素直になれたら良いよね
「こんにちは、昨日アポとってた桃井です!」
美智汐小学校にやってきた香燐は応接室に入ると、待たせていた校長先生に頭を下げた。
「よくぞ来てくださりました、防衛軍の方にも調査していただいたのですが、なにもないと言われ...新聞の力でなんとか、もっとしっかり調べてくださるように...」
すっかり憔悴してしまっている校長に、香燐は同情してしまう。
「任せてください、新聞を見た人々が防衛軍にもっとしっかり調べろ!って訴えたくなるような記事を書いてみせますから!」
「おお、なんと頼もしい!」
香燐と校長先生のやり取りを見ていた猫鈴猫は、無駄な仕事を増やされて良い迷惑だなと、密かに防衛軍の方に同情した。
「早速そのグラウンドを見ていただければ、二階にある三年A組の教室からならば、全体を撮影しやすいかと」
「これはこれは、ご丁寧にどうも!」
校長に連れられて、香燐は三年A組の教室へと移動し猫鈴猫もてくてくとその後ろをついていく。
「うわああ猫鈴猫ちゃんだ!」
「本物じゃん!握手して〜」
「実物のが可愛い〜」
香燐と猫鈴猫が三年A組の教室に入ると、行儀よく机に座って教科書の文章をノートに書き写していた児童生徒たちが鉛筆を置き、キラキラと目を輝かせて集まってきた。
「子供は純粋で可愛いわね」
「でもいつかはお姉さまみたいな大人になるかもしれないね」
「はいはいどうせ心の汚れた大人ですよ〜っと...あら?」
漫才じみた二人の会話に子供たちが大笑いするなかで、教室の隅でメソメソ泣いている女児と彼女に対して怒っている女児に香燐は注目した。
「あんたは猫鈴猫ちゃんのとこに行く前に、ちゃんとノートに書き写さないと駄目だからー!」
「わたしも猫鈴猫ちゃんを近くで見たいよぅ...」
一瞬いじめを疑ったが違うようだ、だからといって香燐は泣いている子を放っておけない。
「ちょっと通してね、みんな」
子どもたちは素直にお願いを聞いて道を開け、香燐と猫鈴猫は片隅の児童二人のもとへ。
「ねえキミ、確かに勉強は大切だけれど、そんなにキツくあたっちゃ意地悪にしか見えないわよ」
優しく諭す香燐に、またお姉さまのお節介が始まったと猫鈴猫は呆れ半分、これだから良いんじゃんという気持ちも半分。
「ふん!うっさい!!」
香燐に諭された女子生徒は、鼻息荒く教室を飛び出していってしまった。
「あっ、ちょっと!猫鈴猫、ここは任せたから!!」
「え!?」
メソメソ泣いている子を猫鈴猫に押しつ...託して、香燐は気の強い女子生徒を追いかける。
「子供の体力どうなってんのよ」
気づくと香燐は体育館裏にいた、まだ少しジメジメした空気が残る薄暗く寂しい場所だ。
「あ!いた!!」
教室を飛び出した少女は、膝を抱えてキリギリスを運ぶ蟻の群れを眺めていた。
「ねえ、あなたの名前を教えてくれない?」
体育座りをする少女のすぐ横に香燐は腰をおろし、優しい声色で問う。
「雨嶋 伊奈波」
「伊奈波ちゃんは、なんであの子に強くあたっていたの?」
「...好きだから、いつも泣いてて、ダメダメだから、私がすぱるたじゃないと、空ちゃんは余計に駄目になっちゃうから」
伊奈波の瞳からは涙がポロポロ零れ落ちている、要するに彼女は好きな相手に素直になれない不器用な性格だったというわけだ。
「空ちゃんが好きなんだね、伊奈波ちゃんは」
「うん...大石 空ちゃんっていうの、わたし空ちゃんとお月見がしたいけど、断られたら怖くて言えないの」
愛ゆえにとはいえ、普段から強くあたってしまっているから断られてしまうんじゃないかと、怖くてお月見デートに誘えないらしい。
(確かに私だって、もしも編集長に月見行こうなんて誘われたら怖くて...逆に断れないわね!?)
「じゃあ私が代わりに言ってあげるわ、断られたらお菓子でも買ってあげるから」
「なんか違うよ!私が言わなきゃ意味ないよ!」
「そこまでわかってても素直になれないのか、辛いわね」
「うん」
伊奈波はションボリと項垂れてしまう、どうしたものかと香燐が頭を悩ませていると異変が起きた。
「きゃっ!まぶしい!!」
「すっかり忘れてたわ、私の目的はこれだった」
突如としてグラウンドが金色に輝きはじめた、香燐は咄嗟に伊奈波の目を両腕で塞いで光の刺激から庇う。
異変はそれだけにとどまらない、なんと真っ昼間にも関わらず太陽が消え去り、空は紺に変色、満月が浮かびあがったではないか。
「夜になっちゃった!」
「こんな芸当ができるなんて、怪獣しかいないわ!」
答え合わせとでもいわんばかりに金色に光り続けていたグラウンドが真っ二つに割れ、鉄棒やジャングルジム、ゴールポスト等を飲み込んでいき、巨大なウサギのような怪獣が地割れの中から飛び出してきた!!




