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第九話:新たな家臣

「どうも!三雲です!つい昨日、二次元だけの事象だと思ってた勇者召喚に巻き込まれた挙げ句まさかの追放され、自分のオタク性癖に突き刺さりまくった犬神の狗凶と一緒にここ、アシハラ国復興生活をしてるんですけど・・・・・・美味しい川魚とイノシシ肉食べて熟睡した後・・・私が寝てる間になにがあった??」



何やら目が覚めてすぐ長ったらしい説明をしだした嫁殿を眺めながら俺は巨大な百足の胴体を引き裂いた掌をゆるりと振り払い、血を地に落として口元に薄く笑みを浮かべながら嫁殿を見た


「──ああ、おはようさん、嫁殿。いやぁ、いい寝起きの声だったぜ?」


ずるりと引きずるように百足の頭を持ち上げれば嫁殿の顔が明らかに引き攣った。おいおい、旦那様の雄姿を少しは褒めてくれよ


「あぁ、コイツな?なんか“この地の守り神だった”って奴の成れの果てらしい。朝目が覚めたらあろうことか屋根の上からお前を狙ってたんで」


トン、と百足の頭を投げて転がしながら、にぃ、と唇を吊り上げる


「この俺様が、ちょいと〝祓って〟やっただけだよ」


「祓う【暴力】の間違いでしょうに!!」


歩み寄り、寝起きの髪にふてくされた顔の嫁殿をひょいと抱き上げるように持ち上げ頬を指先でちょん、と突いてやれば少しだけ嫁殿が身じろぐ。


「けどま、朝っぱらから可愛い寝顔見れて癒されたし。今日の奉仕分はチャラにしてやらぁ」


「・・・・こんにゃろうめ」


「・・・あ?なにムスッとしてんだよ。あんな化け物の横でよく熟睡できたな、お前」


「色々あったから疲れてたんですぅ!!」


またムキになる嫁殿に額を軽くコツンとぶつけ俺は少し意地悪く笑いかける


「お前が隣で寝ててくれんなら、どんな異世界でも悪くねぇわ。なぁ、嫁殿──これが“スローライフ”ってやつか?」


「こんなスローライフあってたまるかあ!!!大体ーーー」


そう嫁殿が言いかけたと同時に先ほど倒された百足の亡骸が煙をたてながら朽ち果て始めた。しかしソレはみるみるうちに着物姿の女へと姿を変えると俺たちの前に膝をつき頭を垂れた


一見、まるで花魁のごときいで立ちだか、その口元は凶悪なムカデのソレで居て


・・・普通の人間が見たら腰抜かすなコイツは


「・・・・圧倒的なそのお力・・敵ながら見事でございました」


女の姿に変わってゆく百足を見下ろし、俺は軽く舌打ちをする


「・・・ったく、今度は人型かよ。女に化けてりゃ情けをかけるとでも思ったか?」


懐から煙管を取り出し、ゆらりと火を灯す。白煙を吐きながら、俺は隣の嫁殿には触れさせまいと無言で一歩前に出た


「敵ながら見事、だぁ?言葉遣いは立派だが、・・・テメェこの地の神だった奴か?」


煙管を握った指に力がこもり体に満ちた犬神の呪力が静かに漏れ出し始める


「言えよ。てめぇは“何”だ。・・・三雲に手ェ出すつもりで寄ってきたんなら、どんな面してようが容赦はしねぇ」


「・・・畏れ多くも。私はこの地を縄張りにしていた血食百足(ブラッド・センティピード)でございます。」


女・・血食百足は艶やかな黒髪を揺らして俺たちを見ると静かに笑みを浮かべ話をつづけた


「餌も取れず飢えによりもはや理性を保てず、あなた方を襲ったのは事実。ですが、そこなる殿方の無双のお力により・・暴走が収まったのです」


血食百足の言葉に俺は笑いながらも、腰の大太刀には手をかけたまま言葉を続ける


「ほぉ・・素直に負けは認めてるって訳か・・・ならお前をどうしようと俺の自由だよな?」


すると、俺が今から何をしようとしているのか察したらしく半歩前に出ようとした俺の体を嫁殿が掴み、引き留める


「ストップストップストップ!!あんだけボコボコにしたんだからもう少し穏便に・・」


「あ、あのぉ・・・」


その時、ふと幼子の声が周囲に響く。ぐるりと視線を落とせば俺の足元には一人の子供の姿。


「んだ、ガキがいたのかよ。おっかねぇ顔して脅かしちまったな」


「え?・・・ちょ、狗凶さん?この子はいったい・・・」


嫁殿の言葉に編み笠を被った和服の子供は深く頭を下げて笑みを浮かべた


「助けていただきありがとうございました。ぼく、ドライアードです。・・・あ、ここアシハラでは木霊こだまって呼ばれてるんですけど・・そこの百足のお姉さんに食べられかけてた所を助けてもらったんです」


「!・・・狗凶が?」


おいコラ、そんな珍獣見るような目で見んじゃねぇや。仕方なくだよ。仕方なく。


俺は小さくため息をついてしゃがみこみ、煙管をくわえたまま優しく木霊の頭をわしゃっと撫でた


「ドライアード、いや・・・“木霊”だったか?森の精霊が子どもの姿で出てくるたァ・・・やっぱこの国、妙な懐かしさがあるわ」


「えと・・・この辺りに住んでた“こだまたち”は、みんな、ある事がキッカケで眠ってしまったんです。…でも、お二人が昨日ここに入って来たのを見て・・イブキ様から『アシハラをまた蘇らせる事の出来る大事な夫婦様』だってお伺いしまして・・」


・・あの白蛇、中々粋な事するじゃねぇか。


すると、俺と嫁殿を交互に見た後にくりっとした目を潤ませながら木霊は口を開いた


「あのっ、お姉さん・・いえ!奥方様!」


「オクガタサマ???」


「こちらの旦那様からもそうだったんですが・・奥方様からも物凄い魔力を感じるんです!魔物を使役することが出来る召喚士のような・・」


「召喚士?・・・あー・・・」


木霊の言葉にふと、嫁殿の表情が少し曇る。やがて観念したかのように小さく言葉を漏らした


「・・・ウチの実家、陰陽師の一族だから」


「オンミョウジ??」


・・・あぁ、こっちじゃ陰陽師なんてモンは存在しないのか。


それに嫁殿の家・・早蕨の家は陰陽師ではあっても人間に対して害の深いモノ、犬神を祀る家系・・言いなれば呪い屋のようなものだった。・・・だから嫁殿は大学に入学と同時に実家を出たんだったな。


「・・・たしかに早蕨の一族は全員性根の腐った奴らばかりだったが・・お前はちがうだろ?」


そっと嫁殿の頭を撫でるように触れ、その顔を覗き込む


「・・・お前の魂は、誰よりも優しい。ソレを俺が一番よくわかってる・・」


「狗凶・・・・」


「なぁ、嫁殿。忘れんなよ。お前の中にある力ってのは、誰かを呪うためじゃねぇ。俺が言ってんだ。信用しとけ、自分を」


「あ、あの!僕もそうだと思います、奥方様の魔力は・・ほんのり“優しい”です。旦那様の力はちょっと、“重くて痛い”けど・・・奥方様のは、ふんわりしてて・・・安心するような、包まれるような・・・」


「重くて悪かったな。・・・だがそれで丁度いいんだ。俺が喰らってやる。嫁殿の痛みも、怒りも、悲しみも、全部な。・・だからお前の“陰”も“陽”も、全部俺が喰って、形にしてやるよ。・・この異世界で、お前の力が“災い”と呼ばれるなら――その災い、俺が全部受け止めてやる」



安心させるように嫁殿の耳元に顔を寄せて囁けば小さく「・・ばか」と罵る声がその口から洩れた。どうやら少し元気を取り戻したらしい。やっぱりお前はそうでなきゃな


すると、先ほどまで静かに俺と嫁殿の会話を聞いていた木霊が何かをひらめいたらしく嫁殿を見上げる


「・・・あ、あの!!奥方様!僕を式にしてください!!」


「・・・・はい???」


「なれば・・この私めもどうか、貴方様、式に」


・・・・・あァ?


そろいもそろって木霊に百足が何をほざいてやがんだ?


突然の提案に静かに、そして確実に地がヒビ割れる。煙管が口からこぼれ落ちたがそんな事今は気に掛ける事じゃあねぇ。俺は目を伏せ、顔を覆い、二匹に尋ねた


「ちょいと確認だが、お前ら・・・ウチの嫁を、誰のモノにするつもりで、その口を開いたんだ?」


「ひいっ!?い、いえ!!そのっ!ちがっ!!僕はただっ!!こ、光栄なだけで!!あの!その!」


「私も、仕えると言いましたが・・決して、妾妃などとは言っておりませぬ。どうか、お許しを」


うるせぇな。とりあえず今お前たちの意見は聞いてねぇ。


俺はズカズカと嫁殿に近づき、腕をガシッと抱き寄せ耳元に荒い息をこぼしながら低く、唸るように尋ねた。


「・・・なぁ、嫁。お前、知らなかったか?世界にゃ、“契約”=“婚姻”扱いされる土地も多いんだよ」


「え?あ、あー、よく神話であるよねいだだだ!?強い!!ハグの力がバカ強い!!」


がっしりと嫁殿の肩を抱き込んだまま、周囲に威圧を向ける。己の臓腑の奥底からじわじわと嫉妬混じりの呪気が立ち昇るのを感じるがどうでもいい




「木霊も、百足の女神も・・・お前と式契約結んだら、それこそ“俺の嫁に触った”ってことになんだよ・・・なぁ三雲。“式”が欲しいってんなら、俺の式になり直せ。もう一回、“呪縛”の契約、結び直してやる。目の前で」


なんとか冷静な声を保とうとするが、吐息は熱く、掌の力は強まっていく


「ストップストップ!!あの!!なんか修羅場がね!?修羅場がはじまりそうだから!!」


必死に嫁殿が俺の肩を叩くが、その時木霊が慌てて声を上げ、俺の前にひれ伏した


「だ、だったら!!僕たち、狗凶様の・・・いえ!殿の家来になります!!!」


「ほら!聞いたでしょ狗凶!!家来になりたいって・・・・・KERAI??」


木霊の出した提案に嫁殿がぽかんとしていると今度は百足も深く頭を下げた


「大殿の奥方様を想う念、この身にひしひしと感じました・・そして我ら強き魔物は自らを倒した物の下に仕えるがアシハラの習わし・・・どうか、大殿・・・


二匹の様子に自然と片眉が上がる。煙のような呪気がぴたりと止まり、そして次の瞬間、深く低い笑い声が俺の口からこぼれた


「・・・ははっ、なるほどな。お前ら、“俺に仕える”ってんなら話は別だ」


ふっと頬を指でこすりながら、だが視線はしっかり嫁殿に向けながら俺は少し意地悪そうに微笑む


「なぁ、嫁。聞いたか?」



呆けたままの嫁殿の手を取り、軽く指先に口づけるようなそぶりをしてさらに話を続ける


「つまり、こういうことだ。“俺のモノに仕える奴は、全員まとめて俺の管理下”。・・・間違っても、“嫁殿に言い寄る”とか、“可愛い奥方様に口説かれた”なんて思ってねぇよな?」


「もちろんですとも!!僕は草履取りでも薪運びでも何でもします!!掃除も料理も!お茶もいれます!!だから呪詛だけはご勘弁を!!」


「我が身は百足の霊に過ぎませぬ。奥方様は天より尊きお方…ただただ、その加護の下で仕えさせていただければ幸甚にございます」


・・・よし。このくらいドス聞かせて唸っておけばこいつ等もバカな考えは起こさねぇな。



「上等だ。俺の庇護下に入った以上、手ぇ出す奴は“全て”俺が喰らう。・・・それが、狗神の旦那ってやつだ」


そして再び嫁殿の腰に手を回し、肩を引き寄せながら俺は言葉をかける


「安心しろよ。お前の側にいる奴は全員、“俺の目”が光ってる。・・・これが異世界でも、嫁を守る旦那の義務ってやつだ」


「ナニガドウシテコウナルノ??」


相変わらず呆けたままの嫁殿を見て俺は肩をすくめて笑う



「つーわけで、今日から俺たちは“アシハラ村復興チーム”。メンバーは、俺・嫁殿・ドライアード・大百足っと・・スローライフってやつは、波乱含みのほうが面白ぇからな」






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― 新着の感想 ―
拝読いたしました! 狗神・狗凶という古代的な呪物存在を中心に、異世界召喚という定番をまったく別の角度から描く発想が秀逸でした。 呪詛値999という“災厄”の烙印を背負いながらも、嫁殿を想う一心で暴走…
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