第二話:『50』に秘められた真実と、最強が抱える「致命的な欠陥」
プロローグ:最強の「欠陥」と凡庸の「役割」
全ステータス『50』。
それは、努力を否定する絶対的な**「凡庸」の壁。だが、最強のパーティ【天剣の光芒】のリーダー、ゼノ・クレイオスは、俺のその平凡さを「必須」**だと断言した。
ゼノ、フィリア、カイン。彼らは、ステータスが100を超えることで、規格外の力を手に入れた英雄たちだ。その力は、魔物を一瞬で塵に変え、数日先の未来さえ予知させる。
しかし、その強大すぎる力は、同時に彼らから**「平凡」**という概念を奪っていた。
剣士は**『普通の剣』を振るえず、魔女は『普通の火』**さえ灯せない。彼らの極端な能力は、単純で繊細な行動を許さない、致命的な欠陥となっていたのだ。
最強のパーティは、自分たちの**「規格外」を制御するため、唯一無二の「標準」**を求めていた。
そして、その「標準」こそが、俺、レオン・アスターの**全ステータス『50』**だった。
万能職の俺に課せられた役割は、英雄たちの**「安全装置」。彼らの暴走する力と、世界の常識との間に立つ「緩衝材」**だ。
平凡を極めた俺の能力が、今、最強の舞台で初めて**「才能」**として認められる。
これは、最強パーティの**「影」となり、彼らの欠けたピースを埋める補欠**となった男の、静かな英雄譚の始まりである。
(本編へ続く)
静寂が、俺の**『50』**の心臓の鼓動を強調する。
扉を開けて入った先にいたのは、三人の規格外の英雄たち。
「遅いぞ、レオン。さあ、説明しよう。君が補欠に選ばれた、本当の理由をな」
リーダーのゼノ・クレイオスは、身を乗り出し、真っ直ぐに俺の目を見た。その圧倒的な覇気に、俺は思わず居住まいを正す。
「単刀直入に言おう、レオン」ゼノは続ける。「君のステータス**『50』は、この世界における『バグ』**だ」
「バグ……ですか?」
俺は困惑した。バグとは、システム上の欠陥を指す言葉だ。俺の平凡さが、欠陥だというのか。
「そうだ。一般的な冒険者は、ステータスが100を超えると、その**『特性』**が強烈に発現し始める」
ゼノは自分の剣を指差した。
「例えば俺の筋力(STR)は250。その特性は**『過剰破壊』**だ。俺が振るう剣は、単なる物理攻撃ではなく、敵の存在そのものを概念的に破壊する。強力だが、その分、周囲への影響も規格外だ。町中や、複雑なダンジョンで本気を出せば、俺たちの仲間すら巻き込む可能性がある」
続いて、紅一点のフィリア・ノエルが、静かに頷きながら口を開いた。彼女の魔力(MAG)は300に迫る。
「私の魔力(MAG)は、『星詠み』の特性を持つ。発動すれば、数日先の未来さえ予測し、広範囲の敵を一掃できる。しかし、魔力が100を超えた頃から、精密な調整が難しくなった。特に、詠唱を必要としない**『初級魔法』**を使うのが極端に苦手なの」
「苦手、ですか?」
「ええ。例えば、炎を灯すだけの**【ファイア】を使おうとしても、魔力が制御できず、小さな火花ではなく、制御不能な火球**になってしまう。繊細さが、全くないのよ」
そして、最後にカイン・バレット。影のように佇む彼は、**器用さ(DEX)**がずば抜けている。
「俺の器用さ(DEX)は210。特性は**『超加速』だ。戦闘では、一瞬で敵の背後に回れる。だが、これもまた制御が難しい。特に、『待ち伏せ』や『情報収集』**といった静的な行動に移ると、身体が動いていないことに苛立ち、逆に集中力が散漫になる」
三人の話を聞き、俺は理解しかけた。彼らは、間違いなく最強だ。だが、その最強は同時に**「極端」**なのだ。
「つまり……」俺は口を開いた。「あなたたちは、ステータスが高すぎるせいで、平凡で単純な行動が苦手になっている、ということですか?」
ゼノはニヤリと笑った。
「その通りだ、レオン。それが、最強パーティ【天剣の光芒】が抱える、致命的な欠陥だ」
最強パーティが渇望するもの
ゼノは立ち上がり、俺の肩に手を置いた。その手から伝わる膨大な力に、俺の『50』の筋力が悲鳴を上げそうになる。
「俺たちが求めるのは、高すぎるステータスゆえに失ってしまった、**『標準』**だ」
ゼノは続けた。
「例えば、フィリアは【ファイア】の火力を微調整できない。カインは、ダンジョン内で警戒しながら**『ゆっくり歩く』ことができない。俺は、剣に魔力を込めることなく、ただの『鉄塊』**として振るうことができない」
「そこで、君の**『50』**だ」
ゼノは、俺のステータス・ウィンドウを指差した。
「君の全てのステータスが**『50』で固定されているというのは、つまり、君の肉体と精神が、常に『標準値』**を維持しているということだ。君は、この世界で唯一、極端ではない行動を取れる人間なんだ」
「君の『万能職』は、全てのステータスの特性を**『平均』に保ち、どんな行動も『標準的な効率』でこなせる能力だ。俺たちの過剰な力を、君の『50』で『中和』**してもらいたい」
俺は全身に衝撃が走るのを感じた。
俺の平凡さ、欠点だと思っていた『50』が、彼らの**「最強の欠点」**を埋めるための、唯一無二の才能だったというのか。
「具体的には、君には**『補欠』**として、次の二つの役割を担ってもらう」
ゼノは鋭い目で告げた。
「一つ。ダンジョンの偵察、罠の解除、そして日常的な生活全般における『標準的な行動』。これはカインが苦手とする」
「そして二つ目。俺たちの魔力やオーラが暴走しそうになった時、君の**『50』の標準的な波動で、『調整役』**になってもらうことだ」
最強パーティの補欠。それは、ただの予備戦力ではない。
彼らの強大すぎる力の、「安全装置」。
俺は、意を決して顔を上げた。
「……わかりました。全ステータス『50』の俺にできることなら、喜んで務めさせていただきます」
「よく言った、レオン!」ゼノは満足そうに笑った。「さあ、レオン。初の任務だ。明日、俺たちは**『影の森』というダンジョンに入る。君の最初の任務は、フィリアが『魔力の調整』のために必要な『普通の火』**を灯すことだ。普通の火だぞ」
普通の火。
レベル12の俺にとって、それは初級の**【ファイア】**魔法で簡単にできることだ。だが、魔力300のフィリアには、それができない。
俺の『50』は、ついに、最強のパーティで輝く場所を見つけたのだ。
(続きは次回)
**第二話「『50』に秘められた真実と、最強が抱える『致命的な欠陥』」**をお読みいただき、ありがとうございます!
これでついに、主人公レオンが最強パーティ【天剣の光芒】に補欠として選ばれた本当の理由が明らかになりましたね。
最強であることの代償——それは、**「平凡」という概念の喪失でした。ステータスが極限まで高まった結果、彼らは『普通の行動』**を取るという、最も基礎的なことができなくなっていたのです。
そして、俺たち読者にとっての「凡庸」の象徴だったレオンの全ステータス『50』が、彼らの欠点を補うための「標準」、すなわち**「唯一無二の才能」**へと反転しました!
レオンの最初の任務は、フィリアのために**「普通の火」**を灯すこと。
次話から、いよいよレオンは規格外の天才たちと共に、**『影の森』**ダンジョンへと足を踏み入れます。
魔力300のフィリアができないことを、ステータス50のレオンがどのように成し遂げるのか? そして、最強たちの**「欠陥」と、レオンの「標準」**が、どのように噛み合っていくのでしょうか?
第三話は、補欠レオンの地味で、しかし決定的に重要な**「活躍」**にご期待ください!
作者: nice貝




