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第三話:『50』のファイアと、神剣使いの『普通の歩き方』

プロローグ:最強の舞台と凡庸の「歯車」

全ステータス『50』。

その数値は、もう**「凡庸」**の烙印ではない。

それは、規格外の英雄たちが失った、この世界の**「標準スタンダード」**を体現する、唯一無二の才能だった。

ゼノの過剰破壊オーバーキル、フィリアの制御不能な魔力、カインの止まれない超加速。最強であることの代償として、彼らは**『普通の火』を灯すことも、『普通の歩き方』**で警戒することもできなくなっていた。

俺、レオン・アスターの**『50』は、その致命的な欠陥を埋めるための「安全装置」。彼らの爆発的な力を、世界という規格の中に収めるための「緩衝材」**だ。

そして今、俺は、最強のパーティと共に**『影の森』**ダンジョンへと足を踏み入れる。

俺の最初の任務は、フィリアのために安定した炎を灯し、カインに代わって静的な偵察を行うこと。

派手さはない。地味で、基礎的で、誰にでもできるはずの仕事。

だが、このパーティにとっては、俺の**『50』**でしか成しえない、決定的に重要な役割だ。

平凡な俺の**「標準」が、英雄たちの「規格外」**をどう支え、どう噛み合っていくのか。

最強の舞台で、最弱の補欠の静かな戦いが始まる。

(本編へ続く)

翌朝、俺たち【天剣の光芒】の四人は、学園の裏手にある転送陣から、任務の舞台である**『影の森』**へと転移した。

「レオン、いいか。ここは比較的浅い階層だが、油断はするな」

ゼノは腰に下げた神剣**『スターバースト』**に手をかけながら言った。その圧倒的なオーラだけで、周囲の魔物は逃げ出しそうだ。

「はい。心得ています」

俺は装備を再確認する。俺の武器は、学園の購買で買ったごく普通のショートソード。防具も、ステータス『50』の俺に合わせて作られた標準的な革鎧だ。何の特殊性もない。

ダンジョン内は、昼間だというのに薄暗い。湿った土の匂いが鼻をつく。

フィリアが周囲を警戒しつつ、俺に話しかけてきた。

「レオン、少し休憩しましょう。魔力調整をしたいの」

「わかりました」

フィリアは腰を下ろすと、少し恥ずかしそうに言った。

「それで、お願いできるかしら? **『普通の火』**を」

「お任せください」

俺は魔力を練り、ごくシンプルな初級魔法を構築する。

【ファイア】。

俺の魔力(MAG)は『50』。フィリアの300に比べれば微々たるものだ。だからこそ、俺の魔法は、余計な**「特性」**を発現させない。

パチン、という小さな音と共に、俺の掌の上で、暖かく、安定した炎が灯った。それは、焚き火の火や、ランプの火と同じ、何の変哲もない火だ。

フィリアは感動したように、その炎をじっと見つめた。

「ああ……なんて、美しいの」

「美しい、ですか?」

「ええ。見て。火力は一定で、揺らぎが少ない。私の**【ファイア】は、最小限に抑えても、すぐに爆発的な熱量を帯びてしまう。この『安定性』**こそ、私の魔力調整には不可欠なのよ」

フィリアは、灯された普通の火をゆっくりと両手で包み込み、自分の魔力と炎の**『標準』**を比較しているようだった。

その間に、ゼノがカインに指示を出した。

「カイン、周囲の警戒をお願いする。罠の確認もだ」

「ちっ……わかりました」

カインの器用さ(DEX)210は、驚異的なスピードで動くために存在する。彼は一瞬で壁を駆け上がり、天井の陰に身を潜めた。

だが、五秒後。

「くそっ、じっとしていられない!」

カインは苛立った様子で、天井から飛び降りてしまった。彼は、周囲を警戒しながら**『ゆっくりと歩く』ことができないのだ。彼の身体は常に『超加速』**を求めている。

ゼノは深くため息をつき、俺を見た。

「レオン。偵察と、罠の解除を頼む。**『普通の歩き方』**でな」

「了解です」

俺はショートソードを抜き、腰を低くする。

器用さ(DEX)50。平凡な探知能力だが、その代わり、俺の身体は**『標準的な速度』で動くことができる。一歩一歩、慎重に地面を踏みしめる。不自然な地面の窪み、空気の僅かな違和感。全てを『標準的』**な感度で捉える。

五分後、俺は進行方向の足元にある、隠された糸を見つけた。これは、踏み込むと天井から毒針が降ってくる罠だ。

「ゼノさん、罠を発見しました。ここから三歩先に、毒針の罠です」

「見事だ、レオン! カイン、今のをどう思う?」

カインは悔しそうに顔を歪めた。

「ちくしょう。俺なら一瞬で通り過ぎるから、罠に気づく必要もない。だが、**『停止した状態』**から罠を見つけ出すのは、俺の『超加速』の特性が邪魔をして、集中できない……」

彼ら最強パーティのメンバーは、その能力が**「動」に極端に傾いているため、「静」**の行動が致命的に苦手なのだ。

そして、俺の地味な**『50』の静的な能力**が、彼らの命綱になっていた。

罠を解除し、フィリアの魔力調整も終わった。

ゼノは満足そうに笑った。

「見てみろ、レオン。君がただ『普通』に火を灯し、『普通』に歩き、そして『普通』に罠を見つけた。俺たちの誰にもできないことを、君はやってのけたんだ」

「『50』の俺は、あなたのパーティの**『ブレーキ』**なんですね」

「ブレーキか。いい表現だ」ゼノは目を細めた。

「だが、ブレーキは、車を速く走らせるためにも必要なものだ。君のおかげで、俺たちは初めて、迷いなく全力を出せる」

その時、ダンジョンの奥から、低い唸り声が響いた。この階層のボス、**「影狼シャドウウルフ」**だ。

ゼノの顔つきが一変した。

「来たぞ。レオン、君は俺たちの後方にいろ。ただし、必ず**『標準的な距離』を保て。もし俺のオーラが暴走しそうになったら、君の『50』の波動で俺を『標準』**に引き戻せ。いいな?」

「はい!」

俺は改めて、自分の役割の重要性を理解した。

俺は戦闘要員ではない。俺は、最強の性能を発揮するための**『安定板』**なのだ。

(続きは次回)

**第三話「『50』のファイアと、神剣使いの『普通の歩き方』」**をお読みいただき、誠にありがとうございます!

今回は、いよいよレオンの**「50」という地味な能力が、最強パーティ【天剣の光芒】の活動において、どれほど決定的に重要**であるかが具体的に描かれました。

フィリアが灯せない**「普通の火」。

カインができない「普通の歩き方」**。

最強であることの弊害を、レオンの**「標準スタンダード」が完璧に埋めていく様子は、まさにこの物語の核心です。レオンはもはや、ただの補欠ではありません。彼は、パーティの「制御システム」**として欠かせない存在となったのです。

しかし、物語はここで終わりません。

ダンジョンの奥からは、ボスの**「影狼シャドウウルフ」**の唸り声が響いています。

次話では、レオンは後方で待機するだけではありません。最強パーティが全力を出すとき、彼らの**「過剰な力」**は暴走の危険を伴います。

レオンの**『50』の波動による「暴走の調整役」**という、最も危険で、最も重要な役割が試される時が来ます!

最強の力を安定させる最弱の歯車が、いかにしてパーティを勝利に導くのか?

第四話も、ぜひご期待ください!

作者:nice貝

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