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【第24章】「日常パート2:料理魔法のドタバタ再び」

 大厄災やローガンの暗躍、アステリアでの大失敗を経て、ケイたちは少しずつ再起に向けた準備を進めていた。

 だが、シリアスな日々が続く中でも、彼らには束の間の安らぎがある。

 それが料理魔法の実験だ。

 前回は火力暴走で台所を火事寸前にしてしまったが、今回は改修したコード魔法を使って再挑戦するのだった。


「よーし、前は火力が暴走してキッチンを焦がしちゃったから、今度こそ安全に作ります!」


 意気込みを見せるアリアが、今回用意したのは『魔力感応式フライパン』だ。

 エレナが見下ろしながら眉を上げる。


「なんなのよ、そのフライパン……」

「これはですね、魔力をデータ化して温度をリアルタイム制御するのです! フライパンの底に埋め込まれた魔石が火力コードを読み取って、自動で強火から弱火に切り替わるのです!」


 アリアが自身にあふれた説明をする。

 ケイが組んだ火力制御モジュールに加え、温度センサーとセーフティ処理を追加しているため、前回のような大暴走は起きないはず、とアリアは自身たっぷりに語る。


「へえ、前回は炎が大きくなりすぎて廊下まで火が回りかけたからね。あたしはもう二度とあの地獄絵図はごめんだよ」

 

 ケイは苦笑いしながら「以前書いたコードを全部リファクタリングしたからね。大丈夫、たぶん……」と呟く。


 今日のメニューは『リザードハンバーグ』と『クリスタルキャベツのソテー』だ。

 リザードの肉は少し弾力があり、火力加減がシビアで、焦げやすいが美味しい。

 クリスタルキャベツは魔力を蓄える特性を持ち、焼きすぎると輝きが失われて味が落ちる。


「このキャベツ、切るとパリンって音がするのですが、磨くと透き通ってキレイなんですよね」


 アリアがキャベツの葉を広げ、独特の光沢に目を輝かせる。

 フレイアが「栽培には定期的な魔力注入が必要なの。火加減を間違うと苦味が増すらしいわ」と補足する。


 アリアは準備が整い、さっそく調理に取りかかった。

 術式端末を起動し、「火力コード:スタート……魔力感応式フライパンにリンク……リザード肉投入」と操作を進める。

 肉は焼ける音を立て始め、周囲は良い香りに包まれる。


「いいね、今回は火力暴走の兆候はない」


 ケイが端末を覗き込みながら頷く。

 エレナも腕を組んだまま、「見たところ大丈夫そうだな」と鼻を鳴らす。

 しかし、肉が程よく焼け色を帯びたころ、端末の画面に突然赤い警告が走る。


「――Error: No Magical Sync for CrystaVeg #12――」


「クリスタルキャベツが未同期扱いってことか?  形状の違いとか……またかよ」

 

 ケイが青ざめながら端末を操作する。

 どうやらキャベツの断面が想定外のカットに近く、モジュールが魔力情報を読み取れず混乱しているらしい。


 いきなりフライパンが霧散モードに切り替わり、湯気のような霧がブシューッと吹き出す。


「うわっ、視界が真っ白……またこれかよっ!」

 

 エレナが剣を横に置きながら、「やめろって!」と端末を叩くが処理が止まらない。

 フライパン底部に制御できない安全ブロックが発動し、肉を半ば冷却してしまう。

 まるで料理が半生のまま休止状態に入る感じだ。

 さらにキャベツの結晶部分が妙に過熱され、「パリン」という音とともに砕け散るような食感になってしまう。


「もう、どうしてこうなるのー!」

 

 アリアが唇を噛む。

 霧と砕けたキャベツの破片が飛び散り、キッチンは再び大惨事になった。


 視界不良のなか、エレナがキャベツの破片を踏んで滑りそうになり、「おっと……!」と大声を上げる。

 フレイアは魔術で風を起こし、霧を吹き飛ばすが、テーブルには砕けたキャベツの結晶が散乱しており、パリンパリンと怪しい音を立てる。


「なんなの、これ。前よりは火事じゃないけど、またしても食えないものになっちゃった?」


 エレナが苦笑いで「もう勘弁してよ」と呟く。

 ケイは頭を抱えながら「カットの形状を登録してなかったとか、細かいバグが出るなぁ……」と、ぶつぶつとつぶやく。

 アリアはしょんぼりしつつも、「火力暴走じゃなくて強制冷却が動いたのは進歩かもしれない?」とつぶやき、みんなから「微妙すぎる!」と突っ込みの嵐を受けた。


 キッチンが白い霧とキャベツの破片で散らかる中、チーム全員は後片付けに追われる。

 ふとアリアが水晶キャベツの砕けた欠片を手にして「一瞬だけキラキラしてキレイだったけど、これじゃ料理にならなりませんね」と苦笑。

 ケイは苦笑しながら「今度はカット形状一覧を実装しないとな。時間かかるけど、それが安全への近道だ」とメモを取る。

 フレイアが回想するように、「急ぎすぎるとロクなことがないわね。大失敗の教訓もそうだったし……こういう実験くらいは、のんびり進めたほうがいいかも」と微笑む。

 エレナは床を拭きながら、「あなたたち、ほんとに懲りないわね。でも、こういう日常があるからこそ、心が安らぐ気もするわ。大厄災の話ばかりじゃ息が詰まるし」と肩をすくめる。



 後片付けが一段落し、ケイとアリアが床の水滴を拭き取っているとき、ふいに視線が重なり、二人とも一瞬言葉を失う。

 アリアが「ごめん、ケイさん。せっかく改修してくれたのに、また失敗させちゃった……」と申し訳なさそうに言うと、ケイは首を横に振る。

「いや、俺も最後のキャベツ形状認識を実装しそこなってたから、両方のせいだよ。結局、力技でバグ直しできると思ってた俺が甘かったんだ」

 言いながら、ケイはほんのり頬を赤らめ、二人の間に微妙な空気が流れる。

 エレナが遠くから「何やってんの、あんたたち? 早く拭いちゃってよ」と茶化すと、二人は慌てて作業に戻り、再び視線を逸らす。


 料理こそ散々な結果だったが、火事騒ぎも起きず、全員怪我もなく、前の大惨事に比べれば笑って終われる程度のドタバタで済んだ。

 夕刻にはなんとか別の食材を使って夕食を作り直し、皆でテーブルを囲む。

 失敗したハンバーグもどきは捨てるしかなかったが、エレナが「炎上しなかっただけマシなんじゃない?」と肩をすくめ、アリアが「次こそは絶対に成功させます!」と拳を握る。


 シリアスな話題が絶えないなか、こうした魔法料理の失敗騒動はチームにとって息抜きといえる時間だ。

 ケイはアリアとの微妙な距離感に、少し胸が高鳴るのを感じながら、「この日常が壊れないでほしい……」とぼんやり思う。

 ローガンの破壊計画や大厄災の封印問題が頭を過ぎるが、今はこの一瞬の騒がしい安堵が何より大切だった。


「次こそは、形状認識もしっかり実装して、みんなでおいしい料理を作ろう。たまにはこういうバグも笑いに変えられたらいいな」


 ケイが小さく呟くと、仲間たちが「賛成!」「期待してるわよ」と声を揃えて応じる。

 こうして、改修コードによる料理魔法の再挑戦はまたしても失敗に終わったが、みんなの心に残ったのは焦げ臭い匂いではなく、コミカルな笑いと微かな恋の気配だった。

 次こそは成功させる、というアリアの決意が再び燃え上がる。

 そしてチームは、ローガンや大厄災の問題に立ち向かう前に、少しだけ幸せな息抜きの時間を共有するのだった。


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