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占い師さんの後悔

作者: 塩狸

横浜でデート中に

彼氏と占いしてもらった

ホントに軽い気持ちで

誰も並んでなかったからね

さらっと占ってもらえた

そしたら

いきなり

「あら

彼氏さんはバツイチさんか

んー

前のお嫁さんはしっかり幸せになってる

縁はしっかり切れてるから大丈夫」

って

「……は?」

って声でたよね

(バツイチ?お、お嫁さん?何言ってんのこの人、適当にも程がある)

と思って笑いそうになったら

隣で凄い変な顔して固まってる彼氏

占い師さんは

「え?え!?嘘?やだ、まさかそんな大事なことを彼女に伝えてないなんて思ってなくって!えー!?うわ、どうしよごめんなさいね!」

慌てながらもしっかり追い討ちかけてきた

私の方は

「金運凄くいい、金運」

っておまけもおまけみたいなこと言われて終わり

その後のデートの気まずいこと気まずいこと

中華街のレストランも予約してたからさ

「バツイチなの……?」

「うん……」

「知らなかった……」

「……」

なんか私より彼の方が落ち込んでるって言うか不機嫌?

いやなんでお前が不機嫌なの?

みたいな

結局乗る予定だった観覧車も乗らずに

彼の車で来てたけど

タクシーで帰るって言ったらあっさり了解されて

それにもモヤモヤしながらさ

そのまま帰るのも癪だし

1人で買い食いしてみたりお土産もやけ買いしてさ

陽も暮れてきて帰る前に何となく

もう一度あの占い師さんのところへ行ったら

数人並んでた

私の番になって入ったら

「お?クレームでも入れに来たのか」

って顔で少し構えられたけど

「もう一度、今度は一人でお願いします」

と頼んだら

「……あー、その、さっきは、ごめんなさいね」

って謝られた

「いえ……」

悪いのは彼氏だしね

私が1人のせいか

占い師さんは昼間より断然真剣な顔で

テーブルの上の小さいクッションに手を乗せるように言われて

その手に細い手を重ねられた

「……ご両親、裕福なのね」

「あ、はい」

「商才があるのね、お二人とも

でもあなたは商才ではなくて

ご両親からの金運のみを受け継いでる」

そうなんだ?

確かに2人で仕事をしているけれど苦労している様子はない

私自身は

「金運は当たり前にあるからそれに気づかないのね」

小さく笑った占い師さんは

「私は夜の方がよく視えるの」

と私の顔を見てきた

あぁそうか

だから夜は人が並んでいたのか

知っている人は皆、夜に並ぶのだ

「昼間の彼氏さんは

……そのね

あなたより、あなたのご両親に取り入りたいのね」

バツイチの事実すら隠されている事は凄くショックだったけど

その言葉も

まだ20歳越えたばかりの私には十分ショックだった

「でも、うん、ご両親はバツイチなんて許さないって思うタイプ

自分達が成功してきたから人の失敗を受け入れられない」

それは

少し解る

私のことも愛してくれているけれどそれは私が親に逆らわないから

その両親の

バツイチを失敗と言い切る古い考え方も好きではないけれど

「あの彼氏さんは、まぁその、バツイチ関係なく駄目ね」

昼間の一件で何となく察してはいた

「でも彼氏さんはね、そうね、待ってね、……うん、デキ婚に持ち込んであなたと結婚しようとしてるみたい

ご両親もさすがに堕ろせとは言えないだろうから」

確かに

色々心当たりがありすぎるし

「俺は授かり婚もありだと思う」

なんて言ってたことも思い出した

でも私

彼氏には黙ってたけど

生理痛緩和のためにずっとピル飲んでるから

彼氏の思惑通りになんてね、そう簡単には運ばなかったけど

それよりも

なんだかもう

昼間からの出来事に

私は心底力が抜けて

「……何でも、視えるんですね」

ショックで声が平淡になり、嫌味に聞こえたかもしれない

「そうね、だからお客様を幸せにはさせられないかも」

占い師さんの少し悲しそうな笑顔にハッとさせられた

そう

私の言葉はただの八つ当たりだ

「……ごめんなさい」

ホント

自分から視て欲しいとやってきたくせにね

自己嫌悪でもう一度謝ったら

そんな私に

占い師さんは

「大丈夫よ

幸せにはさせられなくてもね

占いは不幸から少しだけ道を逸らせることが出来る時もあるから」

と言って小さく笑ってくれた

ぎゅっと力付けるように私の手を握って

私は

「占い師さんって、強くないとなれないんだなぁ」

って思ったし、尊敬もした


その日の夜に

電話で彼氏に別れを告げると滅茶苦茶渋られた

当然だよね

彼は私ではなくて私の両親に取り入りたいんだから

結局

私自身はもし彼から話してくれていたら全然気にしていなかった

「バツイチ」

を理由に別れたいと伝えた

そしたら

電話越しの

「あの占い師……」

って低い声を聞いて鳥肌が立った

気になって数日後にあの占い師さんのところへ行ってみたら

昼間でも数人並んでて

「本日予約の方優先」

とあり

ちゃんとお店を開いていることにホッとして

私は改めて看板のホームページをメモして帰った

1ヶ月くらいは数日おきにホームページチェックして

更新されているか確認して

その度に

「大丈夫、生きてる」

安堵してた

でも

数日おきに予約サイト見ていたせいかね

気付いたら空いてる日に予約を取っていた

ザイオンス効果だっけ?

恋愛で言う

「単純接触効果」

的な

ちょっと違うかな?

そんなんでさ

あの占い師さんのところへ向かったら

「あら?」

と意外な客が来たと言わんばかりの顔をしたけれど

迷惑そうではなくて安心した

私は

元彼の呪詛じみた言葉を伝えて

申し訳ないがしばらく気を付けて欲しいと伝えたら

「あぁ大丈夫、大丈夫、そんなの日常茶飯事!」

と笑い飛ばしてくれ

「あのタイプは口だけ、なーんにも出来ないから!」

とも言われた

まだ若そうなのに達観してる

そして

ずっと気になっていたことを聞いてみる

「占い師さんは、自分を占うんですか?」

って

「ううん、私は信頼できる人に占ってもらってる」

って答えが返ってきた

そうなんだ


それから

数ヶ月か半年に1回くらい

私は占い師さんを

頼りになるお姉さん

くらいのスタンスで

友人関係の悩みや就職先のことを聞いてもらった

占い師さんは

私のその時の悩みだけを汲み取り

それ以上は視ないし

過不足なく

それ以上は何も教えてくれなかった


占い師さんは途中で河岸を変えた

別に珍しいことではないらしい

常連さんがいるから出来ることなんだろうね

私は近くなって通いやすくなったけど

通うペースは変えなかった


数年後に

「今の彼氏?

うん、性格の相性いい、よく働く、真面目、鈍感、気は全く利かないね

でも鈍感だからアクの強いご両親ともうまくやっていけるよ」

そんな風に背中を押してもらって

彼氏からのプロポーズを受けて結婚して2年

少しご無沙汰な占い師さんの所へ行ったのは

1年と半年ぶりくらいだった

なかなか子供できないなぁと思ってね

占い師さんはまた河岸を変えてて

少し郊外の一軒家を借りてた

好きだって言うお菓子の差し入れしたら喜んでくれた

悩みと言うかね

「いつ頃子供ができるか」

と聞いたんだ

安心したくてさ


そしたらね

そしたらだよ


「今の先進医療なら授かることはできるよ

でも

その子は決して

あなたに幸せと喜びを運んでくれるわけではない

それでも欲しいなら止めない」


って

久しぶりに笑ってくれなかった

子供っていう奇跡を

当たり前に授かれることを前提で聞いていた自分もおかしいけどさ


占い師さんは

しばらく逡巡した顔を見せた後

「……今はあなたの守護霊が必死に止めてくれてるの」

「あなたの幸せだけを祈ってね」

守護霊?

守護霊なんて言葉

この占い師さんからは初めて聞いた

そう

その占い師さんの答えも

いつもと違った

目の前の占い師さんは

いつでも今とほんのちょっと先を視ている

聞いたことだけに答えてくれる

占い師さんは、いつでも、いつだって

「今の私」

を幸せにしてくれようとしていた

いつでもね

それなのに

今は


いつかも分からない

私の未来を視ていた


そして

「……ごめんね」

済まなさそうに謝られた

その謝罪で

伏せられた瞳で

その言葉が

嘘偽りない

私の先の未来なのだなと

解ってしまった


そして

それをどうするかを

選ぶのは私で

決めるのも私



3年後かな

久しぶりに占い師さんのホームページ覗いてみたら

海の見える別荘を借りたと更新があったけれど

私が住んでいる所からは

車では優に3時間はかかる場所に仕事場を構えていた

私は

夫と2人で旅行がてら行ってみたんだ

夫は釣りをしたいと言うから

占い師さんの所まで送ってもらった

海沿いのとても綺麗な別荘だった

「お金持ちが建てたんだけどすぐに飽きたんだって」

久しぶりに会う占い師さんも結婚していて

結婚相手がこちらに住んでいたから引っ越したと聞いた

でも

「え?引退する?」

「……お腹に宿った途端に、どうしてか視えにくくなっちゃったんだよね」

あぁ

また平らなお腹だけれど

ちいさな命が宿っているらしい

「おめでとうございます」

私は

本当に心からの言葉だったけど

「ごめんなさい」

また謝られてしまった

とても辛そうに

占い師さんは

私に

自分が言ってしまった言葉を

未だに後悔しているらしい


私はあれから悩みに悩んで

病院で夫婦でそれぞれ診てもらい

結果

私も夫もそれぞれ少しずつ

弱かったり少なかったりした

お医者さんには決して不可能ではないと言ってもらえたけど

私はそこできっぱり諦めた

夫もそれでいいと言ってくれた

それでも私と一緒にいたいと

両親は

今の現代科学の力でならとかしつこく言ってきたけど全部無視した

占い師さんに

「赤ちゃん生まれたら見に来てもいいですか?」

って聞いたら

「うん、今度は友達として会いに来て」

と言ってくれて

とても嬉しかったな


信じる信じないは人それぞれだけど

私は信じた

自分の意思でこの人を


そして私は

「今の自分」

を幸せにすることに決めたんだ

先の幸せに続く今の自分を幸せにすることに


数年後の今も

真面目で鈍感な夫と2人で仲良く暮らしている

自分の選択を

後悔はしていないよ

本当に


また近々

占い師さんのところへ遊びに行くんだ

娘ちゃんへおもちゃやお菓子をたくさん持っていく予定

そう

占い師さんは

赤ちゃんを生んだら

「また視えるようになった」

って仕事をぼちぼち再開してる

「視える」

って不思議だね


今の私は

占い師さんには

何が視えるんだろう

夫と2人

ほんの少し幸せな未来なら

いいな


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