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【第25章】「最終段階の改良――封印術とコード魔法の融合」

 アステリアでの大失敗やローガンの暗躍、そして古代遺跡からの情報で大厄災再来のリスクが高まるなか、ケイたちのチームはさらに先鋭化した危機感を抱いていた。

 そこでついに、誰も踏み込んだことのない封印術そのもののコード化に挑む――かつての古代術士が未完のまま放置した大封印を、現代の魔導端末とコード魔法でアップデートする壮大な計画が、今まさに動き出そうとしていた。

 

 

 フレイアは遺跡で発見した封印書の断片を読み解き、当時の術士たちが緊急措置として結界を張り、どうにか大厄災を封じ込めた経緯を把握していた。

 しかし、その術式は『記憶や直感に頼ったアナログ的コツ』で複雑に組み合わされており、後世の人間が継承しようとしても継ぎはぎ状態のままなのである。

 長期的に安定維持するための体系化はほとんどなされておらず、場所や術士ごとに、微妙に異なるルーンが混在していた。


 「この部分、同じノードを封印してるはずなのに、術士ごとにルーンが食い違ってるわ。おそらくどれが本来の正解か分からないまま大厄災を食い止めたのね」


 ケイが端末を覗き込みながら頷く。


「古代術士たちは神業じみた魔力制御が得意だったみたいだけど、ソースのバージョン管理という概念は全くなかったんだな。もし全部を一度再構築して整理できれば、バグを取り除いてもっと安定した封印にできるかも」


 フレイアは封印書の各ルーンを分類し、何が基本ノードで何が補強ノードなのか、モジュールとして振り分けを始める。

 だが、当時は緊急事態ゆえにいろいろな術士が行き当たりばったりで追加修正をした形跡があり、矛盾点や二重定義の記述が多い。


「大陸規模の封印を一旦止めるわけにもいかないから、動きながらバグを潰していくイメージだな。まるで超大規模プロジェクトのデスマーチだ」


 ケイは意を決した表情で端末に向き合う。


「俺たちがやるしかない。古代術士は継ぎはぎで止めていたけど、ローガンが破壊を狙ってる今、ほっとけば封印のバグを突かれて破滅しかない。コード魔法でこの継ぎはぎを整理し、誰もがメンテしやすい形に変えるんだ」


 封印は大陸各地に配置された複数の結界石をノードとして連結し、定期的に魔力補強を行う仕組みらしい。

 これをコード魔法の観点で見直せば、それぞれの結界石を『サーバー』に例え、封印管理モジュールを追加して相互に通信するネットワークとして扱える。

 各都市には大型結界石メインノードがあり、小都市や村には小型結界石サブノードがある。

 ケイは、術士や魔導端末が結界石を監視し、異常や綻びを検知したら中央に報告、コードのアップデートを適用する、という流れを想定していた。

 先の大失敗からの教訓を踏まえ、いきなり全世界に導入するのではなく、まずはフォーグリアなど小都市での試験運用から開始する。

 ケイは、モンスター頻発地帯の結界石をコード化し、封印術モジュールを一部適用しながらバグを取り除いていこうとしていた。


 「もしローガンが狙うなら、ネットワークのアップデートフェーズが最大の弱点かもしれない。だからこそ署名付き術式やログ監視を徹底して、改ざんをリアルタイムで検知できるようにする」


 ケイが技術案をまとめていく。

 

 「封印管理モジュールを実装した結界石には、必ず二重チェックの仕組みを入れよう。一人の術士が書き換えるだけじゃなく、魔術ギルド改革派の許可サインが必要な仕様にするんだ」


 アリアは魔導端末のインターフェースを刷新し、誤操作や改ざんを防ぐ仕組みを設計する。

 エレナは「コードなんて分からないけど、現場で封印がちゃんと動くかどうか、あたしが見張ってやるわ。何か変な挙動があれば即座に報告する」と戦闘面でのサポートを誓った。

 そして、フレイアは膨大な古代ルーン群をコード上のモジュールとして再編し、デバッグしやすいように階層化していく。

 

「古代術士たちは、その場しのぎで術式を上乗せしていたから、どこが本来のコア部分か曖昧なの。ここを明確に分けて、必要なルーンだけを最適化すれば、今より遥かに安定した封印になると思うわ」

 彼女は興奮した面持ちで、大封印が完成した姿を想像する。


 一方ケイは、封印術に不可欠な魔力流と結界石の収束ポイントを、コード的に変数管理する仕組みを提案した。

 

「大陸規模の封印を一気に動かすのはリスクが高いから、ノードごとに段階的にアップデートする。ルーンが正常に動作すれば次のノードを更新、ダメならロールバックするみたいな手順だな」

 

 ケイは、仕事のプロジェクト管理で得たリリース段階的導入の概念をファンタジー世界にも適用しようとしていた。

 

「この手順なら、大失敗になりかけても一部ノードだけで止められる。大規模崩壊を防ぎながら、最終的には世界全体の封印を正常化できるはずだ」


 改革派やケイたちのプロジェクトにより、大厄災の封印を安定化させる構想が現実味を帯びてきた。

 ラヴィニアの協力で保守派の一部は仕方なく容認の姿勢を取り、反対派も大っぴらに動きづらいという雰囲気が作られている。

 

 しかし、ローガンの動向は依然不明のままであり、保守派内部にもローガンと手を結んで改革を壊そうと考える過激派がいるというウワサもあった。

 ケイたちは夜遅くまで会議を重ね、ローガンがもし封印更新のタイミングを攻撃してくるならどう対処するかなど、危機管理策を練っていた。


「ローガンは術式改ざんのプロでもあるし、封印がバージョンアップ中に突かれると厄介だ。作業中は防御態勢をしっかり固める必要がある」


 ケイは、危機管理案を語っていく。


 「封印アップデートが完了すれば、ローガンが大厄災を解き放つ手段は大幅に制限できるはず。これが成功すれば、世界は守られる。それまでが勝負だ」


 

 チームが力を合わせ、封印術とコード魔法を融合した大規模術式の完成へと近づいてく。

 古代術士が成し得なかった本当の安定運用を、現代のバージョン管理やモジュール設計を使いながら構築する壮大なプロジェクト。

 かつての大失敗や幾多の失敗、ローガンの破壊企てが逆に彼らの意識を高め、緻密なセキュリティと計画性を生んでいた。


 しかし、成功への道が開ける一方で、世界規模という重責がケイたちを覆っていた。

 ケイは前の世界のデスマーチがフラッシュバックしないよう、あえてスケジュールを緩め、アリアやエレナ、フレイア、ラヴィニアも各々の役割をしっかり持ち、無理なく協力できる環境を築こうとしている。

 そうしたチームワークが結実すれば、もはやローガンすら止められない封印が完成するかもしれない。


「世界が壊される前に、オレたちが封印をアップデートして安全に運用しよう。これは、古代術士たちの意思を継ぎつつ、オレたち現代のやり方で完成させるんだ」

 

 ケイの言葉に、仲間たちは決意を新たに頷いた。


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