弱いものいじめ大好き怪獣
怪獣より強いやつあんまいないから自動的にみんな弱いものいじめになる!
「かっ、怪獣だあああああっ!!!」
蛇に似た巨大な頭が病院の中に侵入してきた、腰を抜かしたリハビリ中の患者と、それをサポートしていた理学療法士を赤い目玉がギロリと見据える。
「うひいいいっ!」
カガビランは二又に別れた舌を伸ばして、患者と理学療法士を同時に絡め取り、口の中へ運んで飲み込んだ。
被害はこうして捕食されるのみにとどまらず、こいつが頭を突っ込んだ際の衝撃と破壊により、崩落してきた天井に押し潰されたり転倒したりもしていた。
なにより最悪なのは病院の出入り口は瓦礫に塞がれ、脱出するには屋上か崩れ落ちて外部が露出した四階以上から飛び降りるしか無い状況となってしまった事である。
なにより最悪なのは、病院の出入り口は瓦礫に塞がれて、脱出するには屋上か崩れ落ちて外部が露出した四階以上から飛び降りるしか無い状況となってしまった事だ。
「もう!カメラが壊れちゃったじゃない」
「こんな時にまで仕事のことを...可哀想なお姉さま」
逃げ道を封じられ、瓦礫で出来た個室に閉じ込められたのに、なんだか呑気な香燐と猫鈴猫のコンビだが、こんな状況で余裕があるのは彼女たちだけ。
他の人間は緊張感と恐怖心を抱き、叫びだす者や泣き出す者ばかりだ。
「お姉ちゃん、怖いよ...」
キュッ... ... ...!結椛も姉の袖をつまみ、背中に自分の体をくっつけ、なんとか恐怖心を薄れさせようとする。
「"こちらリンドウ!隊長、怪獣が現れました!至急出動を!!"」
早く妹を安心させてあげたいし、こんな時に容態が悪くなったりしたらという焦燥感に苛まれたリンドウはユキヒラ隊長に連絡を入れる。
「"落ち着きなさいリンドウ隊員、MINTは既に出動し、ただいまから、いざ怪獣と交戦開始という状態です"」
「"隊長!取り敢えず病院から怪獣を引き離しましょう、そしたら容赦なく蜂の巣ですよ"」
「"アオイ隊員、奴にビーム兵器は通用しません、粉砕あるのみです"」
ユキヒラ隊長は自らが乗るイキシア一号のハッチを開くと、そこから巨大な鉄球を垂らした。
「"粉々になりなさい!"」
イキシア一号は急加速しカガビランに突進する、高速で鉄球をぶつけて怪獣を倒す作戦だ。
「大人しそうに見えて血の気が多いんだからなあ、うちの隊長さんは」
アオイ隊員も今回の仕事は出動しただけで終わりではないかと高を括っていたが、そう簡単にはいかない。
「なんという正確さなの」
カガビランの背中に備わる無数の棘のうち、ひときわ巨大なものが発射され、鉄球を繋ぐロープを切り裂いた。
「だめ...息苦しいっ」
リンドウ隊員の懸念どおり、危機的状況に置かれたストレスと瓦礫に隙間なく閉鎖され空気が減少していることで結椛の体調が悪化してしまった。
「今に救助が来てくれるから、頑張って!」
「猫鈴猫!小さな状態のままでも瓦礫くらいはどうにかならないの?」
「なる」
「なるのかー...」
「仕方ないなあ、救助来るまで推定で十分そこら、それまでにこの病院が破壊されてお姉さまが死ぬ可能性は八十パーセントもあるし、やるか〜」
猫鈴猫は人差し指を突き出すと、爪から銀色の弾丸を連射、生への道を塞ぐ瓦礫は風穴だらけになり、やがてミリ単位まで破壊された。
「これで道はひらかれた...」
「よくやったわ、猫鈴猫!」
香燐に頭を撫でられた猫鈴猫は目を細めて喉を鳴らす、どうやらかなり喜んでいるようだ。
「ありがとう、私達も感謝します」
「ねこちゃん、すごーい!」
間近で凄いものが見れたと、さっきまで体調が悪化していたのが嘘のように結椛は元気に飛び跳ねて喜んだ。
「お、生存者発見...あっリンドウ隊員!」
背後にに部下を引き連れ、地球防衛軍の制服を着た人物がやってきた。彼女らは怪獣災害時の避難誘導を任されている、防衛軍には欠かせない人材たちだ。
「こんなところで会えるなんて感激!サインください」
「お前いまは仕事中だぞ!」
「そのとおりです...皆さんは...誘導を優先的に...それであの、それ、貸してください...」
避難誘導部隊員の腰に携帯されている拳銃を、リンドウ隊員は見つめる。
「あっ、自分の?よ、喜んで!!」
「ありがとう」
素直に拳銃を渡してもらうなり駆け出したリンドウ隊員、この売店があるのは一階の入り口付近だ、彼女が病院から飛び出して怪獣の足元に辿り着くまでに、時間はかからない。
「お姉ちゃんっ!どうしよう、さっき私が生で活躍を見たいなんて言ったから」
結椛は今にも避難誘導員の背中に、涙を零した。
「お嬢ちゃん、お姉さんは、どんな状況でも皆を守るために頑張っているんだ、だから君のせいじゃないよ」
背負った少女を慰めながら避難ルートを歩む誘導員の姿を見た香燐は、猫鈴猫の肩を叩く。
「さあ、貴方がたも私達についてきてください」
「分かりました、だけどその前に」
「お姉さま!」
「あんたも大概お人好しよね」
「飽くまでもお姉さまのためだよ!」
猫鈴猫は背伸びをして、香燐は僅かに背を丸め、互いの鼻と鼻をくっつける。避難誘導員は、見た目的にはかなり歳の離れた女子二人が鼻キスしている光景を前に、のぼせてしまうのだった。
シリアスとコミカルのバランス感覚って難しいですよね〜!