第一七話:珍客来る、ってか
さて、この世界の創造神であると言われている六龍神の一柱である陽光龍アマテラスからこのアシハラの国宝とも言われる神器【神鏡・八咫鏡】を手に入れた俺と嫁殿だったが、さらにアマテラスからアシハラ復興のための依頼を三つ引き受ける羽目になった。
まずその1、酒造を広めること
「酒造・・・つまり神稲でお酒作れってこと?」
首をかしげる嫁殿を見てアマテラスが微笑みをうかべたまま伝える
『・・古来よりアシハラの神稲は酒作りに最適な物でした・・そうして作られた酒は神さえも酔わすと高い評判を得たほどです・・』
「・・アンタが飲みたいだけじゃあねぇかよ。」
ったく・・神様っつーのは図々しいモンだぜ。だが、確かに俺も酒が飲めるってんならありがてぇ・・仕方ねぇな。酒造作り、ちょいはりきってみるか。
そして、依頼その2は他国との貿易の要になる物を作ること
「アシハラにしかない物を作るとなると・・・・!」
「どうかしたか?嫁殿」
「その・・・私とアンタが初めてここに来た時にイノシシに襲われてたでしょ?」
「あぁ、アレな?俺が捌いてほし肉にし・・・・・」
・・・待てよ?そう言えば胃の内容物にまだ消化されてない豆類が混じってたが・・・
「おいイブキ。・・・この山に居るあのバカでけぇイノシシなんだが」
「うん?・・あぁ、ブラッドボアのことか?奴らはこのアシハラの山に生息しておってな。だが安心せい。人間を食べたりはせんぞ?奴らが食べるのは〝イズーダ豆〟だけで・・・」
「「それだ!!!!!」」
イブキの言葉に、俺と嫁殿は思わず声を上げ顔を見合わせる。いやいや、そもそもその名前!!後ろから読んだだけだろ!?つまり日本で言うところの大豆とするなら・・・
「狗凶、これうまくいけば・・・・」
「あぁ・・味噌と醤油作れるな。アシハラの特産品にできる!」
俺と嫁殿の様子にアマテラスとイブキが不思議そうに首をかしげる。なるほど・・やっぱりこの世界に味噌と醤油は無い・・・。
「おう、安心しろよ姫神サマ。時間はかかるが・・・貿易の要になる特産品。作り上げてやるからよ!」
・・・そして、最後。3つ目の依頼は水路の確保、そしてアシハラの土地開発・・要は民が暮らしやすいような設備を作り上げる事だった
「・・・おぉ~!!すごい!!水車に、水路までできてる!!」
アマテラスの神殿を後にした俺たちはすぐにナガヨシを長としたオーガ部隊20人に水路の工事と小川付近に水車小屋を建てるように指示を出した。
・・・昔は水車が回転する力を利用して石臼を回して粉を挽く製粉したり織物を生産したりして・・それが江戸時代には工業的な動力としても使われるようになっていった。
さらに、複数作った水車小屋のうち、何か所かは小川から田んぼへ水を汲み上げる「揚水水車」にしておいたから隅々まで小川の水がいきわたることになる。
・・だが、さすがはオーガ族・・・人間じゃこうも短時間で立派な仕事なんざできねぇな
「あぁ!大殿!奥方様!」
すると、俺たちに気が付いたナガヨシが作業の手を止めて俺たちに近づいてきた
「どうっすか大殿!俺たちオーガにかかりゃあ朝飯前っすよ!」
「へっ・・・・いい仕事だ、ナガヨシ。俺の嫁殿が喜んでんなら、それ以上の報酬はねぇだろうよ。」
煙管をくわえながら、肩越しに水車の回転を眺めながら俺はナガヨシにねぎらいの言葉をかける
「・・・だが水路か。こいつは使い道が広がるな。棚田の拡張、作物の栽培、あるいは……温泉でも引いてやるか? 嫁殿専用の、な?」
にやりと口元を緩めて嫁殿の髪にそっと触れると、顔を赤らめたまま復興が進むアシハラの風景を眺めながらぽつりとつぶやいた
「正宗たちの住処がある鉱山付近に・・たたら場も作らないといけないんじゃない?」
「ほぉ・・なるほど、製鉄場をねぇ・・・」
嫁殿の肩を抱きながら俺はにやりと笑みを浮かばせ話をつづけた
「確かにこれからの事も考えると作っておいて損はないかもしれねぇな・・・万が一他国が攻めてきた時のために・・それと、日本の鍛冶技術をゴブリン共に伝えるのもな?」
「そうそう、・・・ほら、武器だけじゃなくてさ?包丁とかも立派な貿易の品になるだろうし・・」
・・流石すぎるぞ嫁殿、すっかり異世界生活になじんできやがって・・
「・・あぁ、ったく・・悪くねぇなぁ・・この空気。」
活気づく声、だんだんとよみがえっていく風景に俺は嫁殿の肩を抱いたままぽつりと呟いた
「・・・・つかの間の平穏が、ずっと続きゃいいがな。」
「え?なんか言った?」
すると、森付近の見回りに行っていた千姫が背後に数人の見慣れない着物姿の女を引き連れて戻ってきた
・・・いや、人間じゃねぇか。美しい絹の着物、しかしその下に覗くのは蜘蛛の脚。人ならざる存在。
・・なるほどな。蜘蛛の妖怪ってことか
「大殿、奥方様・・・新たなアシハラの住人が参っております」
「住人ってその後ろのお姉さんたち?・・・もしかしてお千の仲間?」
「さようです。奥方様・・・この〝アラクネ達〟もアーヴァロンにより故郷を追われた身・・大殿、この者達に何卒・・御慈悲を・・」
千姫が深く頭を下げれば背後に控えていたアラクネ達も続くようにその頭を下げる。・・・見たところこの四匹、姉妹みたいだな。それぞれ体つきが全然違うし・・
「……なるほどな」
俺はアラクネたちを見つめながら、小さく舌打ちをする
「アーヴァロンめ、またやってくれたな。故郷を奪い、種を虐げ・・・それでも正義ヅラかよ」
煙管から白い煙をひとつ吐き出して俺はそのまま嫁殿を庇うように前に出るとアラクネの前に歩み寄る
「・・必ずやお役にたちまする・・どうか、何卒・・」
長女らしきアラクネが俺を見つめて深々と頭を下げて懇願してくる。
「ここはアシハラ。俺の、そして嫁殿の国だ。人間か魔族か、種族の違いなんざ関係ねぇ。・・・住みたいってんなら、好きに生きりゃあいい。だがひとつ、条件がある」
「条件?・・・」
「この国と俺の嫁に牙を向けるってんなら・・・・たとえ誰であろうと、俺がひねり潰す。それが出来ねぇなら、歓迎するぜ」
そう呟き、背後の嫁殿に視線を移す。
「ホレ、出番だぜ嫁殿」
「ふーむ・・・まぁ・・・仕方ないか。ここまでお願いされちゃったらね」
俺の言葉に嫁殿は苦笑いを浮かべると、アラクネ達の前に出て式神契約を行う。・・・・やれやれ、ここまでくると手慣れたもんだな。嫁殿よ
【アラクネ達に名前をつけてください。】
「・じゃあ、よろしくね?えーと・・春織、夏織、秋織、冬織!アラクネ4姉妹!」
嫁殿の言葉に、長女のアラクネ・・春織は深々と頭を下げた
「ありがとうございます、奥方様・・・この春織、精一杯務めを果たしてまいります。」
そしてその隣にたたずむ次女の夏織は姉とは対照的にゆるく頭を下げた
「素敵なお名前ありがとうございます~大殿、奥方様~・・・そうですねぇ~・・夏織はこう見ても計算とか得意なんで~・・金庫番とか兵糧管理とかお任せください~」
・・・どうやらそのぐるぐる眼鏡は伊達じゃあなかったらしい。だがこれで番頭役ができた事になる。こいつはありがたいな。
そして、最後に夏織の傍で待っていた二匹も声を上げる
「秋織っす!名前を授かった以上はバリバリ働くっすよ!!姉ちゃんたちとは違って、肉体労働とか薬草採取に薬の生成とかお任せくださいっす!」
「冬織・・・まだちいさいけど、がんばる・・おおとの、おくがたさま、よろしく・・・」
・・・やれやれ、またアシハラが賑やかになっちまったな。
そんなことをぼんやり思いながら俺と嫁殿は右手をアラクネに差し出し声をかけた。
「「──ようこそ。アシハラへ」」




