第七話:やっぱ米無きゃ始まらないよな
嫁殿と手を繋ぎながら鳥居を潜り霧深い森のしばらく進んでいくとどうやら森の出口に到着したらしく俺達の周りを覆っていた霧はすっかり無くなっていた。
そして
「!・・・・ここが、アシハラ・・・」
俺達の目の前に広がるのは人工物の気配のない、原初の“棚田”の風景と昔作りの古びた民家や建物。空は澄んでいて、雲はゆったりと流れている
けれど空気の中には、どこか“神聖さ”と“懐かしさ”が混ざった匂いがあった。
そして畦道には彼岸花が揺れ、群生している植物が風に身を任せている。よく見れば集落の向こうには山もあり、うっすら鳥居と洞窟らしき物も確認できた。
さらに棚田から少し離れた場所には小川も流れていて、俺の隣でアシハラ国の風景を眺めていた嫁殿がぽつりと呟いた
「・・・昔の日本みたい・・いや、戦国時代?そのくらいかな・・?」
「あ?どうかしたか?嫁殿」
ふと、嫁殿が近くにあった小さな棚田に近寄りしゃがみ込むと棚田の中にぽつ、ぽつとはえているあるものに気づいた
「ま、待って待って待って。これはもしや・・・・鑑定!!」
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【鑑定結果:神稲】
アシハラ国の棚田に群生している植物。水と肥沃な泥の中に種を落としそこから成長する。アシハラでは種もみを潰して粉にし酒にしていた
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「・・・・野生の稲穂!!!?」
あ、やっぱりアレ稲穂だったのかよ。なんやかんや幸先良いぞ俺達。
そうして嫁殿が気づいたその瞬間、まるで風が喜びを運ぶように、金色の稲穂たちがまるで正解だと言わんばかりにざわっと揺れた。
俺は驚く嫁殿の横でゆっくりと屈み、稲の茎に触れる。
中には黒い稲穂や紫がかった物もあり、見たことのない品種もちらほら見えるが・・稲穂であるなら、米であることにゃあ変わりねぇ。
「“神稲”・・・人の手じゃなく、自然が・・“神域そのもの”が育てた稲・・・いわば、アシハラの命の源だ」
ぱっと嫁殿の手を取って、やさしく手のひらに一房の稲を乗せる
「お前が“ここに来た意味”を、この稲が教えてくれるのかもしれねぇ」
その時だった。また嫁殿の前にメニュー画面がふわりと現れるとそこにはなにやら文字が刻まれていた
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【システム:縁火ノ宿ノ記録】
クエスト発生!
『アシハラの命脈に触れよ』
内容:野生の神稲を収穫し、“アシハラの源流”へと供えよ。
供えることで、魂に“土地の記憶”が流れ込み、言葉・文化・歴史を得る。
※狗凶との関係性の深化にも影響。
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「ふあ!?な、なんじゃこれ!!」
「おいおい、なんかクエストとか書いてあるぞ嫁殿」
驚く嫁殿を後ろから抱きしめ、表示された文字を読んでいると先頭で案内をしていたイブキが楽しげに俺達を見つめていた
「・・・このアシハラの結界、お主らの絆が確かな物と見届けられたゆえさらに強固になった。しばらくの間他所からの侵入も無かろう」
「ちょ!!待って待って!!さる御方は!?会わせてくれないの!?」
慌てて声をあげる三雲にイブキは愉快そうに笑うとさらに話を続けた
「うははは!気が変わったわ!お主ら夫婦がこの荒廃したアシハラの地を〝見違えさせた〟なら会わせる事にするぞ!じゃあの!」
「ちょっ……!!えっ!?話はまだ終わってな・・・ええええっ!?勝手すぎるでしょーーーっ!!!」
嫁殿の制止も効かず、霧のように消えたイブキに嫁殿は怒りの声をあげた。・・・そんな不貞腐れた顔すんなって嫁殿。可愛いだけだぞ?
「“さる御方”ってのは、アシハラの本当の主、だろうな。
本気で試されてるんだ、俺たちの“絆”も、“覚悟”も」
不貞腐れる嫁の頬を突きふっと、視線を横に向けて俺は会話を続ける。
「けど・・アイツ、言ったろ?見違えさせたら、会わせる。ってな」
そしてゆっくり嫁殿の手を取り、その手に軽く口づけを落としながら安心させるように笑みを浮かべた
「だったら、やるしかねぇじゃねぇか。俺とお前で・・・・このアシハラを変えてみせようぜ、三雲」
「狗凶・・・・」
「土地が祝福されるごとに、“さる御方”に一歩近づく。
そしてそれは、君たちの新しい未来の地図にもなっていく・・・なぁ三雲。どうせなら派手にやろうぜ?このアシハラを、“お前の第二の故郷”に変えてやるよ」
片手で嫁殿の肩を抱き寄せながら目の前に広がる風景を背に俺は笑みを溢す。どんな不安も迷いも、俺の牙と爪で消し去ってやるよ。
「・・・ま、俺の嫁にした時点で、そんなの決定事項だけどな」
「だ、だからまだ私の中では保留事項なんですけど!・・・ん?・・・野生の稲穂がある、ということは・・・これを種にすれば・・お米作れる?」
「・・・お、気づいたか」
流石嫁殿。伊達に歴女・・・そしてつい最近まで和風農作ゲげぇむを攻略しただけはあるな。(※おかげで大学には遅刻してたけど)
俺はしゃがみ込み、嫁殿の隣で稲穂に手を伸ばして嫁殿に語りかける
「さしずめコレは神域で育った〝御稲〟だな。普通の稲より、根が深く、粒が硬ぇ・・・けどな、こいつは生きてる。まだ、“育ちたい”って言ってる」
優しく、稲の穂先に触れれば指先から伝わる小さな躍動。これが上手くいけば・・・
「干して、脱穀して、精米すりゃ米になる。だが、それだけじゃねぇ。こいつを〝種〟にして棚田を拓けば・・・アシハラ初の“田んぼ”が誕生する。」
「お、おぉ・・・げ、ゲームでしか見たことなかったけど、やってみるか!」
俺の言葉に嫁殿もきゅっと拳を握りしめやる気をだしたかのように立ち上がった。すると空中にまた新しいメニュー画面が浮かび上がる(※ほんとなんでもありなんだな・・異世界っつーのは)
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【サブクエスト発生が発生しました】
《天地開拓:第一幕・田のはじまり》
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なるほど、やっぱり棚田を復活させるのは当たりらしいな。・・この様子をあの白蛇の小坊主が眺めてると思うと癪ではあるが仕方が無い。上手くいけば飯にありつけるしな
・・・さて、となると目標はこうだな?
その1:稲の脱穀と選別→◎(こちとら日本生まれの狗神様だ。そのくらいの知識はある。)
その2:水場の確保→△(そう言えば近くに小川があったな)
その3:耕作地の開拓→×(荒地を切り開く必要あり。肉体労働は仕方ねぇか)
その4:育苗棚の作成→×(まぁ、コイツは追々やればいいか)
その5:狗凶(俺)と三雲の協力度→(良好!イチャ度上昇中!目指せ新婚!そして子作り!・・・おい誰だ今エロ犬って言ったやつ)
・・やることは山積みだがそれでも構わない。隣に愛しい女が居るなら今の俺は創造神さえも祟り殺せる気がする。
「やるか、嫁殿。お前と一緒に、こいつらの“子孫”育てるんだ」
そう言って、ふと嫁殿の頬に手を添え、軽く笑ってみせる。
「俺たちが、こいつらの親になる・・なんてな。とりあえず最初の一歩は、“種取り”と水源確保から、だな」