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【第20章】「封印術の欠陥と大厄災再来の噂」

 大都市アステリアでの大失敗による混乱が沈静化しきらない中、ケイたちは改革派の手助けを得ながらコード魔法ネットワークの再構築を模索していた。

 だが、そんな矢先、フレイアが古代の遺跡で見つけた文献から、さらに重大な危機が迫っていることが判明する。

 かつて大厄災を封じたはずの封印術に、そもそも深刻な欠陥があったらしいのだ。



 アステリア近郊の古代遺跡。

 その地下深く、無数の崩れかけた石柱と、時代を感じさせる彫刻が並ぶ静寂の空間に、フレイアは足を踏み入れていた。

 かつて大厄災で多くの都市が廃墟と化した際、先人たちは急場で封印術をほどこし、災いを封じ込めた痕跡が残る場所である。

 石壁には淡いルーン文字が刻まれ、封印術士たちの意図が断片的に語られていた。


「当時の術士たちは大厄災の猛威に対抗する術を完璧に作れず、とりあえず封じる形で終わったみたいね」


 フレイアはランプの光を頼りに、壁の文字を読み解く。

 その内容は衝撃的だった。


 『大封印』と呼ばれる術式は本来完全な形ではなく、定期的に補強しなければ破綻すると記されていたのだ。


「これじゃ、いつか封印が破れるってこと? もし大厄災が再び蘇ったら、都市がいくつ滅びるか分からないわね」


 フレイアは思わず声を震わせる。

 かつての大厄災は世界規模の惨事であり、数多の都市が一夜にして崩壊し、人口の半分以上が失われたという伝承が残っている。

 古文献によれば、巨大なモンスターの群れや異形の存在が至る所で暴れまわり、無数の命が絶たれたらしい。


「どうして当時の術士たちは完璧な封印術』を作れなかったのか?  時間がなかったのか、それとも魔力理論が不十分だったのか……」


 フレイアは考古学的好奇心を越え、現実的な危機を感じ取っていた。


 数日後、フレイアはギルド支部の会議室へ駆け込み、ケイやアリア、エレナ、そしてラヴィニアを前に口早に語った。


「封印術には定期的な補強が必要で、当時の術士はあらゆる魔力を集めてやっと封印できたらしいわ。もし今、その補強が保守派の怠慢でなされていないとしたら……」


 一同は言葉を失う。

 アステリアでの大失敗がまだ尾を引き、人心が乱れている中で、『大厄災の再来』など想像すらしたくない。

 だが、フレイアの話はそこで終わらなかった。


「さらにラヴィニアさんが得た情報だと、ローガンが封印そのものを破壊しようとしている可能性があるってことですけど……」

 

 アリアが半信半疑で問いかける。

 ケイは、『ローガン』という人物の名前に眉をひそめた。


「ローガン? 誰なんだいそれは?」


 その言葉をうけ、ラヴィニアは深刻な面持ちで説明する。


「ローガンは、かつてギルドの天才魔術師と呼ばれた人物です。家族を腐敗した領主に殺され、訴えが握り潰された経験から『世界を丸ごと壊してしまえ』という危険な思想の持主です。わたしはこれまでの改ざん事件はすべてこのローガンが起こしたのではないかとにらんでいます」

「その根拠は?」

「そもそもコード魔法を考案したのはケイさんです。そのコード魔法を理解し、そのコード魔法を使ったシステムを改ざんするなんて芸当は、並大抵の魔術師ではできるものではありません。それこそ、数百年に一人の天才といわれたローガンくらいしか考えられません」

「しかし、そのローガンが俺たちの邪魔をしていたとして、いったいどうして?」

「おそらくですが、アステリアの改ざん事件を起こしたのも、都市を混乱させて封印に干渉するための布石だったのだと思われます」


 フレイアが真剣に言葉を続ける。


「ローガンが家族を理不尽に奪われた復讐心で世界を壊そうとしている、というウワサは前からあったわ。魔術ギルドを追放されて、破壊術式の研究に没頭してるらしいと聞いてはいたけど。ここまで大規模に動くとなれば、単なるウワサを越えた現実的脅威かもしれないわね」

 

 フレイヤはさらに続ける。

 

「もし封印が本当に破れたら、当時と同じ、いや、さらにひどい惨状になるはずよ。今の世界は保護費や結界に依存しきっているから、大厄災級のモンスターには太刀打ちできないかもしれない」


 エレナが剣を握りしめ、険しい表情を浮かべる。


「アステリアでの大失敗どころじゃ済まないね。全都市が壊滅するかも」


 ケイは深いため息をつき、前の世界の記憶を思い返す。

『炎上プロジェクト』という言葉が脳裏をよぎるが、今度は『世界規模』の炎上だ。


「俺のネットワークを破壊しただけじゃなく、世界を破滅へ導く計画にローガンが本腰を入れているのなら、何とかして封印術を補強しなきゃならないな」

「でも、封印術を補強するって、具体的にどうやるのんですか?」


 アリアが問うと、フレイアは遺跡の文献を指さす。


「ここに部分的な術式の図解があるわ。魔力の流れや結界の集合点を示してるけど、古い形式で不具合が多いらしいの。もしコード魔法の分割管理を適用できれば、改修が可能かもしれない」

「コード魔法で封印術をアップデート?」


 ケイは一瞬戸惑うが、やがて目を細める。


「確かに、古い術式は『一枚板』みたいに作られていて、バグを発見しても修正が難しそうだ。俺たちがやってきたモジュール構造やレビュー方式なら、『バグ箇所』を特定し補強できるかもしれない」


 そこに、ラヴィニアがリスクを指摘する。


「しかし、封印術そのものをいじるのは危険です。失敗すれば一気に大厄災が解放されるかもしれません」


 だがケイは眉をひそめながらも、決意を固めた表情を見せる。


「たしかsにリスクは大きい。しかし、何もしなければ封印は自然崩壊するか、ローガンに壊されるかの二択だ。どうせ大失敗した身だ、怖がってても仕方ない。ここは世界規模の危機に向き合うしかない」


 最後の言葉には『自分の技術を壊すことも恐れずに挑む』という、ケイのかすかな覚悟がにじんでいた。


 こうして、フレイアが発見した封印術の欠陥と、ラヴィニアが掴んだローガンの破壊計画という二つの情報が合わさり、『大厄災』の再来が現実味を帯び始める。

 ケイは『コード魔法で封印をアップデートする』という大胆な構想に踏み切る決断を下し、チームは再び世界の存亡を賭けた大きな挑戦へ歩み出した。

 大失敗の傷が癒えぬまま、それでも彼らは前に進むしかなかった。

 今度こそ、世界規模の炎上を防ぐために。


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