赤髮ヒロインが好きなんです
怪獣により腹に穴をあけられて、虚ろな瞳で仰向けに倒れた巨大な美少女ロボットの全身を、汚れた雨が穿つ。
「猫鈴猫がやられちゃったなんて」
現場で戦闘を見ていたアオイ隊員から、猫鈴猫の敗北を告げられた香燐は青ざめてその場でへたり込んだ。
「...調子に乗るからよ、ばかっ」
溢れ出しそうになる涙を堪えて震える香燐の肩に、誰かの手が優しく置かれるり香燐が顔を上げると、そこにいたのはサルビア博士だった。
「あ...すみません、責めてトイレで...」
「アオイ隊員から画像を送付してもらったが、あれならまだ修復は容易いよ」
「え?」
「それにあの怪獣も倒せる、絶望する必要はないのだよォおおおお!!いでよ我らが最終兵器!!」
「え?」
急にハイテンションになったサルビア博士に戸惑う香燐...を更に困惑させたのは、司令室に入ってきた、最終兵器とやらの姿だった。
「あ...あのあの、はじめましてっ、”あんず”ですっ、が、がんばります!」
なんとサルビア博士の最終兵器というのは、眉をハの字に曲げ自信なさげにこちらを見る、赤いサイドテールの少女だった。
「え...博士、これはいったい?」
「まだ見てなさい、ふふふ、いまにあんずの実力がわかる、はーはははは!」
「えーっ...」
マッドサイエンティストのように高笑いするサルビア博士の姿に、香燐は若干の恐怖を覚えた。
「あわわわ、博士がこわいよう!!」
あんずも...いや...あんずは、香燐よりも遥かに、生みの親であるサルビア博士に怯えている。
「いや、あの、すごく頼りなさそうなんですけど、なんでこんな臆病な性格に造りあげたのでしょうか」
「凄まじいパワーを秘めているからね、やんちゃだと並の怪獣よりよほど大きな被害を出してしまうのさ」
「なるほど、ある種の制御機能になっているわけですか」
「ああ、今にこの子の実力を見せてやるさ」
怯えながらもサルビアに頭を撫でられると、今度は嬉しそうに目を細める対怪獣用ロボット少女...その力の程は如何に。
「“撃てぇ!ドブスタイタンを撃滅しろお!!”」
「“MINTや猫鈴猫ちゃんが駄目なら、我々で皆を守るしか無いんだ!!必ず勝つぞお!!”」
ドブスタイタンと名付けられた人食い怪獣は、今度は市街地に現れてビルを拳で粉砕し住宅街を踏み荒らしていると、そこに砲弾の嵐が襲いかかった。
口では勇ましい事を言っていても内心では猫鈴猫を倒し、イキシアを撃墜した怪獣に自分達が敵うはず無いと分かっている。
それでも諦めるわけにはいかない戦車部隊は、勇敢に怪獣に立ち向かう!!
「ぎゃああ…あ!!」
だがやはり、猫鈴猫の必殺光線を跳ね返したドブスタイタンの体に砲撃が通用するわけもなく、泡の噴射により容赦なく戦車は溶かされていった。
「“やはり猫鈴猫ちゃんすら負けた怪獣に、我々が勝てる道理は無いというのか?!”」
っ...まだ、わたしは、まけてな...い!!」
未だ瞳に光は失われ、腹部に穴が空いた状態ではあるが、なんとか力を振り絞って猫鈴猫がドブスタイタンのもとにやってきた、全ては愛しいお姉さまに良いとこを見せたいがために。
「猫鈴猫!良かっ...たじゃないわね、あのままじゃ、今度こそスクラップにされちゃう!」
いくら心配でも香燐は通信モニター越しに猫鈴猫な戦いを見守るしかなかった、そして傷だらけの相棒に作戦などなく、敵の攻撃をひたすら避けて避けて避け続ける。
「ああ。私にできることは何かないのかしら」
「大丈夫だよ、香燐さん、ほら来た我が最終兵器あんずちゃんが!!」
いよいよ活動限界を迎えんとしていた猫鈴猫の顔面に、ドブスタイタンの強烈なパンチが直撃する寸前のところで、その拳は止まった。
「えっ?」
「助けに来たよっ、猫鈴猫ちゃん!」
サルビア博士の開発した最終兵器・あんずが、ドブスタイタンの拳を片手で受け止めていたのだ。
そして、そのままドブスタイタンの腹部に蹴りを入れると、数百メートル先まで吹き飛ばした。
「...つよ」
腹を立てたドブスタイタンは勢いよく拳を振り回しながら、あんずの目前までくると、勢い任せに素早く腕を突き出す。
「はあっ!!!」
あんずもドブスタイタンのパンチに対抗してパンチを繰り出す、機械の拳と甲殻怪獣の拳がぶつかり合う。
「みろ!怪獣の拳が!!」
あんずのパンチ力が勝った、ドブスタイタンの強固な拳が、粉々に砕け散った。
「あわわ...いたそう...」
シュッ。飽くまで軽く突き出されたあんずの拳が、ドブスタイタンの腹部を貫いた。
「逃げちゃだめ〜っ!」
たまらず逃げ出したドブスタイタンの背中に、あんずは頭突きをお見舞いする。
ドブスタイタンの甲殻にヒビが入ったかと思うと、頑強さが自慢の体が、ガラスのように砕け散ったのだった。
「猫鈴猫の命の恩人だよ、あんずちゃん、ありがとう!」
サルビア博士による修理作業を受けている猫鈴猫に代わり、終わるまでの時間を利用して、香燐はあんずに感謝の気持を伝える。
「いっ、いえ!私が産まれたのは猫鈴猫ちゃんが、データを博士に見せてくれたからですからっ!」
「謙虚だ、凄く謙虚だ...誰かさんとは大違いね」
あんなにパワフルで強いのに驕らないあんずを、少しは猫鈴猫は見習うべきだろうと香燐は思った。
「頼もしい仲間が増えましたね、私達もなおさら頑張らないと、本当に仕事がなくなっちゃうかも!」
少し嬉しそうに、アオイ隊員が笑う。
「私たちの仕事が無いのは素晴らしいことですが、誰かに頼り切りでというのは駄目ですよ、アオイ隊員!一応リンドウ隊員も」
「肝にっ...命じますっ...」
「はーい」
こうして、あんずという地球防衛の心強い仲間が新たに加わったが油断はできない、より強力な怪獣や侵略者が、またいつ現れるかなど分からないのだから。
終




