針山地獄の刑!
今回なかなかにリョナチックかもしれません。
銀色の光に包まれた状態の猫鈴猫は、防衛軍やイキシア、足元にいるリンドウに光線兵器以外の攻撃を浴びせられながらも気にせず病院に顔を突っ込んで食事を続けていたカガビランへ体当たり、凶暴な捕食者は病院から五百メートル後方まで吹き飛ばされた。
「"マティ光線...発射!"」
ぐるる...!カガビランが起き上がって威嚇してきた瞬間に、猫鈴猫は両眼からビームを発射した。
「目からビーム出すやつマジであるんだ」
興奮する香燐、彼女も裏口から病院を出る避難用のトラックの中から窓越しに戦いを暫く見守れる。
「がんばれー!負けるなよ、でっかいお嬢ちゃん〜!!」
同じトラックに乗る避難中の病院関係者たちも、鼻息荒く猫鈴猫に声援を送った。
ちっ!」
カガビランの鏡のような肉体に直撃したマティ光線が、反射されて猫鈴猫に返ってきた。
「チッ」
はね返されたマティ光線を猫鈴猫は円形の透明なバリアを張って防ぐ、するとマティ光線は、猫鈴猫のバリアとカガビランの肉体の間を延々と反射し続ける事になった。
(キリがない...!!)
猫鈴猫はバリアを残したまま跳躍してカガビランの頭上を飛び越え、背後をとった。
「にゃいっ…!」
気合いを入れ直した猫鈴猫は、棘付き棍棒の様な尻尾目掛けて右腕を振り翳す。
ぎゅいいいいっ。手刀により尻尾を切断されたカガビランは痛みのあまり、目からダラダラと涙を流しつつ尻を両手で押さえようとするも腕が短くて届かない。
「しにゃっ!」
猫鈴猫は苦痛に呻くカガビランの足を払って、転ばせる。ぐぎゃ。前のめりに倒れたカガビランは、運悪くビルの角に額を突き刺され、ヒビを入れてしまった。
(さっさと終わらっ...せ?!)
カガビランが起き上がろうとしているとき、トドメを刺そうと考えてまんまと近寄ってきた猫鈴猫めがけて、背鰭の様にびっしり生えた巨大な棘が高速で飛んでいった。
「あうっ...ああ...」
ボディに数多の鋭く太い針が深く突き刺さり、背中からダウンした猫鈴猫は四肢をピクピクさせて痙攣している。
「"このままじゃ猫鈴猫ちゃんやばくないですか!"」
「"しかし光線兵器は反射され、実弾では威力が足りない..."」
ユキヒラの額に汗が滲む、頭を悩ませている間にもカガビランは猫鈴猫に切断された自らの尻尾をコンコンと金槌のように使って、彼女に刺さっている棘を更に深く食い込ませている。
「がっ...ぐあっ...ああっ!!」
苦しむ猫鈴猫の横腹が凶悪無比な怪獣に強く蹴られる、カガビランは自分の尻尾を投げ捨てると、先ほどイキシア一号から切り落とした鉄球を拾いあげて、愉快そうに体を揺らした。
「"まずいぞ!責めてあの鉄球を破壊しないと、いよいよ猫鈴猫ちゃんの最後だ!"」
「"そんなことは...っぐう!!"」
カガビランはイキシアたちが自分の邪魔をしようとしている事を察知、目から蛇腹状の光線を発射。イキシアの翼に浴びせてこれ以上の飛行を不可能にした。
「"くそっ、脱出!!"」
「"脱出します"」
墜落するイキシアだったが、脱出間際にアオイ隊員はレーザーを発射し鉄球だけは粉砕した。
「ああっ!猫鈴猫ちゃんも、MINTもやられちゃった!!」
「なんてことなの...」
凶暴かつ強力な怪獣にやられる人類の味方たちの姿に、戦う力を持たない者は絶望する!
「ふぎゃああああっ!!」
もはや敵なしのカガビランは、破壊された鉄球の代わりに、溶解光線・スネークイートを倒れた猫鈴猫の顔面右半分にお見舞いした。
その際、猫鈴猫の頭部付近に停車していた車も、掠りすらしてないのに僅かながら溶けてしまう。
こんなものをまともに浴びせられては、流石の猫鈴猫を構成する超金属すら耐えられない。
「くっ...」
針だらけにされて顔も半分溶かされてしまった猫鈴猫を、どうにかして助けに行きたい香燐だが、勝手な行動でトラックを止めて他の人を危険に巻き込むわけにはいかないと拳を震わせるしか無い。
「お姉ちゃん...」
結椛も不安が募りに募る、あんな強力な怪獣と単身生身で戦っている姉の無謀さがわかってしまう。
「があっ...あ...」
残虐なカガビランは猫鈴猫の片脚をも容易く食い千切り、誇らしげに天を仰ぐ。
「もう人類はおしまいか...」
病院から離れつつ、絶望的な状況を目の当たりにする香燐と結椛をはじめとする避難者たち。
ギャギャッ、ギャギャッ。カガビランは、敢えてトドメを刺さず、猫鈴猫の腕を片足で踏みつけて嗤う。
いくつもの星で大量殺戮を楽しんできたカガビランに、地球人も皆殺しにされてしまうのだろうか...?
いや、そうなってしまうと決めつけるのは未だ早い!
「はじめてだ...ここまで憎いと思った怪獣は...恐ろしいとか...放っておく訳にはいかないと思ったやつは沢山いるけど...お前は...絶対に...許さない...!」
いつの間にか猫鈴猫とカガビランの近くにまで来ていたリンドウ隊員が、薬局の屋根の上に立って拳銃を構えているではないか!
そして彼女は躊躇いなく引き金を引き、銃弾を発射する... ... ...だが、射程距離が足りない。
「なら、もう一発」
リンドウ隊員は再び引き金を引いて二発目の銃弾を発射、二弾目に放たれた初弾が弾かれて飛距離を伸ばしたそれはやがて、見事カガビランの額に直撃した。
ギャ...!?
カガビランが先ほど転倒した際にできた額にある深刻なヒビ。そこにぶち込まれたなら、怪獣にとっては水鉄砲ほどの脅威にもならない筈の拳銃の弾すら、致命傷に成り得るのだ!!
グァー!…
弾を撃ち込まれた頭部からはじまり、両手足、やがて胴体へヒビは広がり、極悪非道な怪獣が鏡のようにバラバラになるまでに時間はかからなかった。
「...リンドウ隊員、やるじゃん」
パラシュートが引っ掛かった木の上から様子を眺めていたアオイ隊員も、勇敢で優秀な射撃手に称賛を送る。
「にゃいっ…」
カガビラン死亡と同時に、猫鈴猫の全身を穿っていた棘も完全に消失した。
「...ふに」
満身創痍ながらも、なんとか片脚で立ち上がった猫鈴猫はリンドウ隊員に感謝の気持を込めて頷いた。
「あなたも...いつも私達を助けてくれてありがとう...こんなにボロボロになってまで...」
ちょうど英雄の立つ薬局の傍らを、避難用トラックが通り過ぎたのは、このときだ、彼女の勇姿はたくさんの、そして妹の瞳にも強く焼き付けられた。
「お姉ちゃん...凄い...皆を守って、しかも私の夢まで叶えてくれた...」
「よかったわね、結椛ちゃん、あなたのお姉ちゃんの活躍は、記事を通して沢山の人に伝えておくわね」
嬉し涙を滲ませる結椛の頭を、わしゃわしゃと撫でる香燐もまた、猫鈴猫がなんとか助かったことが嬉しかった。
「わたし...改めて思いました...この仕事に就けてよかったって...」
「うん、わたしも正直…あんな危ない仕事辞めてほしいって心のどこかで思ってたけど、それが消えたんです!」
後日、破壊された病院から別の病院に移された結椛のもとに香燐と猫鈴猫、MINTのメンバーが見舞いに来ていた。
「ふふふ、リンドウ隊員の活躍を記事にしたら大反響で、編集長にも珍しく褒められたわ、彼女は貴方の自慢のお姉ちゃんよ」
「私も助けられたし感謝しないとだよね〜」
「はっ、恥ずかしい...」
褒めちぎられたリンドウ隊員は顔を赤らめて俯いてしまった、勇敢さを備えながらも、恥ずかしがり屋な性格は治らないようだ。
「あとあと、ユキヒラさん!というより、お義母さんって呼んだほうが良いのかな...お姉ちゃんをよろしくお願いいたします!!」
結椛はフルーツの入った籠を持っているユキヒラに、丁寧に、元気よく頭を下げた。
「あらまあ...ありがとう、頑張るわね」
ユキヒラは冷静に振る舞うが、心の中は歓喜の色でいっぱいになった。
「ませてるなあ〜将来有望な子じゃん」
軽薄に笑いながら、無神経な発言をしたアオイ隊員を周りの人間はキッと睨む、自動修復機能で顔面も脚も元通りになったにもかかわらずわ気だるげに欠伸をしている猫鈴猫以外は。
「私に将来なんて...ううん、あるよね、きっと...私ならお姉ちゃんの花嫁姿、きっと見れる!」
結椛から希望に溢れた言葉と笑顔を送られて、アオイ隊員も今度は本物の表情を浮かべた。
「その意気だよ結椛!ありがとう...アオイ隊員...」
「さてさて、なんのことやら」
「すっかりとぼけてしまって、うふふ」
あら、ふと香燐は気付く、今この病室の中にいる全員が幸せそうに笑っていることを。
「うーん、撮り甲斐のある、いい笑顔がたくさん!結椛ちゃん、皆さん、一枚どうですか?」
「うん!喜んで!!」
こうして撮影された集合写真は、病室のベッドの上でカメラに向けてピースをする結椛も、彼女を囲む大人達、ロボット娘まで、笑顔を浮かべている平和を取り戻した証ともなる一枚だった。
終
かなり苦戦させられましたが、まだ四話にしちゃあ強い怪獣でしたわ。