話も、ぜひご期待ください!
作者:nice貝




