第19話:・・吸血鬼まで居るのかこの世界・・
ナギの報告を受け、俺は嫁殿と共にアシハラ国の入り口、通称オロチの森に向かうとそこには、ナギが言った通り、〝見慣れない服装の女〟が目を回して倒れているのが見えた。
「・・このゴスロリ銀髪美少女が行き倒れ??」
「・・・ったくよ。タイミングってもんがあんだろ、なぁ?」
「すみません・・・なんだか夫婦水入らずの時間を邪魔してしまって・・」
申し訳なさそうにうつむくナギの頭をなでて不満げに眉をひそめつつも、俺は赤面してる嫁殿を見て、くっくと喉を鳴らす
「……ま、今回は見逃してやるよ。あとで“旦那”の続きを聞かせてもらうけどな」
「うぐっ・・・お、覚えていやがった・・・」
当たり前だろうが。絶対に〝旦那様〟って言わせてやるからな?覚悟しとけよ?・・・っと、いけねぇいけねぇ。まずはこの目ぇ回してる奴をなんとかしないとな・・・
足首まで長い銀の髪に豪奢なドレス、細く華奢な手首。そして鳴り響くグゥゥ~~と鳴り響く腹の虫。
「・・・たしかに、ゴスロリに銀髪って・・・目立つなぁ。なんでこんなとこに・・・」
巫女服のまましゃがみ込みその人物の頭をつんつんと嫁殿が突けば、ぴくりとその体が揺れる
「う、うぅ・・・アカン・・空腹がピークや・・は、腹が・・・減りすぎて、目の前が・・・メシに見える・・・」
頭だけ起こしてゆっくりと瞼が開けば琥珀色の瞳が俺と嫁殿を交互に見つめた。相変わらず鳴り響く腹の虫と、その口元から覗く〝短い犬歯〟に俺は一瞬目を細める。・・しかし嫁殿とナギは気が付いていないらしく慌てて立ち上がり
「わ、わかった!とりあえず、水とごはん!ナギ!炊きたてのご飯と味噌汁、それと焼き魚もお願い!」
「御意――――っ!!」
全力ダッシュで駆け抜けていくナギをため息交じりに見送りながら俺はのそのそと起き上がった謎の娘の前にしゃがみ込み声をかけた
「おい、嬢ちゃん・・・ここはアーヴァロンじゃねぇぞ。アシハラだ。無茶してんじゃねぇよ」
「へ、へへ・・・・あんたら、ええ人やなぁ・・・そ、ソレにウチ・・・あんたらを探しててん・・」
そのまま ふらふらと立ち上がり、謎の娘はスカートを摘まんで恭しく俺たちに礼をした
「で、でもアナタ・・・・何者なの?」
しゃがんでいた体勢からゆっくり立ち上がり、嫁殿が尋ねると娘はにんまりと笑みを浮かべふっと片目を閉じてウィンクをする
「――ウチの名は、《シュヴァルツ・ヴァイス》。異世界より来た錬金術師にして、《魔導人形師》」
・・・おい、なんだその中二病の煮凝りみてぇな名前は
「――命を救ってもろた恩、ぜったいに忘れへんよ。ウチの人形術、アシハラのために使ぉたる!」
「・・・・なんか、またすごい子が来た・・・・」
どや顔をキメるシュヴァルツに嫁殿はポカンとしたままぽつりと呟くが、俺はそのまま嫁殿の前に立ち静かに相手を睨みつけた・・・・・
「・・・・・・・」
「な、なんやオッサン!そないにウチをじろじろと・・」
・・・・あぁ、こりゃ間違いねぇわ。俺の鼻が正解をたたき出してる。
「??・・狗凶?・・」
嫁殿に危害が無いように背中に庇いながら俺は静かに口を開く
「嫁殿。コイツ吸血鬼だぞ。」
「ファ!?き、吸血鬼ぃ!?」
驚く嫁殿と、どうやら自分の正体を見抜いた俺にシュヴァルツも思わず声をあげた
「・・・っ!!な、なんやと!?なんでバレ・・・」
「血の匂いが薄く残ってる。そして牙の生え方、その隠しきれてない妖力・・・・・。そのシュヴァルツって名前も偽名だろ。」
煙管をくわえたまま目を細めて紫煙を吐き出せば背後に庇っていた嫁殿が声を上げた
「えっ・・・吸血鬼って、アーヴァロンじゃ即・聖槍対象だよね?大丈夫なの?・・ケガとか・・」
「・・・ち、ちゃうねん!!たしかにウチは吸血鬼やけど色々事情があってん!それにアンタらやこの国の人に危害は絶対に加えへんから!!こ、このとおりや!」
肩を震わせ、ふるふると首を振りながら頼み込むシュヴァルツに俺はため息をつくとしゃがみこみ、その目線に合わせる
「・・・じゃあ、こっちのルール守るなら、匿ってやる。だが、一滴でもウチの嫁の血を狙ったら、その時は・・・」
と、そこまで言い終えて俺は瞳をギラつかせ、牙のような殺気を帯びた笑みを浮かべてドスを聞かせた声で言葉を続ける
「――喉元ごと、捻じ切るからな。わかったか?お嬢さん」
「ラ、ラジャーですわオッサン!!」
俺の圧に冷や汗を流して背筋を正すシュヴァルツに俺は満足げに頷いた。
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大社にシュヴァルツを案内すれば、よほど空腹だったらしく嫁殿やナギが用意した握り飯や焼き魚をぺろりと平らげてしまった。
「はぁ・・・ホンマ助かったわ。おおきにな」
ぺこりと頭を下げればシュヴァルツは少し申し訳なさげに目を伏せる
「・・・・あたらめて自己紹介せなアカンな。ウチの本名はエトワール・・真祖吸血鬼の血筋の吸血鬼なんよ。」
「し、真祖!?」
驚く嫁殿をよそに煙管をくわえたまま、俺はわざとらしく目を細めてエトワールに尋ねた
「・・・・はぁ? てめぇ、今“真祖”っつったか? それ、冗談だったら今のうちに訂正しとけよ?」
疑うわけじゃあ無いが、真祖吸血鬼なんざ空想の中の話だろうからな。
自然の発生や神話的な背景から生まれた存在とされ、一般の吸血鬼とは一線を画す強力な存在としてよく創作の物語やゲームに出てくる物。それが真祖吸血鬼と言われている・・。だが俺の言葉が少し癪に障ったらしく、エトワールが呟いた
「うっわ、まだ疑ってるん? しゃーないなぁ・・・・・ちょい、見ときや?」
そう言うと、エトワールの銀髪がふわりと舞い上がり、背後に魔力の影が揺らめく。空間がわずかに凍れば、そこに黒い薔薇のような紋章が手の甲に浮かび上がった
「こ・・・これは?」
首をかしげる嫁殿にエトワールが言葉を続ける
「夜月の盟約真祖吸血鬼にとっての血統証明ってやつや。・・・・どうや?これで納得してくれたか?」
エトワールの言葉に数秒の沈黙の後、俺は煙をふーっと吐き声を漏らした
「・・・なるほどな、さっきと妖力が桁違いになってる・・・たしかに本物だな」
俺はそう言葉を返せば立ち上がり、エトワールの前で嫁殿を背にかばうように立つ
「この国じゃ、“ウチの嫁が全て”だ。それを脅かすもんは、例え神でも、龍でも、真祖でも・・・・叩き潰すだけだぜ?」
「狗凶・・あの、えと・・・・」
顔を赤らめながら俯く嫁殿に俺は安心させるように笑みを浮かべる。するとその様子を先ほどまで眺めていたエトワールはぱちんと箸を置き、両手を上げて笑顔を浮かべた
「ははっ、怖いなぁ~! ・・・・でも安心しぃ。ウチは争いごと、好かんのよ。もう……血を奪う日々も、誰かの命を糧にする生活も、うんざりや。できれば、ここで・・・・ふつう”に暮らしたいんや」
そう、ぽつりと言葉をこぼしたエトワールに嫁殿は穏やかな笑みを浮かべて手を差し出した。
「・・・じゃあ、仲間、だよね?」
・・・ったく。昔から〝外れもの〟をほっとけないのは悪い癖だぜ?嫁殿
エトワールは嫁殿の行動に目を丸くして、少し無言になった後、優しく微笑んでその手を握り返してきた
「せやな・・・・“ふつう”の仲間として、混ぜてもらえるなら・・・・」
・・・・こうして、アシハラにまた新たな住人が加わったのであった。




