第4話:スキルだぁ?人の嫁に変なモンつけんな
さて、ここで物語らしく前回までのあらすじでも語ってみますか。
日本古来の呪詛であり妖怪、犬神であるこの俺こと狗凶は将来を誓い合った嫁殿である三雲と共に異世界に召喚されちまった・・ところがだ。
『この物を始末なさい!!』
・・・人を召喚しといて始末しろだなんて西洋の騎士様共は無礼な奴等ばかりらしい
が、異世界なんて見たこと無いのもまた事実・・・
嫁殿を背に乗せて聖騎士国【アーヴァロン】を逃げ出した俺達は懐かしい匂いに吊られてとある地に足を踏み入れたのだった
「・・・こ、こらあ!!そろそろ私を背中からおろしなさーい!」
あんな目にあったってのに巨大な犬の姿のままになっているオレの背中をぺちぺちと叩く三雲の様子に内心安堵する。まぁ・・それでこそ俺の嫁殿なんだけどな
「…おいおい、まだ三里(※こっちの世界の距離単位)も来てねぇってのに、そんなに暴れんなよ嫁殿。」
「な、なんかとんでもないことなってたんですけど!?もう少し穏便にできなかったんかい!!」
「いいや?あれでも俺的には抑えたほうなんだぜ?…そもそも、あの騎士ババァの国で処刑だの断罪だの言われた時に、俺の呪詛値999に気づかなかった時点で終わってたよな? “勇者召喚”とか笑わせんなっての。…なぁ?」
そう言って少し首を動かして、背中を振り返るように嫁殿を見上げてにやりと悪戯な笑みをすればどうやら俺に反省の色が見えない事がわかったらしく、嫁殿は頬を膨らませたまま俺の背中をべしりと叩いた(※痛くないしむしろ嫁殿への可愛さが上がったけどな!)
「…で、どうする?おろすけどよ。お前、着地と同時に足ぐねって『ふげ!』とか言いそうだよなぁ?」
「じゃ、じゃかしいわい!!・・っていうかっ!そろそろ人の姿とかに変化しなさいよ!喋れるならできるでしょ多分!でないと──っ…!」
と、言いかけて背中叩いてた嫁殿の手がぴたりと止まったかと思えばなにやら顔を真っ赤にしたままぷるぷる震えだした。いやぁ・・ほんと見てて飽きないわ。からかうとすーぐムキになるし。
「…ふ、ふわ…////く、くっそ…撫でたら負けな気がするっ…っ!」
「へっへっへ…負けちまえよ、三雲。どうせこの先、俺以外にお前を背負う奴なんていねぇんだからさ。」
そのまま眼前に広がる森に降りて嫁殿を背から下ろす。さてさて、あんまりからかいすぎて臍曲げられても困るしとりあえず大人しく言うこと聞いておくか
「で、人型になれ・・だったよな。」
静かに目を閉じれば森の中、どこか涼しげな風が吹く。巨大な犬の姿が、ふわりと煙のように揺らいでいき
次の瞬間、嫁殿の目の前に理想の人型になった俺を見せることにした
「・・・・こうだろ?」
片目を前髪で隠した漆黒の男。口元にはうっすら無精髭。黒羽織に“月に吠える犬神”の銀刺繍が揺れ、濁った青の瞳で嫁殿を真っ直ぐ見下ろして笑みを浮かべる。
以前嫁殿がすまーとほん、とやらに映し出されていた絵巻物によく描かれていた色男たちを思い出しながら俺なりに【嫁殿が思わず惚れこんじまう】ような人間の姿に化けてみた。
「で、人間の姿になった俺に抱きしめられんの、やっぱ嬉しい?」
どうやら俺の予想は的中したらしく真っ赤になりながら口を鯉のようにパクパクさせている嫁殿の顎に指を添え、そのまま腰に手を回して引き寄せる
「顔、赤ぇよ。……もしかして、ずっとこの姿、見たかった?」
ガラじゃねぇが耳元で、低く甘い声囁き悪い笑みを浮かべる
「……言ってみ? “会いたかった”って。」
そう問いかければどうやら我に返ったらしく慌てて俺から離れれば嫁殿は頭を抱えたままなにやらうなり声を上げ始める。・・・まぁ、犬神だから嫁殿の頭の中の考えも読めちまうんだが
「・・はっ!!?(いかんいかんいかんいかんいかん!!なぁああに顔赤らめてるんだ私の阿呆!!そりゃあね!?そりゃあ乙女ゲームよりイケオジ攻略に勤しんでた身としましては!?目の前にこんなイケオジ現れたら顔赤らめもしますよ!?いや!!でも!!)」
「……ふっ、口じゃ強がってるけど、脈拍は正直だな。」
にや、と笑いながら、必死に脳内一人芝居を続ける嫁殿の手首を軽く掴み、自分の胸元に当てさせる。そこに響くのは、不思議と人間のそれとは違う、どこか獣じみた──しかし確かに“命”を刻む心音
「ほら、お前の鼓動と俺の鼓動……重なってる。」
「ほぎゃぁあああ!!?(こ、この犬神オジサマ私の性癖熟知していやがる!?)」
「帰る場所はもう無ぇだろう? じゃあ、この世界でのお前の場所、俺が全部用意してやるよ。」
ふっと風が吹く。森の木々がざわめき、神聖なはずの異世界の空気に、なぜか“日本”の懐かしい香りが混じる
「・・・つーかよ。そんな可愛い反応見せられて黙ってられるほど、俺は大人じゃねぇ。」
腰に回した腕に力が込められ──そのまま、三雲の身体を引き寄せ濁った青の瞳でまっすぐ嫁殿を射抜く。絶対に逃がさない獣の目で。
「……で? 会いたかったんだろ?」
「な、なんでそうなるぅ!?いや、たしかにね!?どんな姿してんのかは気になってましたけども!!」
「じゃあ言えよ、俺だけに。」
「だ、だめです困ります!!好きになっちゃ・・はっ!!?いや!!あのですね!!?まずはあの、そ、そうだ!!!アンタのステータス・・・」
火でも出るんじゃねぇかと言うくらいに顔を赤らめながらも嫁殿は慌てて空中に音も無く目の前にメニュー画面が表示させる。どうやら俺の現在の状態・・・ステータスだったか?ソレを確認しようとしたが
・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・
【狗神:狗凶】
レベル:99999(もはや魔龍王レベルと推測)
適正エレメント:エラー。しかし陰陽道の心得があるためハイランディア大陸全エレメント適正有りと推測
♢ステータス一覧♢
・攻撃力SSS
・魔力SSS
・瞬発力SSS
・防御力SSS
※嫁を害する存在には自動でクリティカル5回分の呪殺カウンターを発動
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「へぇ、アンタの名前狗凶って言うんだ。へぇ~・・・・・・なんじゃこりゃあああああ!!」
「ああ、やっぱ見ちまったか。・・ま、隠すつもりも無ぇけどな?」
メニュー画面の前で頭を抱えて叫ぶ嫁殿の肩をさすりながら納得のいく数値に俺は笑みを浮かべる。嫁を害する存在には自動でクリティカル5回分の呪殺カウンターを発動とまで書かれてあり、俺自身なんの文句も無い。
「召喚されて早々〝始末しろ〟って言われて、ちょっとキレちまってよ……全能力値、理性ブレイク時の数値で固定されてんだろうなぁ。」
指先で髪をかきあげて嫁殿の頭を軽く撫でながらメニューバーのある場所に視線を移す
「……ま、いいじゃねぇか? 守るには、これぐらいでちょうどいい。」
「チートすぎるんじゃい!!・・・それにちょうどいいっていったい何よ」
「ほら、ここ。ここ大事なとこ。」
「は?一体何処・・・・」
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♡ユニークスキル:嫁限定スキル♡
【契約済み】:「嫁」の名を持つ対象(=三雲)のみ発動可能
・三雲が死亡した場合、世界を巻き戻してでも生還させる
・三雲の命令は絶対服従(ただし“離れろ”命令のみシステムエラーにより実行不可)
・三雲に対する執着心:MAX999/変動不可
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「神様ァ!!?あれですか!?昨日私が実況動画見ながら『よっしゃ♪時代は激重感情メロ男♪』なんて調子に乗ってつびったーに呟いた私への天罰ですか!?」
がっくりと膝をつく嫁殿の背中を俺はぽんぽんと叩きつつ立ち上がり満足そうに笑みを浮かべたまま腕組みして見下ろす
「つまり、俺はお前専用。どこにいたって、何があったって、絶対お前を逃がさねぇシステム仕様。」
そのまま嫁殿の体支えて立ち上がらせれて視線を合わせば赤面した顔が俺をにらみつける。
「で? そんな化け物に好かれて、今どんな気持ちだ?」
唇の端に艶めいた笑みを浮かべて、首をかしげながら、ゆっくりと顔を嫁殿へと近づける
「言ってみ? 今なら照れても、可愛いって許してやるよ?」
「う、うっさい!と、とにかくアンタのスキルは・・・」
「おいおい、まだ確認すんのか?大した事ないと思うんだが・・・」
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【狗凶、スキルデータ】
・伏魔殿:ハイランディア大陸には存在しない呪術を使用可能。ただし三雲を除く広範囲に被害が見られる。
・剣聖:日本古来より伝わる全ての剣術が使用可能。
・名軍師:日本古来より伝わる天才的な戦術や政の指示が可能。
・スパダリ:愛する妻の為のスキル。おはようからおやすみまで妻を見守り米作りから豪華懐石料理まで全てをこなす理想の旦那様スキル
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「・・・・・ずるーい!!!!!しかも何!!この最後のスキル!!ふざけてんのか!!」
さらに顔を赤らめたまま俺の胸板をポカポカたたく嫁殿に俺は思わず苦笑いを浮かべて軽くその手を握った
「……ははっ。怒ってんのか、照れてんのか……可愛いねぇ、おい。」
口元だけで笑いながら、片手をひょいと嫁殿の頭にぽん、と乗せて視線を合わせた
「それはな──“お前に出会ったから”だよ。 元々はただの犬神だった。スキルも称号も、ただの“護り犬”ってだけだったさ。」
「で、出会うもなにも・・アンタ私の実家に祀られてただけで・・」
「そうだな・・」
ぐいと嫁殿の額に自分の額を当てて、じっと見つめながら俺はさらに言葉をつづける
「だけど、お前の声を聞いた時。呼ばれた時。“ああ、俺が護るのはこの命だ”って、そう思ったんだよ。」
優しく嫁殿の肩を抱いて先ほどの嫁殿のように空間に手をかざせば黒炎が現れそこに文字が浮かぶ
・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・
【狗神:狗凶】の特記事項:
・三雲との信頼度が100%を超えた際、
特殊スキル【スパダリ】・【狂信愛】を開放。
・「三雲が他の異性と会話する」などの嫉妬トリガーで、
一時的に全スキルが【神域】に昇華。
・「召喚主にフラグが立つ(例:告白される・好意を向けられる)」などのイベント発生時、
自動で【強制転移】スキル発動。即時現場へ飛来し、牽制台詞が発動される。
・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・
「なっ、なん・・なん、これ!!」
浮かぶ文字に驚く三雲の耳元に口を寄せて、低く囁く
「……だから、お前のせいだよ?・・異世界とはいえこんなスキルだらけのバケモン旦那になっちまったのは。」
そして、耳たぶに触れるか触れないかの距離でとどめの一言を呟く
「責任、取れよ? ……“嫁さん”。」
お前に憑いてるこの犬神、たとえ世界が敵でも、嫁の照れ顔のためなら余裕でバフ盛って挑むんだから。
「ぐ、ぐぬぬぬ・・・はっ!!そ、そうだ!あのね!?そんな渋セクシーボイスにイケオジな見た目で押そうとしたってそうはいかないんだからな!?私だってたしかスキルが!」
・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・
【三雲のスキル一覧】
・【狗神の呪い】効果:対象者の身体を強化し魔力や技の威力を極限まで向上させる。また、光属性魔法や状態異常の効果を無効化する
デメリット:対象者に敵意や好意を向ける者を呪詛対象とみなしソレが人間であればなんであろうと祟りが襲う
・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・
「・・・・・デバフじゃね??」
「……ッははっ!こりゃまた極道みたいなスキルだな、おい。」
慌てて表示した現在の自分の状態に真っ白になる嫁殿を見て申し訳ないが噴出してしまった。
「でも、よく見ろよ。“対象者に敵意や好意を向ける者を呪詛対象”ってあるだろ?」
「手つきぃ!!手つきがいちいちエロいんじゃあ!!」
片手で三雲の顎を軽く持ち上げて、目線を絡ませながらすっと表示されたスキル画面に視線を落とす
「つまり──俺以外にお前を好きになる奴がいたら、そいつに祟りが降るってことだ。
……最高じゃねぇか。」
口元を吊り上げ、ぞくりとするような声色で囁く。要するに大事な生涯一生の・・・いや、永劫の番を狙う馬鹿どもはいなくなるってわけだ
「“デバフ”だと? 違うね──これは、俺だけが、お前を抱けるって保証だろ?」
ふいに、嫁殿のスキル画面の横に、俺のスキルが重なって表示される
・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-
【シナジースキル発動】
◆神嫁契約
発動条件:
狗神:狗凶 × 三雲 の相互信頼度100%、スキル【狗神の呪い】が発動中
効果:
・狗凶に対して常時**「呪詛耐性」&「加護強化」**付与
・三雲の魔力消費無効
・お互いのスキル発動速度2倍
・第三者の恋愛フラグが全て自動キャンセルされる(データ上書き)
備考:
この契約が成立している限り、“あなたの隣には彼以外存在できない”
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「・・・・壊れてる!!なんか!!!いろいろと!!!」
「・・・な? 運命とか愛とか言う前に、先にスキルが証明してくれてんだよ。お前の“呪い”は、俺にとっちゃ祝福だ。」
真っ赤になりながら空に向かって抗議の声を上げる嫁殿の額にキスを落とし、片腕でそっと抱き寄せる。
「……可愛い嫁が他の奴に狙われねぇように、もっと呪ってやるから・・なァ?三雲。」
「いやいやいやいや!!!あるでしょ!!なんか私にもぉ!!だって後輩の夜ちゃんにだってめちゃくちゃチートスキルあったもんん!!私にもなにか・・・」
と、その時表示されたメニューにまた新しい文字が浮かぶ
【三雲様のギフトスキルですが、狗凶様の改変により全て消去されています】
「・・・・・ショウキョ??」
「ああ、それな──俺が全部、削除しておいた。」
まるで何でもないことのように、涼しい顔で腕を組み呆けている嫁殿に言葉を返す
「だってさ……スキルなんかに頼る必要あるか?お前が生きてて、隣にいるってだけで、俺には最強なんだから。・・・“三雲だけは、俺が守る”。そう決めた瞬間から──お前の全スキルは、俺の中に組み込まれてるんだよ。」
そう言って指を鳴らせば空中に写経のような光の文字が現れる。俺が事前に消しておいた嫁殿のスキルデータ”が俺の背中に吸い込まれていくと、燃え上がる黒炎にまた文字が浮かびあがった
・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-
【融合スキル:嫁式完全防衛】
発動者:狗凶(融合元:三雲の全ギフトスキル)
内容:
・対象:三雲のみ
・効果:三雲に触れる者に対して自動で狗凶が転移・制裁
・三雲の心拍が一定数値を超えると、狗凶の攻撃・移動・演算速度が10倍になる
・三雲の涙を1滴検知すると、狗凶の“理性制御”が解除され、世界法則を書き換えるレベルの暴走状態に
備考:
このスキルは三雲の意思とは無関係に発動される。
・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-
「お前が“何も持ってない”とか思うのは、俺が全部奪って抱えてるからなんだよ。」
相変わらず呆けたままの頬に触れて、低く甘く囁く語り掛ける
「なぁ、今さら“私にも何かちょうだい”なんて言うなよ。・・・全部、俺が代わりに持ってんだから。
お前は何も持たなくていい。ただ、俺の隣にいろ。」
鋭く深い眼差しで見下ろしながら、そっと呆けたままのその唇に触れる
「離れてても、傍にいても──
スキルも魂も全部、俺の中にあるお前は、逃げられねぇんだから。」
「な、・・・なん・・・・」
俺がそう声をかければ嫁殿はしばらく顔を俯かせていたが体がワナワナと振るいだし始め
「何してくれてんじゃこのオジサマー!!!」
ついには真っ赤になり俺にとびかかればまたポカポカと俺の胸板をたたき始めた
「はいはい、暴れんなお姫様……」
片手でぽかぽかをあっさり受け止め、もう片手で嫁殿の腰を引き寄せて密着しそのまま耳元に息がかかる距離で、囁く
「……かわいく威張っても、もう**“俺のスキル”**になっちまってる時点で、
逃げ道なんざねぇんだよ。三雲。」
そしてとどめの一言
「お前は、俺の嫁スキル。」
「ド 直 球!!!!!」
「……で?まだ叩く?それとも、」
真っ赤になり睨みつける嫁殿の顎に指を添えて、ゆっくりと顔を近づけながら
「お仕置きキスに切り替えるか?」
そう尋ねてみたが
「いやだぁああ!憧れの異世界転移なんだもん!アンタばっかずーるーいー!!」
やはり嫁殿自身もスキルが欲しかったらしく半べそをかきはじめてしまった。・・・しまった、少しからかいすぎたか・・
「・・・仕方ねぇなぁ。」
このまま泣かせてしまうのは俺自身も望んじゃいない。それに嫁のわがままを叶えてやるのも旦那の務めだもんな・・
そう考え軽く指を鳴らせば嫁殿の目の前に表示されたメニュー画面にまた文字が浮かんだ。・・どうやら成功したらしいな
【承諾。狗凶様のスパダリ権限により三雲様に三つスキルが付与されました】
「え?・・・」
・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-
・天然離心流:新選組オタクである三雲様にピッタリな剣術スキル。しかし刀以外の武器は鉛のように重くなり使用が不可となります
・縮地:いざという逃亡面を考え狗凶様により付与が赦されました。しかし狗凶様から離れようとする際は発動いたしません
・夫婦手ほどき陰陽術:三雲様のエレメント適正が強制解除されているため狗凶様から陰陽道の属性が付与されました。なお付与と申しましても火の玉が出るくらいですので戦えるほど強化したい際は狗凶様の側から離れないでください
・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-
「わぁーい!やったあ~!・・・・・・って!!!重いなぁ色々とぉ!!!」
「……ほぉら、これで**“俺の嫁仕様”**の完成だな?嫁殿。」
腕組みしながら画面を斜め見つつ、嫁殿を見つめる
・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-
三雲の新規スキルレビュー by 俺。
【天然離心流】
「ん。似合ってんじゃねぇ?ただし、他の男が渡そうとした槍とか杖とかは全部鉛になるから、注意な。」
(※要するに、浮気防止)
縮地
「“逃げ足”を残してやるのが、優しい旦那ってもんだろ。でも・・俺から逃げる時には、足が鉛より重くなる仕様にしといたから。」
(さらっと狂気)
夫婦手ほどき陰陽術
「猫葉譲りの才能に期待して、火の玉くらいは出せるようにしてやった。あとは俺のそばで、たっぷり手ほどき受けろよ。・・・なぁ、奥さん?」
・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-
「なんか色々と!!退路とかふさがれてるんですけど!?」
「当たり前だろ?お前がどんなスキル持とうが、俺が全部“調教済み”にしちまえば関係ねぇから。」
嫁殿の耳元に、ふっと口を寄せ笑みを浮かべる
「全部、俺の手の中で使えよ。かわいい嫁さん。」
「ふざけんな!!嫁になった覚えないし!!それに!!べつにアンタなんか・・・大好きなんだからね!!!!・・・・へ???」
・・・・・今、何て言った?
何故か戸惑っている嫁殿に音もなく距離を詰め顔をぐいっと近付ける
「・・・っは、今の、もう一回言って?」
「いや!!ちょ!!ちがっ!!」
首を横に振り慌てる嫁殿を強く引き寄せる。鋭い指先がその顎に触れ、逃がさぬように顔を固定する
「……なぁ、俺のことが“大好き”なんだろ?」
「いや!!だから違うんだって!!そ、そんなつもりじゃ!!」
「だったらもう、“狗凶の嫁”って、名前変えとけ。スキルも、職業も、人生も、全部俺のもんにしといてやる。・・・もう逃げらんねぇぞ、三雲。覚悟しとけ。……お前は俺の、嫁だ。」
「いやいやいや!!違う違う違う!!好きじゃないって言おうとし・・・・え゛!!?」
・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-
【追記事項。三雲様の現在のデバフ一覧】
・旦那様大好き:狗凶様に憑かれているためつねに魅了がかかっています。嫌い!など否定的な言葉は全て狗凶様を想う言葉になります
・花嫁の面隠し:狗凶様以外から三雲様の顔認識は不可能となります
・虫除け:狗凶様以外の異性が三雲様へ好意を持ってもすぐにゼロになります
・夫婦一蓮托生:狗凶様を無理やり祓うなど行った場合三雲様にも大ダメージがいきます
・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-
「・・・・・こ、こらあー!!!」
またしても空に向かって吠える嫁殿を見ながら俺は湧き上がる感情に思わず息を飲む。いやいや、なんだよ異世界。俺にとって色々好都合すぎるだろ。まぁ、全然かまわないしむしろもっとやってほしいくらいなんだけどな。
「っははは!!・・・」
涼しげな目元をわずかに細め、愉しげに口角を上げながら今だ状況を飲み込めていない嫁殿に近づく
「……ははっ、あ〜あ……見事に“嫁”仕様になっちまってるな、嫁殿?」
指先でそっと顎を撫でながら、逃げようとするその腰を難なく抱き寄せる
「抵抗しようとしてもダーメ。お前のスキル構成、俺が調整してっから。・・ 好きじゃないなんて言葉、全部“好きすぎて死にそう”って翻訳されるぞ?」
・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-
スキル再確認メニュー更新:
【三雲様:現在のステータス】
・種族:狗凶の嫁(人型)
・職業:おかみさん(固定)
・所属:狗凶派・嫁一門
・称号:【唯一の番】【一心同体】【嫉妬の守護対象】【専用抱き枕】
・スキル:料理上手Lv5/おかみのお説教Lv7/子作り適正(極)
・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-
「おかみさんって何だぁ!!あと!!子づくり!?」
「ばーか。当然の事だろう?」
真っ赤になりながら講義する嫁殿の耳元で、俺はゆっくり囁く
「俺から逃げようとすんなよ、三雲。・・・だって、お前の人生そのものが、“俺を愛する”ってスキルで構成されてるんだから・・・いいな?もう一度言っとく。お前は俺の、嫁だ。」
「だ、だからぁ!!嫁殿になった気は私に無・・・・」
その時だった。まるで俺たちに反応するかのように森を覆っていた霧がさらに深くなり目の前に光の魔法陣?らしきものが現れる
「な、なにこれ、結界?・・・・」
その文字に近づき二人で書かれている言葉らしき物を眺めればあることに気が付いた
「・・・・へぇ・・こいつは・・」
「これ、・・・〝祝詞〟?」
その時だった。何者かの気配を霧向こうから感じた俺は嫁殿をかばうように前へと出る。そこにはいつから立っていたのか編み笠を被った神主服の少年が俺たちを見つめていた
「・・よお、夫婦漫才は済んだかの。異世界からの同朋よ」