地獄!くさい雨!!
激しく雨が降っている、腐敗した生卵で溢れた真夏の三角コーナーよりも酷い悪臭を放つ茶色く濁った泥水の雨が。
大人たちは洗濯物を取り込み、家の中へと戻る者が大多数を占めていたが、子供たちは異様な雨だろうと寧ろ喜んで、くさいくさいとはしゃぎながら外で遊び回るほど元気を持て余していた。
「流石にあの様子を撮影したらまずいわよね」
公園の近くを通りすがった香燐は、泥水の雨の中で鬼ごっこをしている児童ら...という光景をカメラにおさめようかと考えたが、客観視してみると不審者以外の何者でもないじゃないかと辞めておく、悪臭に耐えかねてマスクをしているというのもあり、通報されたならば一発アウトだ。
「お縄にされちゃうもんね、それに私達は相合い傘中だし、すっごく撮影しにくいんじゃない?」
親愛なるお姉様と同じ傘の下を歩けているからか、猫鈴猫は上機嫌な様子。
「それにしても嫌な日ね、今日はもう洗濯しなくていいかしら」
香燐が愚痴った瞬間だった。泥雨がやんだ。さっきまでの暗さが嘘だったかのように、空は青く澄み渡っている。
「え、うそ、天気すら私には忖度するって事かしら!?」
「お姉さま、呑気なこと言ってる場合じゃ無さそうだよ」
ふたりは通り過ぎたばかりの公園に目をやる、ついさっきまで賑やかだった公園にはもう、ぬかるんだ地面の上を裸足で走り回る子供たちの姿はなかった。
「あの人数が一瞬で消えたわけ?」
とりあえず今起きたことを香燐はMINTに連絡するため電話をかけると、担当オペレーターに繋がった。
「もしもし、いま子供が消えて...」
通報を受けたオペレーターとMINTの隊員らは、またか・・・悲痛な声を漏らした、ドブのような雨が降り注いで、空が晴れたとき、雨雲と共に子供たちの姿も消えている。
まるで神隠しの如き怪事件は、既に日本全国から防衛軍やMINTへ報告されていたのだ。
「まったく恐ろしい現象ですね...子供たちを拐って、どうするつもりでしょう」
「侵略が目的の宇宙人の仕業なら、子供たちを奴隷として使う為とも考えられますよね」
「アオイ隊員...怖い考え...」
「私だってそうじゃない可能性を期待してるってば」
MINTのメンバーが事件について考察していると、司令室の扉が開き、赤毛で癖っ毛の白衣を着た女性が入ってきた。
彼女はサルビア博士、防衛軍に雇われた天才科学者でありアオイ隊員が持ち帰った泥雨について調べた結果が出たので報告に来たのである。
「泥雨というのは黄砂や火山灰の混じった雨だが、これに関しては全く別物の、地球上の水質では考えられないほど汚れきっているものだったよ」
サルビア博士の報告を聞く限り、犯人は地球上の生物では無さそうだ。
「となると、やっぱり宇宙人の仕業とも考えられますね...」
「次にあの雨が降ったとき、雲の中をレーダーで調べてみましょう」
「はっ...はい...」
MINTのメンバーは何時でも出動できるようにパトロールを控え、待機する事となった。
「やっほー!MINTのみんな、大丈夫だよ、私がいるから!!」
被害者が子供たちという事もあり、いつもより重苦しい雰囲気に支配された司令室に浮かれた猫鈴猫が空気も読まずに入ってきた。
調子に乗るあまり気が狂って侵入したのではなく、事前に香燐が許可を取っている事は補足しておく。
「あーもう!ごめんなさい、うるさくて」
「構いませんよ。猫鈴猫さん、なにか良いことがあったんですか?」
「最近わたし大活躍だから、たくさんお姉さまが甘えさせてくれるんだよっ」
保護者である香燐が頭を下げているが、ユキヒラは笑顔で猫鈴猫に話しかけた。
「ああ、誰に対しても物腰柔らかな隊長、やはり素敵です」
リンドウはユキヒラの姿を眺めて、うっとりしてしまう。
「怒るとかなり怖いけどね〜」
「だったら怒らせないように頑張ってくださいねわアオイ隊員」
「ほらね...」
猫鈴猫がやってきた事で雰囲気は明るいものに一変したので、MINTは寧ろ感謝していたが香燐は不安に思うことがあった。
「ねえ、あんた最近さ、調子に乗りすぎじゃない?」
「それだけの実力あるんだから、仕方ない!お姉さまだって沢山ほめてくれたじゃん」
ここ数ヶ月の間に十八体ほどの怪獣をMINTの助けもなく単身で簡単に倒してきたことで、明らかに猫鈴猫の態度に驕りがあらわれている。
「確かに猫鈴猫ちゃんさえいれば、私たち仕事しなくて済むし楽かもね」
「アオイ隊員〜?」
「じょ...冗談です」
ドス黒い威圧感を放つユキヒラの笑顔にアオイは冷や汗を流し、リンドウ隊員はこの光景を前に苦笑する。
「...猫鈴猫ちゃんだったね、ちょっとデータを調べさせてくれないかね」
サルビア博士が猫鈴猫に近づいて、彼女の全身を舐め回すように見始めた。
「えー!必要なくない?守秘義務とかはないけど、悪用されたら嫌だなあ」
「猫鈴猫!失礼よ、人を守るために使うに決まってるでしょ」
「当然だよ、結果的に君のためにもなるだろう...」
「お姉さまがデートしてくれるなら」
白衣を纏った赤毛博士の目つきが怖かったので、猫鈴猫は香燐の後ろに隠れてから提案した。
「わかった!してあげるわよそれくらい」
「よしきた!」
「じゃあ、お借りするよ」
合意を得たと理解するなり、サルビアは猫鈴猫を脇に抱えて研究開発室へと運んでいった。




