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【第31章(エピローグ)】「改革は終わらない――未来への学園構想」

 大厄災を防いで数日が経った朝。ケイはギルド支部の一室で、復興支援に関する報告書を黙々と眺めていた。


「ケイさん、各地から続々と報告が届いています。大厄災を防いだ評判が広がっていて、協力したいという声が増えているようです」


 改革派のラヴィニアが、その朗報を告げる。

 ケイはそう言いながらも、微かに安堵の色を浮かべた。


「嬉しい話だね。正直、あの大厄災を防いだとはいえ、まだみんなが受け入れてくれるかどうか不安だったんだ」

「ただ、課題が多いのも事実です。保護費の腐敗は根深いですし、大厄災で街の一部が崩れたまま放置されている地域もあります。住民の中にはもとの生活に戻りきれない人も少なくありません」


 ラヴィニアが帳簿を手に、街の現状を説明する。

 別室から姿を見せたエレナが、剣を担ぎながら深刻そうな表情を見せた。


「街は一応動き出しているけど、一部の家屋は完全に倒壊してたな。防衛結界が崩れたところも復旧作業中って感じだ」


 後ろからアリアが顔を出し、軽く髪をかき上げながら言った。


「そういえば。少し前に被災区域の子どもたちを見たんですけど、学校らしい学校が近くにないって話でした」


 ケイは自分の前世と照らし合わせるように、思わず眉をひそめた。


「学校か。たしか、いまこの世界で正式に魔法を学ぶ場所は貴族向けの学院くらいしかないんだよな。そこも保護費や賄賂が絡んでいて、庶民には敷居が高いと聞いたことだっけ?」

「そうですね。現状の学院は特権階級向けで、暗記式呪文を大人数で詰め込み式に教えるだけです」


 アリアが肩をすくめた。

 フレイアが古文書を抱えたまま、真剣な眼差しを向ける。


「みんなが平等に学べる環境を整えれば、被災地や貧困層にも希望が広がるんじゃないかなと思うわ」

「大厄災の復興と同時に、教育改革を進めるわけか。道のりは長いけど、やる価値はあると思ね」


 いいながら、エレナが剣を軽く握り直す。

 ラヴィニアも声を重ねる。


「改革派も、学び舎の設立には賛成です。保守派はまだ抵抗していますが、大厄災の被害を最小限に食い止めたあなた方は、もはや無視はできない存在になっています」

「それならラヴィニアには、ギルドとの調整をお願いしてもいいかな? 俺たちが魔法教育の制度を考えながら、学び舎の場所や授業スタイルを検討していくから」


 ケイが依頼すると、ラヴィニアはうなずいて書類を抱え込んだ。


「わかりました。貴族や領主が黙っていないでしょうけど、私も腹をくくって改革に臨むつもりです。腐敗を許す人たちとは正面からやり合わなきゃいけませんから」

「そのために俺たちも動くよ。じゃないとエレナやアリア、フレイアにも申し訳ないし」


 ケイが仲間たちを見回す。


「もちろん協力します。暗記式とコード式を融合させた授業がどんな形になるか、私もアイデアをまとめたいし」


 アリアが笑顔を見せる。


「私も剣の稽古だけじゃなくて、街の再建を手伝うよ。被災地では警備体制がまだ手薄だから、あたしの剣術でも役に立てるはずだからね」


 エレナが剣を持ち上げて意気込む。


「私は古代封印術とコード魔法の研究を続けながら、その成果を授業に取り入れるのはどうかって考えてる。大厄災を未然に防ぐ結界技術を広めるのも大事だから」


 フレイアがそう語ると、ケイは小さくうなずいた。


「よし、じゃあ学び舎の全体構想を少し詳しくしてみよう。授業は基本的に昼間に集中させて、夜はちゃんと休むスタイル。休講日もちゃんと設定して、学生たちに適切なペースで学んでもらおう」

「いいですね。暗記式の基礎と、コード魔法の初歩から教えていく形は? 詠唱をどう組み合わせるかを実習形式でやると、実感がわきやすいと思います」


 アリアがワクワクした声を上げる。


「それに、体術や剣術の時間も確保すれば、あたしみたいに魔力の少ない人でも十分強くなれることを証明できる。保護費を払わなくても、自分たちを守れる可能性が広がるはず」


 エレナが力強く頷くと、ケイも明るい表情になる。


「いいね。それなら、教科ごとに専門の講師を呼んだり、オンライン……というか魔導端末を使った遠隔授業も検討できそうだな。被災地から離れられない人たちにも教育の機会を届けたいし」


「それ、面白そうですね! コード魔法を使った遠隔投影で、実際に教室にいなくても授業を受けられるようにしてみるとか」


 アリアが声を弾ませた。


「すごいな、アリア。そうやって具体的なアイデアをどんどん出してもらえると助かる。復興が進んだら、まずは街の半壊した学校跡地を仮の学び舎に変えてみようか」


 ケイが提案すると、フレイアが頷く。


「建物は崩れているけれど、結界石や基礎の魔導ラインがまだ残っているって聞いたわ。再利用できればいいわね。現地で調査してみない?」

「もちろん。俺も一緒に行くよ。どんな工夫が必要なのか実地で見てみたいんだ」


 ケイは椅子を立ち上がり、地図を広げる。


「じゃあ、早速調査に行く前にご飯食べませんか? わたし腕によりをかけて作るんで!」


 アリアが鼻を高くして宣言する。


「少し前に『コード式バグ料理』って言ってたのに、ずいぶん自信あるじゃないか」


 エリナが首をかしげてみせると、アリアは苦笑いで誤魔化した。


「そ、それは昔の話です! 今度は大丈夫ですから! でもまあ、万が一変な味になったらエレナがカバーしてくれますよね?」

「あたし!? 剣の次は鍋を振れってわけ? 仕方ない、練習のつもりでやってみるか」


 エレナが剣を置いて肩を回すと、ラヴィニアがくすっと笑った。


「仲がいいですね。でも、私も魔術ギルドの仕事が山積みなので、そろそろ戻ります。改革派で保守派と話し合いを続けないといけないですし」

「俺たちが学び舎の話を進める分、魔術ギルドの制度改革の調整は頼むよ」


 ケイが申し訳なさそうに声をかける。


「任せてください。改革が進めば、保護費制度だって変えやすくなります。腐敗を根絶できるかはわかりませんが、少なくとも動きを止めてはだめです」

「ありがとう。ラヴィニアがいなかったら、ここまで踏み込んだ改革は難しかったと思う。気を付けて」

「ええ。私も自分にできることをします。それじゃあ、また」


 ラヴィニアは手早く書類をまとめると、部屋を出て行く。

 扉が閉まった後、ケイは一度深呼吸してからアリアたちに向き直る。


「大厄災を防げたとはいえ、街の再建や人々の暮らしはまだ混乱している。被災者の中には、家を失ってしまった人たちだっている。それでも少しずつ復興しようって動いてるし、俺たちも力を貸したい」

「そうだな。保護費を減らすとか、教育を広めるとか、やることは本当に山積みだ。けど、前よりは未来が見えてきた気がするよ」


 エレナが剣を見下ろしながら小さく笑う。


「ああ、エレナがいるから前線の警備は安心できるし、アリアは魔法教育、フレイアは封印術の研究……こうやって役割分担できるのが本当に大きいよ。みんながそれぞれの得意分野を伸ばせば、大厄災級の脅威にも対処できるはずだ」


 ケイが全員を見渡すと、フレイアが控えめに手を挙げた。


「私も早く封印術を完成させたいわ。大災厄のような危機を繰り返さないために、ちゃんと研究を続ける。研究成果は学び舎のカリキュラムに組み込めるように整備しておくわね」

「ありがとう。じゃあ、学び舎が動き出したら俺たちが最初の講師だな。教師経験はないけど、皆で協力していい授業を作りたいな」


 ケイはそう言って微笑む。

 すると、アリアが大きくうなずいた。


「大丈夫です。授業に関しては私も多少経験があるので。暗記式のサポートをしたことがあるから、そのノウハウを活かせるはず」

「それなら期待させてもらおう。よし、まずは復興している現場に行って様子を見てこよう。そのあと改めて『学び舎』の計画をまとめ直そうか」


 ケイが立ち上がろうとすると、アリアが慌てて腕を引いた。


「待ってください! ご飯を作るって言ったでしょう。お腹が減っては開発も改革もできませんよ」

「あ、そうだった。ごめんごめん、つい熱くなっちゃって。じゃあ、スープでも作って食べてから出発だな」

「そうです。ほらエレナ、鍋を取りに行きましょう。フレイアも野菜の下ごしらえを手伝って」

「了解。ちょうど手先の訓練をしたいところだし、コツコツ刻むのは得意だぞ」


 エレナが肩をほぐすと、フレイアは嬉しそうに微笑んだ。


「私も張り切るわ。研究ばかりじゃ肩が凝っちゃうもの。料理で気分転換よ」


 そう言い合いながら、三人はさっそく簡易キッチンへ向かう。

 一人残ったケイは、改めて窓の外を見る。

 大厄災の傷痕がところどころに残る街には、瓦礫を片付ける人々の姿があった。

 しかし、どこか希望の色も浮かんでいる。


「被災した人たちが、また笑顔で暮らせるように。俺たちが踏ん張らなくちゃな」


 ケイが小さくつぶやくと、鍋を抱えたアリアたちが戻ってきた。


「さあ、これから始めよう。この世界の新時代を。復興も改革も、そして新しい学び舎の設立も、全部俺たちで協力してやり遂げるぞ」


 ケイが声を弾ませ、みんな力強くうなずく。

 まだまだ困難は続くだろう。学び舎を立ち上げても保守派は黙ってはいないし、被災地の復興だって一筋縄ではいかない。

 それでも、ケイの胸には確かな手ごたえと、仲間たちへの深い信頼が宿っていた。

 ケイが微笑むと、アリア、エレナ、フレイアもそれぞれ笑顔で応える。


 確かな一歩が、すでにここから始まろうとしていた。


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