第一話:異世界?なんじゃそりゃ
狗神
西日本を中心に伝わる憑き物の一種で、犬や狐、または蛇などの霊が人に憑いき災いや病いをもたらすと信じられている呪詛。犬の身体を土の中に埋め餓死寸前まで飢えさせその首を斬りその首を焼き頭骨を祀る事でその家に富みと名誉を、外敵に災いを与える存在とも伝えられ
その家は代々犬神憑きとして忌み嫌われて来た。
・・・まぁ、かくいうこの俺もその狗神であり四国から出てきた陰陽師の一族である早蕨家に代々憑いてきた化け物だ。
俺が望みを叶えれば人間どもは喜んでなんでも差し出した。食料だけではなく
しまいには自分の家の娘を代々俺の嫁として・・簡単に言えば生贄として差し出してきたくらいだ
差し出された女の大半は短命だったり、俺が見えちまった女は錯乱して自ら命を絶った
どいつもこいつも欲にまみれた屑どもばかりだった。
・・・だけど
『わんわ、くびいたいたい、かわいそう』
ーーー ただ一人だけ、俺を哀れんだ女を視界に入れたその瞬間
俺は心を奪われた
それが嫁殿、早蕨三雲との出会いだった
『・・・・・なんて物思いにふけっていりゃあなんだこの状況は』
先ほどまで自分の生い立ちや嫁との出会いを思い出しながら現在目の前で行われている状況整理に俺は頭を痛めた
たしか俺は嫁殿の大学後、人間ども(嫁殿が言うには友人や可愛い後輩達)と共にからおけとやらに行こうと外に出たはずだ
たしかに、木の襖(嫁殿はたしか講義室のドアとか言っていた)を開けたはずだったのだがそこにあったのはいつもの廊下では無く豪華な装飾が施された部屋と複数人の見知らぬ人々だった
「お、おぉ!!転移門が開かれた!」
目がちかちかするような衣服を身に纏った異人どもの言葉にわけもわからず呆けていると目の前にある玉座らしき椅子に腰掛けた一人の女が声を上げた
「ようこそお越しくださいました・・・異世界の勇者様方・・・私はハイランディア大陸、騎士帝国アルヴァロン女王のギネヴィア・フォン・アルヴァロンと申します・・・」
『(・・・ゆうしゃだぁ??)』
目の前の女、ギネヴィアの言葉に俺はふと考えこむ。そう言えば嫁殿がよく読んでた漫画とかいうモンに今起こってるような事が書いてあったような・・・たしか・・・
『あぁ・・これが異世界転移とかいうやつか?』
「皆様を召喚したのは他でも御座いません・・・この大陸を魔竜王から救っていただきたいのです」
ギネヴィアの言葉に嫁殿の後ろに居た濡れ羽色の髪に澄んだ青い瞳をした女が手を上げる
「あの・・・いきなり連れてこられたあげくそんな事言われましても・・・」
「夜ちゃん・・・」
「それに、私達ただの一般人ですし・・・家に帰らせてもらえないでしょうか。」
名前、天原夜
嫁殿の一つ下の後輩であり同じ剣道部所属の小娘。冷静に周りを見、適切な判断を下せる姿勢やその中性的な立ち振る舞いからして【王子】的存在として常に多くの人に好かれている
「流石夜ちゃん・・頼れる後輩!こんな状況でも冷静に対処できるとは先輩は嬉しいぞ!」
ウンウン、と後ろで腕を組み頷く嫁殿を他所に夜の問いかけを聞いたギネヴィアは静かに語り出した
「わかっています・・・何も知らぬ皆様をいきなりこのような状況に置いてしまった事、本当に申し訳なく思っております・・・ですが、ですがそれでも!皆様のお力が必要なのです!どうか・・・どうかこの大陸をお助けくださいっ・・・」
頭を下げるギネヴィアに今度は嫁殿が声を上げた
「あの〜・・・これが世に言う異世界トリップだとしてよ?ちゃんと補正って言うの?・・・チートスキル的な・・・バフ的なアレって貰えたりします?・・それに、魔竜王ってなんなんです?」
「そうですね・・・仰るとおりです・・・」
嫁殿の言葉にギネヴィアは少し目を伏せると静かに語り出した
今から遥か昔。この大陸の底から闇が吹き出し、その闇の穴から邪悪な炎を纏った恐ろしいドラゴンが現れたのだそうだ。
そのドラゴンの力は凄まじく、大陸に生きる皆が力を合わせても歯が立たなかった。
このままでは大陸の危機であると感じた先代の王族は〝女神〟に祈った。すると別の世界とを繋ぐ門が現れ、その門から勇者が現れ邪悪な竜を討伐し大陸を救ったのだ。
勇者は最期に自分の力を水晶玉に込め、竜を倒した聖剣を帝国の要として奉納した後元の世界に帰ったのだそうだ
「なるほどなるほど〜?・・・あれ?じゃあその魔竜王とかって倒されたんじゃないの?」
話を聞いていた嫁殿が訪ねるとギネヴィアは深刻そうな顔をした
「・・・今から一週間前、魔物達の動きが活発になってきたのです」
「魔物の動きが、ねぇ」
「そして・・・大陸の北東にある廃墟となったガラハット城から正体不明の闇の穴が現れたと報告がありました」
ギネヴィアの言葉に夜はしばらく傍観していたが状況を理解した
「・・・つまり、魔竜王が復活したんじゃないか?って話ですか」
「その通りです・・・もはや一刻の猶予もございません!皆様の力をお貸しください!」
そう言うとギネヴィアは手に持っていた水晶玉を中央に用意された台座に設置すれば一同を見た
「これより、皆様の状態と神より授けられたギフトスキルを示す儀式を行います・・・何方か、この水晶玉に手を」
ギネヴィアの言葉に皆は顔を見合わせ困惑すると一人、先ほどまで静かに話を聞いていた夜が前に出た
「・・・・私が先に行きます。」
そう言って夜が静かに水晶玉に手を翳すと眩い光が水晶玉から吹き出し始める
そして目の前にてれびげぇむでもよく見る表示のような文字が浮かび上がった
天原夜~ YORU AMAHARA ~
レベル50
体力S 俊敏S 魔力S 防御S 幸運S
ギフトスキル:騎士の恩恵 聖剣の加護
「・・・・これ、は」
「な、なんと言うことでしょうか!適正ランクS!?そ、それにこのギフトスキルは・・・」
ギネヴィアや響めく貴族や兵士達を他所に水晶玉から眩い光が零れ落ちた。それは夜の手のひらに収まったかと思うと一振りの剣に姿を変えた
「・・・剣?」
「聖剣マルミアドワーズ!!やはりそうなのですね!・・・天原夜様!貴女さまこそ勇者の素質がある御方!」
ギネヴィアの言葉に辺りから歓声が上がるが夜は困惑したように剣を握ったまま静かに俯いていた
「これは良い幸先です・・・さあ、他の皆様もどうぞ!」
笑みを零したギネヴィアの言葉に次々と皆手を翳してゆく
花谷萌々乃~ MOMONO HANATANI ~
レベル50
体力C 俊敏B 魔力S 防御B 幸運A
ギフトスキル:治癒師の心得、妖精の加護
音森陽葵~ HIMARI OTOMORI ~
レベル50
体力C 俊敏A 魔力D 防御B 幸運A+
ギフトスキル: 鍵開け 狩人の心得
「では次の方・・・」
「お、私だね」
ギネヴィアの言葉に嫁殿は立ち上がり水晶玉に手を翳した
すると、水晶玉が先ほどとは違い禍々しい光を放ちだすと皆と同じくメニュー表示のような文字が浮かび上がった
早蕨三雲~ MIKUMO SAWARABI~
レベル50
体力A 俊敏C 魔力C 防御B 幸運E---変じて悪運S+
ギフトスキル:剣豪 狗神の呪い
イレギュラー: 呪詛値999
「・・・・・・・おん?」
「・・・・こ、これ、は・・・・」
表示された文字に王妃や周りの貴族達の顔や兵士達の顔が青ざめていく
そして水晶玉から禍々しい黒い光が現れたかと思うと一振りの刀が嫁殿の前に現れた
「おー!日本刀!すっごいかっこいい!王妃様この刀は名前なんーーーー」
刀を握りしめ嫁殿がギネヴィアを見た瞬間、
「この者を殺しなさい!!!」
「・・・・・は???」
顔を青ざめ怯えたように叫ぶギネヴィアの言葉に武装した兵士達が槍を構えて取り囲んだ。