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第十三話:旗印、掲げてみっか

さて・・木霊や大百足、さらに鬼人・・・オーガ族50人が家臣として新たに加わり、最初は俺と嫁殿だけだったこの荒れ果てたアシハラの大地も少しづつ生命の息吹を取り戻しはじめた。


そして、オーガ族がが新たに傘下として加わったその日の翌朝。


「・・・・な、なんかこの場面大河ドラマでよく見たなぁ・・・」


アシハラ国の中央にある大社。その大広間の上座に座る俺の膝に嫁殿を強制的に座らせれば、嫁殿が苦笑いを浮かべて小さく声を漏らした。


そして俺たちの目の前には木霊のナギ、血食百足(ブラッドセンティピード)の千姫、そして新たに仲間になったオーガ族50人、その代表であるゴンロクとナガヨシがまるで大名家に仕える家臣が如く、正座したまま指示を待っていた


・・・しかしまぁ、中々の眺めだな。ほんと一国の主になった気分だわ


「大殿。我らオーガ族50名、いつでも動けまする。さあ!ご命令を!」


「まずはアシハラの復興からでしたよね大殿、奥方様、なにからいたします?」


「うぇ!?あ、いや、な・・何から始めるべきかな?た、棚田の整備に・・あとは集落の復旧、水路の設計と・・う、うーん・・・」


俺たちを見つめながら声を上げるゴンロク、そしてナガヨシに嫁殿は慌てたように声を漏らして必死に考えを巡らせ始める。


・・・まぁ、仕方ねぇか。嫁殿はどちらかと言えば現代っ子だもんな。文明機器に囲まれた中でいきなり数百年も昔の政を考えなきゃいけないって言われても頭回らねぇだろうよ


ならここはこいつ等の主である大殿が一発キメてやらなきゃ・・だよな



「お前ら、よく聞け・・・・俺達の国にこんな言葉がある。〝人は石垣〟と」


「!・・・ソレ・・・信玄公の・・・」


まぁ、歴史を学んでた嫁殿ならこの言葉くらいは知ってるよな。


俺の一言で、しんと張り詰めた空気の中座上に国主らしくどっかりと構え、 腕に抱いた嫁殿を逃がす気ゼロの色気ある表情を浮かべ煙管をくわえながら俺は話を続ける



「・・・人は石垣、人は城。・・・だが、腹が減っちゃ石垣も崩れるってもんだ」


「お・・おぉ・・・人は石垣、人は城・・なんと良き言葉か!」


表情を輝かせるゴンロク、ナガヨシ、そしてオーガ達を見て嫁殿はこほん、と咳払いを一つすれば笑みを浮かべる


「・・・私や狗凶の居世界で語り継がれる有名な武将が居たの・・いや、居りました。」


・・ちゃんと国主の妻モード貫いてくれるのは俺としても嬉しいけど、大事なところで噛むなよ?


「・・・【人は城、人は石垣、人は堀・・情けは味方、仇は敵なり】・・これが正式に伝わってる言葉です。」


「お、奥方様?・・その・・どういう意味なんです?」


まだその言葉の意味を理解できないらしく、不思議そうな顔をして訪ねてくるナギに嫁殿は微笑みを浮かべたままさらに話をつづけた


「・・・何よりも堅固な城を築くことよりも、優れた人々こそが国家や組織を支える要であるという意味です。皆の信頼と能力が、どんなに強固な物理的防御よりも国を守る上で重要である・・・この言葉を残した可の武将は、民や家臣との絆をなによりも大切にしておりました。」


「恐れながら奥方様・・・国主であればまず目下の狙いは天下統一のはず・・であれば民や雑兵など捨ておくべきでは?」


嫁殿の言葉にオーガ族の一人が手を挙げて問いかける。俺はその様子にちらりと嫁殿を見るが相変わらずその表情は微笑みをたたえたままどこか凛としたたたずまいをしていた。


・・おぉ、完璧に国主の妻になりきってやがる。ヤバい。惚れ直した


「人は情けをかけると信頼する味方になってくれるが、恨みや敵意を買うとたちまち敵になってしまう・・・ゆえに、人と人とのつながりや信頼の重要性を可の武将は大切にしておりました。相手に恩恵や思いやりを示すことが大切であるという教訓でもあるのです・・」


嫁殿の言葉にオーガたちから感嘆の声が漏れる。・・・流石俺の惚れた女。



そんな嫁殿の様子に俺も鋭い目で一同を見渡し、重く、しかしどこか楽しげに言葉をかける


「まずやるのは、“腹づくり”だ。農地の整備。つまり、“炊く準備”からだ・・・兵糧っつーのは最も重要視してくる。ここにいる全員・・事情は違えど、俺と嫁殿の下に集った以上はもはや家族も同然」


そこまで言い切り、俺は咥えていた煙管で床をカン!と叩いて全員を見た。


「・・・全員でこのアシハラを蘇らせるぞ」


その言葉にオーガ達から力強い雄たけびが上がる。どうやらこれで家臣たちの気持ちは団結してくれたらしい。すると先ほどまで話を聞いていたナギ勢いよく手を挙げた


「はいっ!!水脈の確認と神稲の植え付け!あと、日照の関係で棚田の向きも変えた方がいいかと!」


ナギの言葉に千姫もしずしずと一歩前へ出れば微笑を浮かべ


「奥方様と大殿の住まわれる大社を中心に、農地と倉を放射状に築くのが最も警備と輸送に適しておりますかと・・・」


その言葉にナガヨシが勢いよく立ち上がり声を上げる


「じゃあ俺は材木運び班の指揮に回ります!木霊の坊主!図面引き頼むぞ!ゴンロクの兄者!地ならしは任せたぜ!!」


・・おい、お前ら義兄弟の契りでも結んでたのか


「応さぁああああ!!アシハラの石と木と魂を、我らオーガ族が積み上げましょうぞおおおお!!」



おいオーガ共、と全員正座から勢いよく立ち上がんじゃねぇや。なんで音だけで地響き起きてるんだよ


「っふふ・・・なんか、騒がしくていいかも」


目の前の光景に俺の膝の上に乗ったままの嫁殿は呆れたように笑いながらも俺を見る。


「・・・ああやって動き出した連中をまとめてるのは、実質お前の“握り飯”だ」


「私の?・・ちょ!顔ちかい!声!耳元やめんか!」


真っ赤になりながら諫める嫁殿に俺はわざとらしく低く甘い声で耳元で囁く


「・・・なぁ三雲。“飯で動く国”っての、悪くねぇだろ?」


「そ・・そりゃあ・・・まぁ・・うん・・」


「それに・・そろそろ、“この国の旗印”も決めねぇとな?」


真っ赤になりながらうつむく嫁殿にそう声をかければ、ふとナギが手を挙げて俺たちを見た


「あ、ところで奥方様。奥方様はどうして〝仮面〟をつけてるんです?」


「・・・え??仮面??つけてないけど?」


嫁殿の言葉に千姫も不思議そうに首をかしげる


「左様なのですか?・・・私からも初めて会った時から奥方様は仮面をしておられたかと・・・」


「・・・・・はっ!!」


その言葉に何かを思い出したらしく嫁殿は俺を見て、そのまま自分にかかったデバフスキルをチェックした。


【花嫁の面隠し:狗凶様以外から三雲様の顔認識は不可能となります】


「・・・・こらぁあ!!阿保犬ぅ!!」


慌てて立ち上がり真っ赤な顔で俺を指さして睨む嫁殿に俺は静かに口元に煙管をくわえたまま、目を細めた。おーおーすっげぇ顔してんぞ。可愛いだけだからやめとけよ。なぁ?


「ああ、気づいちまったか。嫁殿、自分の“嫁属性スキル”の存在に」


「嫁属性スキルってなんだぁ!!あと!ド直球で開き直るんじゃないよ!」


「・・・“花嫁の面隠し”。この旦那様が初夜にお前にかけた【祝福スキル】のひとつだ」


「してないわ!!初夜とか!まだっ!あの・・・失ってないわ!!たぶん!!!」


「“他のヤツらには絶対顔を覚えられねぇ”。俺以外に視認される必要、ねぇだろ?」


・・・当然、勇者様に選ばれたお前のオトモダチも対象に入ってるけどな?


真っ赤になりながら抗議する嫁殿とわざとらしく紫煙を吐き出し悪い笑みを浮かべる俺たちを見てナギは目をぐるぐるさせたまま驚きの声を漏らす


「え!?え!?じゃあ今まで僕たちが見てた“奥方様”って・・なんかこう、フワッとした謎の美女オーラの・・・大殿の心象が投影されてたもの?!」


「美女じゃないんだなー!!ただのオタク大学生なんだなー!!」


ナギの言葉を慌てて訂正しようとする嫁殿に千姫も着物の袖を口元にあてて静かに笑みを浮かべる


「・・・それで、どこか霞がかかっていたような印象でございましたか・・・まさに“神の妃”、朧の如し」


「なるほど!だから奥方様はその犬を模した仮面を付けてるように俺たちに見えるってわけですか!」


ナガヨシも笑みを浮かべてうんうんと頷きながら嫁殿を見る。対する嫁殿はまさかの事態に口をぱくぱくさせたまま固まっていた。


その様子に俺は嫁殿の手を引き自分の膝に座らせるとあえてその手をにぎにぎしながらにこっと笑い、まるで“些細な事”のように呟いた


「安心しろ。ちゃんと解除方法もあるぞ?」


「な・・なに?」


訝しむ嫁殿に顔を近づけ、俺はあえて低く囁いた。


「──“俺のキスで認証許可”出すだけだ」


「おバカーーーーーー!!!!!」


・・・おいコラ。なんでビンタするんだよ。ちょっと痛ぇじゃねぇか


だが、俺の受けたビンタと引き換えに・・・嫁殿のスキルにまた新しい要素が加わったのである。


・-・-・-・-・-・-・・-・-

【花嫁の面隠し】(状態:発動中)

効果:狗凶様以外から三雲様の顔は「霞がかかったように見え」、脳に記録されません。

発動条件:狗凶の祝福スキル(初夜に自動付与)

解除条件:狗凶の「顔認証解禁キス」により、個別許可が可能。

現在、許可されている対象:狗凶のみ(ALL視認不可)


・-・-・-・-・-・-・-・・-・-・-・


メニュー画面に表示されたスキルに嫁殿は深いため息をつくと、先ほどから千姫の傍に控えている連中に目線を映した。・・まぁ、俺も正直気になってはいたんだよな


「あとそのぉ・・・・そちらのゴブリンの皆さまは??」


「はっ・・・アシハラ鉱山を住み家にしていたゴブリン達で御座いまする・・・」


鉱山?・・・あぁ、なるほど。大社の裏手にある山のうちの一つが鉱山だったわけか。


・・しかしアシハラのゴブリンってのは身に着けてる装備もどこか和風なんだな。


そんな事を考えながらゴブリンたちを眺めていれば一族の長らしき個体が俺の前に出て深々と頭を下げた。


「・・イブキ殿、ならびに〝さる御方〟よりお二人の事を聞き及び、はせ参じた次第でございます・・・狗凶殿・・否、大殿。我らゴブリン族一度、家臣として召し抱えていただきたく。」


「・・・俺に仕えるだと?」


あの白蛇坊主・・・どこかで俺たちの様子見張ってやがったな?


差し詰め【お前たちの主足りうる名君が現れた】なんてゴブリンどもに零したんだろう。・・ったく・・何考えてやがるんだほんとに


「――……くだらねぇと思ったがな。」


そう呟き、俺はゴブリンたちの前に一歩進み、沈黙のまま長のゴブリンを見下ろす。


「お前らの瞳、腐ってねぇな。」


「!・・・では・・」


「だが忘れんな。俺は“主”に仕えた犬神だ。お前らが俺に仕えるってことは・・・その先にいる、俺の嫁にも背を預けるってことになる。」


その言葉にハッと顔を上げて、ゴブリン達は俺の膝上に座る嫁殿を見つめる


「ついて来れるか? 俺たちが世界を敵に回しても・・・忠義を貫き続けれるか?」


射貫くように見つめてくる俺のまなざしに怯む事なく、長のゴブリンは深い息を吐けば深々と頭を下げる


「はっ・・・大殿。我ら命、差し出す覚悟に御座いまする!そも“御方”が選ばれし者に仕えるよう申されたと聞き及び、これなるは――我らの誇り。」


長の態度を見て、他のゴブリンたちも一斉に膝をつき、頭を下げる。その様子を傍で見ていた千姫がぽつりと声を漏らした


「・・・これが、大殿の徳・・・ではなく〝業〟と申すべきか」


当たり前だ。国主名乗った以上はこのくらいはやらねぇとな


「ま、これでアシハラも立派に〝臣下持ち〟ってわけだ。なぁ、嫁殿? …それとももう、三雲の方とでも呼ぶべきかね?」


「だっ!!だから!なんで大名の妻みたいな呼び方をもう考えてんの!」


俺の肩をかるくぺちりと叩けば嫁殿はふとゴブリンたちに視線を移した


「となると・・・これはまたアレかな?式契約しなきゃいけないパターンか・・・仕方ない!」


そう呟けば嫁殿はナギや千姫、そしてゴンロクやナガヨシの時と同じく印を結び、簡易的な式神契約をほどこした、


【ゴブリン族50名、狗凶の傘下に加わりました。代表の長ゴブリンに名前をつけてください。】


「さて・・名前かぁ・・・名前・・・ん?・・」


契約を済ませ、代表者である長のゴブリンに付ける名前を思案していた嫁殿だったが、ふとゴブリンの手を見てあることに気が付いたようだった


「その手にできたマメとか火傷の痕・・・アンタらもしかして、鍛冶スキル持ち?」


「・・・ほぉ・・・わかりますか。流石は奥方様・・」


嫁殿の言葉に長のゴブリンは驚いたように声を漏らす。・・・なるほど、鉱山に住み着いてたってことは自然と鍛冶の技術が身近にあったのか。この小鬼どもは


・・独自の生態系や環境の変化にも対応して生き延びてきたってわけか


「なら、名前は・・・【正宗】。私の国に伝わる、伝説の刀鍛冶の名前を授けるよ」


嫁殿の口から出たあの伝説の刀匠の名前に俺は腕を組み、笑みを浮かべる


「・・・“正宗”ねぇ。良い名じゃねぇか。鍛冶の民には、もったいないくらいだ。けど・・似合ってるぜ、このゴブリンには。」


俺の言葉に、名を与えられた長のゴブリン・・正宗が深々と頭を下げると、それに続くかのように他のゴブリンたちが一斉に土下座のように膝をつき恭しく頭を垂れた


「この名、身に余る光栄・・・奥方様より賜ったその瞬間より、我らが槌は怨霊をも打ち砕く聖なる火となりましょう・・・!」


「そっか・・・でも、名前負けしないでよ?この世界で一番の武具を作る鍛冶屋になってくれるとこのアシハラも潤うだろうからさ?頼ん・・・こほん!・・・・頼みましたよ。正宗」


「御意!我ら、鍛冶ゴブリン一同、命を賭してでも奥方様のご期待に応えてみせましょうぞ!」


また国主の妻モードで語り掛けた嫁殿と忠誠の証を見せたゴブリン達を見て俺はニヤリと口の端を上げれば嫁殿に声をかけた


「・・・これで後方支援もバッチリってわけか。上出来じゃねぇか、嫁殿。こっちの準備も整ってきたぜ?・・・あとは、アンタがどこまで望むかだ。・・国を興すも、焼き払うも、お前の手一つで決まるぜ?」


「いやいや・・焼き払うまではダメでしょ!まぁ、うっかり敵が攻めてきた時のための対策とか・・・・あ」


そこまで言葉を続けていた嫁殿だったが、ふと口元に手を当てる。・・・お、なんか閃いたな?


「・・・!な、ナギ!紙と炭!なんなら木の板と木炭ちょうだい!」


「え??わ、わかりました奥方様!どうぞ!」


慌てて木の板と木炭を持ってきたナギに小さく礼を言うと嫁殿はさっそく何かを書き始めてソレを正宗に見せた


「・・・・正宗、コレつくれる?」


「・・ほほぉ。これは・・刀の絵ですかな?となりは・・・?・・奥方様、コレはいったい・・」


ーーー ほぉ・・・?


俺は刀の絵の隣にかかれたある物を見て口元に笑みを浮かべる


「ーーー 種子島。火縄銃だよ」


「銃?・・・奥方様、それはいったい・・・」


「私の世界に伝わる・・・・聖なる騎士さえも穿つ鉄を放つ弓だよ。」


「!!」


嫁殿の言葉に俺を除く一同全員が驚愕の表情を浮かべる。


なるほど、どうやらこの世界に銃という概念は無いらしい。


その考えが確信に繋がった瞬間。自分の濁った青の瞳が細められ唇の端がゆっくりと吊り上がるのがわかった。そして、まるで面白い獲物でも見つけたかのような目つきで、嫁殿が描いた【種子島】を見下ろして俺は口を開く


「嫁殿よぉ・・・まさか、こんな異世界で“火縄銃”って単語を聞くとはな。こいつぁ・・・血の匂いがする玩具だぜ。」


図面を取り上げ、炭の汚れを気にせず指先でなぞりながら、俺はあえて凶悪な笑みを浮かべる


「火薬の調達と精製ができりゃ、確かにアーヴァロンの鎧ガチガチな野郎どもでも一撃でぶっ飛ばせる。剣と盾でどうにかなる代物じゃねぇ。・・・おまえ、ほんと血が通ってるのか怪しいくらいイカしてんな。」


そうして、ぽんっと、三雲の頭に軽く手を置いて俺は低く呟く


「だが・・・一発でも“撃てたら”の話だ。種子島は、精密な作りじゃねぇと暴発して腕ごと吹き飛ぶ。火薬と雷管と鉄の細工師……こいつら全部、揃えられる保証がなきゃ、ただの絵空事だぜ?」


たしかに過去に日本で、遠い歴史のうねりを見てきた狗神である俺には、火薬や術式兵装の知識もある


ーー だが、それだけじゃあ足りない。


「でもよォ・・・面白ぇ。“おまえ”が願うなら、俺はこの国でもう一度、銃口を火を吹かせてやってもいい。・・・何人殺すか、想像するだけでゾクゾクすんだよ。」


そのまま嫁殿の手をとって、自らの唇にゆっくりと触れる


「その代わり・・・“嫁”としての責任も取れよな。血にまみれた化物と手ェ組むってのは、そういう意味だ。・・よく覚えときな」


「・・・・違うよ。狗凶」


「あ?何が違ーーーー  !」


俺を見つめてくる嫁殿の瞳には明確な怒りが込められていた。


・・理不尽なままこの世界に召喚され、強引に仲間から引きはがされたその不条理


そして、オーガ達にした仕打ちへの怒り。


「・・・・借りは返す。絶対に」


「ーーーー っ・・・」


背筋がぞわぞわと逆立つ。だがそれは恐れからじゃあねぇ。いつもは平和主義であまり争いを好まない嫁殿から発せられた怒りと、殺気。


それが俺には、たまらなく嬉しかったのだ。


・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-

・-・-・-・-・-

・-・-・-


そしてその日の夕方、俺は大社の縁側に座り風景を眺める嫁殿にある提案をしてみた


「・・・この社を本丸にする??」


「おう、そうだ。ここを中心にすりゃ、余所も自然と治まる。・・ま、焼けちまった城よりゃ、こっちのが“俺たちらしい”だろ?」


傍に腰かけ、煙草代わりに干した薬草を燻らせながら、目を細めて嫁殿を見ながら手を伸ばし、そっと頭を撫でる。指先がふわりと髪を撫で、まるで俺にはそれが祝詞のように感じられた


「・・何より、“ここ”にはお前がいる。俺が守るにゃ、これくらいこじんまりしてる方がいい。・・・気に入らねぇか?」


「そんなことはないよ・・むしろ・・・気に入ってる。」


「木霊も百足も、オーガどもも・・・まぁ、あのゴブリン族の騒がしさはさておき・・城より社のが似合うんじゃねぇの。祀るもんが“俺ら”なんだしよ」


そう言って、俺は嫁殿と同じ眼前に広がる風景を見た


「なぁ、三雲・・・。お前がここを“家”って思ってくれるなら、俺はどこだっていい。・・・けど、どうせなら、“神の嫁殿”が一番輝く場所にしたい。そうだろ?」


縁側の奥、朽ちた社の奥の扉が、風もないのにぎぃ、ときしむ・・・ まるで何かが“始まり”を許したかのように。



「・・で、お前はどうしたい?三雲。俺の嫁として、“国を興す”ってのは、面白ぇ遊びかもな」


「国を興す、かぁ・・・」


ふと社から外を見ればオーガ達やゴブリン達が協力して廃墟となっていた家家を建て直していたり、棚田に神稲の苗を植えている様子が見える。おだやかだが、どこか騒がしい風景に嫁殿は小さく笑みをこぼし


「・・・・ふふ・・・いいかも。ソレ」


社の柱に背を預け、嫁殿の横顔を見ながら、つられて俺も笑みをこぼす


「……あぁ、そうだな。」


穏やかな風が吹き、神稲の若い葉が波のように揺れる。 オーガの掛け声、ゴブリンの金槌の音、木霊や木々の唄うような仕事の声。 その全部が何もなかったアシハラの地に“命の音”として響いていた


「誰もが腹いっぱい飯を食えて、眠れる家がある。笑い声が絶えねぇ場所。・・・それを“国”って呼ぶなら、悪くねぇ」


「・・ほんとにね・・・」


「俺たちが焼け野原で拾ったもんが、“国”になるってんなら──この身、いくらでも使ってやるよ」


俺を見つめる嫁殿の方へ視線を向け、軽く頬をかく


「ただし・・・お前が“王”だ。俺はその隣で、刀を持ってるだけでいい。」


「え?・・・私が?」


「・・・いや、“王”じゃねぇな。お前はこの国の“心臓”だ。俺が止めても、お前が笑ってりゃまた動き出す。・・・そんな国を、俺は見てみてぇ。」


妖怪風情が願うべきもんじゃねぇだろうな・・けど、俺からすりゃあどうでもいいんだ。


そのまま手を伸ばし、嫁殿の頬を軽くつまんで俺は笑みをこぼす


「ほら、今も見ろよ。お前が“いいかも”って言っただけで、

 外の連中の動き、さっきより軽くなってる。・・・アシハラはもう、“お前の国”だよ。嫁殿。」


だんだんと沈んでいく夕焼けが大社を優しく照らす


俺の言葉に最初は目を丸くしていた嫁殿だったが、ふと困ったような笑みを浮かべた


「狗凶の言葉は嬉しいけどさ・・・でも・・・・・国なんて私いらないよ。ただ・・・こんな穏やかな時間が、過ぎればいいかな・」


その言葉を聞いた瞬間、俺は思わず微かに目を細める。



ふにゃりと笑う嫁殿の髪と神稲の黄金の銃弾が風に揺れる。


その光景があまりにも眩しく、そしてなによりも神々しい宝物のように映り、俺は 火を灯したような瞳の奥で、何かを噛みしめるように沈黙し──やがて小さく言葉をこぼした


「……そりゃ、最高の贅沢だな。」


ゆっくりと立ち上がり、嫁殿の肩を優しく抱きよせる。 肩が触れ合う距離で、風に揺れる黄金の稲穂を眺めながら俺は言葉をつづけた



「“国を興す”なんて、俺の口が勝手に言っただけだ。本当は、そういう“穏やかさ”を守るために戦ってたのかもしれねぇな……」


そうして、嫁殿の髪をひと房、指先でそっとつまむ


「・・・なぁ、嫁殿。お前の髪も、神稲も同じ光してるな。触れたら壊れそうで、だけど確かに温かい。」


「ゆ、夕日に反射してるだけでしょうが・・・」


俺の言葉に照れる嫁殿がたまらなく愛おしくなり、そのまま、手のひらで頭を包み込むように撫でた



「・・・お前が笑ってりゃ、それでいい。俺はそれを“守る側”でいさせてもらう。戦でも、平穏でも・・・お前の隣にな。」


沈みゆく陽に照らされる神稲と、風にほどける髪。 その間に挟まるように、俺の低い声が穏やかに響いた



「・・・なぁ、三雲。こうして風の音を聞いてるとさ・・・世界の終わりなんて、嘘みてぇだな。」


「そうだね・・・はっ!!そ、そうだ!大体・・・なんかあの勇者召喚妙に引っかかるんだよなぁ・・それに、イブキや正宗が言ってたさる御方って誰よ・・・」


そう嫁殿が不満げに言葉を漏らしたその瞬間、ふと背後に一陣の風が拭き


「ーーーうむ。会わせる時が来たかの」



そこには、その渦中の人物であるイブキがいつの間にか立っていて、俺達を静かに見つめていた












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