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第十四話:まさかの龍神様ときたか

「ーーーうむ。会わせる時が来たかの」


いつのまにか、渦中の人物であるイブキがいつの間にか立っており俺達を静かに見つめている


「・・・来やがったか。」


風の流れが変わった瞬間、俺の身体が獣の本能のように動いた。腕を伸ばして嫁殿を背に庇い、ゆらりと現れた白蛇の化身である僧侶、イブキを鋭く見据える


「・・・ようやく、時が来たのじゃよ、狗神、そして三雲。主らがここを訪れたのは、偶然ではない。“逃げてきた”のでも、“飛ばされた”のでもない。・・・選ばれたのじゃよ。」


イブキの足元に風が巻き、細かな光の粒が輪を描く。俺は嫁殿を庇ったまま、イブキに声をかける


「選ばれた、ねぇ・・・ずいぶん回りくどい言い方だな、白蛇。俺たちを誰の手駒にする気だ。」




「・・・その問いの答えは、風の向こうにおる。このアシハラに“陽光”を運んだ者・・・“の御方”こそ、そなたらの運命を結び直した存在じゃ。」


そう言うとイブキは指先をすっと上げる。すると社の奥、 今まで閉ざされていた扉が、ギィィ・・と音を立ててゆっくりと開き始めた




「・・・参れ。狗凶殿、三雲殿。“彼の御方”はすでに待っておられる。おぬしらの“運命”が、真に果たされる時が来たようじゃ。」


「・・・ったく。せっかく穏やかな時間だったのによ。どうやら、この国の“夜明け”はまだ先らしいな。」


イブキの言葉に俺は低く笑いながら立ち上がり、軽く嫁殿の頬を指でつつき、冗談めかして言葉を漏らす


「行くか、嫁殿。――この先に、俺たちを呼んだ“真犯人”がいるらしい。」


「し、真犯人て・・・まぁ・・いいけどね?・・やっとその【さる御方】とやらに会えるらしいし・・よし!会いにいってやろうじゃあないの!」



社の奥から差す蒼い光が俺と嫁殿を包む。


それはまるで、風と記憶のはざまで揺らめく“誰かの視線”のようだった



ーーー さて、いままで散々姿を見せなかったその面、拝みにいってやるとしますかね。


聞きたいことも山ほどあるんだ。それに、文句の一つや二つかけてやらねぇと気が済まねぇしな。



ー・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・

・-・-・-・-・-・-・-・-・


社の奧に広がっていたのは薄暗く細長い洞窟だった。壁にかけられ松明に、俺や嫁殿が進むたびに一つ、また一つと炎が灯っていくのを見ながら嫁殿が不安げに声を漏らす


「・・・な、なんか・・黄泉の国に続く道みたい」


嫁殿のそんな言葉に、俺は湿った岩肌に掌を滑らせながら、低く笑う。


その声は洞窟の奥で反響し、まるで獣の唸りのように響いた



「・・・黄泉か。懐かしい響きだな。俺ら“向こう側”の存在からすりゃ、帰省みてぇなもんかもな。」


足元の水を踏むたび、波紋が淡く光を帯びる。まるで道しるべのようにその光は奥へ、さらに奥へと続いていた


「・・・なぁ、嫁殿。鼻で感じねぇか?」 


「え?・・・」


「この空気人の世界のもんじゃねぇ。生と死、祈りと加護・・・人間の次元じゃ到底理解なんざできない、神域の匂いだ。」


「!・・神域!?・・・」


驚きの声を上げる嫁殿の肩に手を置き、庇うように少し前に出る


「けど、怖がる必要はねぇ。黄泉だろうが地獄だろうが、俺が一緒に行く。・・・お前の魂ごと、背負って歩く。」


「う・・うん。・・・ありがとう、狗凶・・・」


奥から風が吹き抜ける。冷たいが、けれどどこか懐かしい風。


その風が通り過ぎた後、壁の文様がわずかに輝く。・・どうやらアシハラの古代文字で刻まれた祈りの詩らしいが読み取れないほどに歪んでいた


「・・・あのさ、狗凶」


「あん?」


「これ・・もしかしてだけど・・・神代文字?(かみよもじ)」


・・・確かによく見れば似てるな・・いや、そもそもこのアシハラ自体、昔の日本の文化によく似てるんだよな・・・


「さて、お主ら。」


そんなことをぼんやりと考えていれば、前を歩いていたイブキが立ち上がり声をかけてきた


「・・・この先におわすのは、“魂の座”を司る御方。この大陸創造に関わり、このアシハラの守護と省庁たる存在じゃ。・・・この地に宿る者たちが“姫神”と呼ぶのは、この御方のみ。」


「つまり、ここがこの国の“根っこ”ってわけだ。」


顎をしゃくり前方を指して軽く息を吸い、嫁殿の手を取る。指を絡め、ぐっと引き寄せて静かに見つめた


「いいか、三雲。何が出てきても、絶対離れんな。・・・お前が“嫁”である限り、この狗凶が通す。・・・黄泉の底でもな。」


そして、そのままついに洞窟の最深部に足を踏み入れた瞬間。


「・・・・!!」


「・・・こりゃ・・・すげぇな・・・」


洞窟を抜けた先、まさにそれは神殿のような光景だった。天をつくような朱塗りの柱に大きな注連縄が巻かれている。


その中央に鎮座するのは、陽光の如き鱗に、象牙のような角、そしてあふれ出る神の気迫を身にまとい俺たちを穏やかな眼差しでしずかに見つめてくる


一匹の白龍。


「・・・白龍!?・・・す、すごい・・・本物の龍神様・・・」


感嘆の声を零して瞳を輝かせる嫁殿に、白龍はたおやかな笑みを浮かべたまま語りかけた


『・・・待っていましたよ・・異界より来たる来訪者・・・わたくしの名は陽光龍アマテラス・・・・ハイランディアを守る【六龍神~ろくりゅうしん~】その一柱です』


「ご、ご丁寧にありがとうございます!私はあの・・どわ!?」


何か言いかけようとする嫁殿を抱き寄せるように腕を伸ばし、その白龍を睨み上げる。・・・おいおい、龍神サマがよりにもよってあの太陽神と同じ名前かよ・・


獣の警戒と神への畏怖の入り混じったまま、俺は白龍、アマテラスに声をかけた




「・・・“龍神”か。ずいぶん立派な肩書きだな。だが──俺たちを“待っていた”ってのは、どういう了見だ。」


嫁殿の手前、堂々とした声で吐き出しつつも、その圧倒的な存在感と神気に、空気ごと肺を押し潰されそうになる。・・・そりゃあそうか。相手は龍、こちとら人間様が呪いやら込めて作り上げた狗の化け物・・・力の差なんざとうにわかってらぁ。



だが、アマテラスは俺たちに向け静かに頭を垂れる。すると境内全体が柔らかい光に包まれる


『・・・我ら六龍神は、かつてこの地ハイランディアの均衡を護るために生まれました。ですが、幾千年の眠りの間に人の悪意や邪念が増え、我らの祈りは忘れ去られてしまったのです。──その結果が・・貴方たちが見たこの世界の現状・・・。』


そこまで言うとアマテラスはゆるやかに、嫁殿を見つめる。その声は、空気ごと振動するような荘厳さを帯びていた


『・・・異界の巫女、三雲よ。そなたはこの地に希望の神威を持って来られた。それは、我が眷属が古に封じた**“焔のことわり”**。そなたの中に宿るその炎が、アシハラの息吹きを呼び覚まします。』


「・・・要するに、嫁殿を“神の駒”に使う気か。今さら、誰かの思惑に踊らされるつもりはねぇぞ。」


『違うのです、狗凶よ。彼女は“駒”ではなく刃。・・・“アーヴァロンの聖騎士国に対抗できうる神威の一刃・・・それが三雲、狗凶・・そなた達なのです・・・』


アマテラスの言葉に光が強まり、社の天井に六つの龍の影が浮かび上がる。


青、赤、白、緑、金、そして影のような黒の龍


俺は天井に浮かび上がるソレを静かに目を細め、口元で笑った


「・・・なるほどな。つまり、これから俺たちは“神様たちの戦争”の真ん中に突っ込むってわけか。」


「いやいや、ち、違うんじゃない?・・・さすがにそこまでは・・」


「けどな、嫁殿。心配すんな。どんな龍だろうが、神だろうが、俺の嫁に触れるなら──喰い殺すだけだ。」


俺の言葉に、アマテラスは少しだけ柔和な笑みを浮かべるとその尾をふわりと揺らす。


するとソレに答えるように風が吹き抜け、神殿の柱に吊るされた注連縄がざわめいた


『・・・・三雲殿、貴方はどこまでを・・・アーヴァロンの騎士達から聞いていますか?』


「聞くも何も、いきなり「邪悪な物!」とか言われて危なく討伐されかけたんですよ!?」


『・・・・・やはり、そうでしたか』


嫁殿の言葉にアマテラスは悲しげにうつむきため息を零した。どうやら何か事情を知っているらしい。


「へっ・・・聖騎士様たちにとっちゃ都合の悪いモンは全部“邪悪”扱いか。・・・いつの時代も、正義を名乗る奴ほどタチが悪い。」


思わず鼻で笑い、肩をすくめれば俺は嫁殿の背に手を添えて前に出る。守り神ではなく、妻を前に出す戦犬のように俺は尋ねた


「で、姫神サマ。うちの嫁を“待っていた”ってのは、どういう理由だ?まさか“救世主でした”なんてベタな話は御免被るぜ?・・・」


すると、俺の言葉にアマテラスのそばに控えていたイブキが口を開いた


「救世主などという呼び名は、この地ではもう意味を成さん。じゃが、“救うべき存在”は確かにおる。

 主らが追われ、流れ着いたこのアシハラこそが、その最後の灯。」


そう言うとイブキは壁に吊るされていた巻物を外して俺たちの前に広げて見せる。するとソレが合図のように装飾が光りだせば、白紙だった巻物に神文字が浮かび上がる



そこにはこう刻まれていた


「光を奪いし者は、やがて闇に喰われる。 闇を抱く者は、再び光を呼ぶ。・・・忘れるなかれ、真の敵邪悪なる虫の竜なり・・?・・なんじゃこりゃ」


首をかしげる俺と嫁殿にアマテラスが悲しげに呟く



『アーヴァロンの教義・・そして作り上げた秩序はもはや腐っております。・・・彼らは“純粋な魂”を“再利用”して聖なる武器を生み出す。・・異界の者を召喚し、捧げ、器として使う・・・それが“勇者召喚”の真の目的です。」


「・・・・・はぁ!?」


おいおい・・・だいぶきな臭くなってきたぞあの聖騎士共。となると・・ある意味嫁殿は幸運だったということになる。・・・もしあのまま勇者の一行に選ばれてたら・・・そう思うだけで腸が煮えくり返るようだった


「く、狗凶・・・」


怯える嫁殿の頬に手を添え、その目を覗き込む


安心しろ嫁殿、お前は何もおびえることなんて無いんだからよ。



「・・・安心しろ。今さら奴らが神の代理面して来たところで、

 この狗凶はもう二度と“誰にも”お前を捧げやしねぇ。」


『・・・狗凶殿・・・あなたは・・・』



「・・・で、龍神サマよ。その“勇者召喚”の裏にいる黒幕――アンタは知ってるんだろ?」


「く・・黒幕!?」


おいおい嫁殿・・ここ、までくりゃあ絶対に黒幕いるってわかるだろう?それとも、オタクセンサーがここじゃ働かなかったか?


そして俺の言葉にアマテラスは驚いたように目を見開くと、またゆるやかに目を閉じた。


『・・・その通りです。』


神殿に響く声が低く沈む



『・・・“原初の魔道士”。可の者こそ、この大陸を汚すすべての始まりであり・・元凶そのものなのです』


「原初の、魔道士?・・・そいつが、なにをしようとしてるんです?」


嫁殿の言葉に、アマテラスは何か決心したように息を吐くと俺たちを静かに見つめた



『ならばまず・・・そなた達に・・この国に伝わる伝説を話す必要がありますね』


「伝説?・・・」



『そう・・・・・・・龍神信仰と、女神信仰について・・』







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