第一章 忘れられた歌の調べ
キャラブレしそうなこの頃
エラは、地図を手に旅に出た。
道は舗装されておらず、獣道のような細い道が続いていた。
(初めて村を出た、、。)
初めて訪れる場所ばかりで、不安が胸をよぎる。それでも、手に握られた古ぼけた地図と楽譜が、彼女の心を温めてくれた。
旅の始まりは、深い霧に包まれたエルフの森。
木々は高く、太陽の光もほとんど届かず、苔むした地面は足音をすべて吸い込んでしまう。
(うぅ、ちょっと怖いかも)
耳を澄ましても、鳥のさえずりも、風の音すら聞こえなかった。まるで時間が止まったかのような静寂に、エラは孤独を感じ始めた。
「?岩の上に誰かいる、、。」
道に迷い、途方に暮れていたその時だった。
少年が岩の上に座り、じっと森の奥を見つめていた。
「ねぇ、何しているの?」
透き通るような肌と、尖った耳を持つ少年は、エラを警戒するように静かに見つめ返す。
「君は、この森の者じゃないな。どこへ行くんだい?」
彼の声は静かだったが、その瞳は何かを確かめるように鋭かった。エラは、少しだけ戸惑いながらも、正直に答えた。
「私は、伝説の歌を探す旅をしています。この森に、その歌の一部が隠されていると聞いて……」
その言葉を聞いた瞬間、レンの目が少しだけ揺らいだ。エラは、彼の心に何か深い悲しみがあるのを感じた。
言葉を交わすよりも、心を通わせる方が早いと直感したエラは、母親から教えてもらった子守唄を口ずさんだ。
それは、風の囁きや、川のせせらぎを真似た、穏やかな歌だった。
――眠りなさい 風の子よ
木々の葉っぱの 揺りかごで
優しい風が 歌うから
怖い夢は 見ないで
眠りなさい 水の子よ
川のせせらぎ 子守唄
きらきら光る 魚たちが
そっと見守っているから――
――風の子守唄――
歌い終えると、レンは驚いたように呟いた。
「……僕の、心の中に響く。君の歌は、僕の記憶を呼び覚ますようだ」
「わたしは、エラ、君の名前はなんていうの?」
「僕はレン」
レンは、自分がなぜこの森にいるのか、なぜ記憶を失ったのか、何も思い出せないのだと告白した。
エラの歌が、彼の閉ざされた心に光を灯したのだった。
その時、レンは突然、立ち上がった。
「この森の、もっと奥に、、。僕は、そこへ行かなければならない。君の歌が、そう言っている」
「まって、わたしもいく」
エラは彼の後を追った。レンは迷いなく、木々の間をすり抜け、苔むした地面を歩いていく。
エラの歌が、彼の内なる羅針盤を動かしたようだった。やがて、二人は森の中でひときわ古い、巨大な木が立つ場所に出た。
(大きな木、こんな場所があったなんて)
その木の根元には、蔦に覆われた古い石碑が静かに立っていた。
「ここだ。ここが、僕の故郷だ」
レンは、石碑を覆う蔦を慎重に取り除いた。すると、そこには古代の文字と共に、見たこともない楽譜が刻まれていた。
「見せてみて、これは、、。」
エラは、手に持っていた楽譜と見比べ、二つのメロディが一つに繋がることを悟った。
「君の歌が、僕の居場所を教えてくれた。この旅に、僕も連れていってくれないか。君の歌が、僕の道しるべだ」
「わかった、一緒にいこう」
エラはうなずき、二人の旅が始まった。
石碑を見つけた後、エラとレンの二人の旅が始まった。
レンは、地図の読み方に詳しく、森の道を迷いなく進む。エラは、彼の知識と、森の生き物たちとの不思議な交流に、驚きと感動を覚えていた。
レンは、エラの歌が自分の記憶を呼び覚ましたことに感謝していたが、同時に、自分の過去に何があったのか、再び失うのではないかという不安も抱えていた。
ある日の夕方、二人は小さな川のほとりで休憩していた。エラが焚き火を起こし、レンが近くの木の実を探してくる。
「レン、疲れてない?森の中をずっと歩きっぱなしだったから」
「大丈夫だよ。僕たちは森の子だから、森の中は平気なんだ。それに、君の歌があれば、どんな道でも歩いていける気がする」
レンはそう言って、少しだけ恥ずかしそうに微笑んだ。エラは、彼の言葉に胸が温かくなった。
「レン、教えて。あなたの故郷はどんな場所だったの?」
レンは、少し顔を曇らせた。
「思い出せないんだ。石碑を見た時、懐かしい気持ちになったけど、それだけなんだ。どうして僕が一人で森にいたのか、僕の家族はどこにいるのか、何も分からない」
エラは、そっとレンの肩に手を置いた。
「大丈夫。私が、必ずあなたの故郷と、あなたの歌を見つけてあげる。私の歌が、あなたの道しるべになるって、言ったでしょう?」
その夜、エラはレンのために、星に届ける歌を歌った。
――夜空に散らばる 光の粒よ
どうぞ 私の歌を聞いて
小さな願いを 見つけてほしい
迷わないように きらめいて
歌声は風に乗り 遥か彼方へ
心に秘めた 想いを乗せて
どうか届けて 迷子の星へ
優しい夢を 見せてあげて――
すると、空から小さな光の粒が舞い降りてきて、焚き火の周りをきらきらと舞い始めた。それはまるで、レンを励ましているかのようだった。
数日後、二人は森を抜け、広がる草原に出た。風が強く吹き、エラの髪と服を揺らす。レンは、風の音に耳を傾け、どこか遠くを見つめていた。
「この風の音、どこかで聞いたことがある気がする。風が、何かを囁いている」
レンの言葉に、エラは地図を確認した。地図には、この先に「銀色の湖」と書かれていた。
「銀色の湖?」
風の囁きが、次の目的地への道しるべとなっていたのだ。二人は、新たな希望を胸に、風の導くままに歩き始めた。




