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第二話 天上の世界

 閉じた目のまぶたが突然柔らかく明るくなる。

私は、少しまぶしく感じて、腕を目元に持ってくる。すると、光はなくなったが、今度は腕の重さで目が押さえつけられて、気が散る。体を横に向けようものなら腕が押さえつけられて、血管が止まるような気がして落ち着かない。

 そんなものなので、私はどうにも再び寝入ることができなくなった。

仕方がないので私は体を起こして、ゆっくりと目を開けた。

真上に見える白い天井と薄明るい部屋。

「ここは、どこ?」

私は起き上がると、そうつぶやいた。

見回すと、私はワンルームぐらいの大きさの部屋の中のベッドの上にいた。

部屋の中にはプラモデルやミニカーが置いてある。男の人の部屋なのだろうか。ベッドの掛布団も藍色である。右手には正方形の窓があり、光が枕元に差し込んでいた。


私は恐る恐るベッドからおりる。

床暖房なのか裸足の足裏からは、ほのかに暖かさを感じた。

足を伸ばして立ち上がった時、妙に体が軽いような気がした。

なぜだろうかと自分の服装を確認すると、まるで病院着のような服を着ている。しかし、ここが病院のようには見えない。


 私は、不思議に思いつつ、部屋の入口の方に歩いて行った。

入口にあるドアは洋風の木で出来た、いたって普通のものだった。


誰かの家なんだろうか。そんなことを思いながらドアの取っ手に手を掛けた時、向こう側からかすかに話し声が聞こえた。

何を言っているかまでは聞き取れないが、男が二人いるように聞こえる。


はたしてここを開けていいのだろうか。

この向こうにいる人たちはいったい何者なのか。

開けたら何を私が待ち受けているのだろうか。


そんな考えが頭を瞬時に駆け巡る。

考えてみればこの向こうにいる人たちがこの状況と関係しているのは明らかだ。

安直にここを開けるのは間違っている。

私はドアを開けるか否か迷い始めた。

恐怖と疑念が私の頭をクラクラとさせる。

手汗とわき汗が出ているのが分かった。


 ここでじっとしていても仕方がない。何かあれば、ダッシュで玄関へ走り込もう。

数分葛藤した後、私はそう決心した。

ゆっくりと取っ手に手をかけると、音をたてないようにドアを自分の方へと引いていく。

静かにドアが全開になる。

向こうの白い壁が見えると、私は息をの顔を半分だけ外に出した。


そこにはテレビの置かれた部屋があり、、さらにそこの床のカーペットに寝転がる男と、壁の方を向いてパソコンを使う男の二人がいた。

二人とも見た感じは若そうに見える。


私が恐る恐る覗いていると、カーペットに寝転がっている男がおもむろにこちらに顔をむけた。その瞬間に私とその男の間で目線がそろってしまった。

私はびっくりして体が一瞬跳ね上がる。

その男はそんな私を見ると、フッと笑ってもう一人の方に話しかけた。

「おい、ツトム。お姫様がお目覚めになったぞ。」

お姫様?私のことなのか。

もう一人の方の男が椅子ごとこちらに振り向く。

「ん?ああ、起きたのか。お姫さまってお前。」

そして、その男は続けて私の方に話しかけてきた。

「おはよう。といっても昼近いけど。まあ、あれだ。色々言いたいことはあるだろうが、とりあえず。ムラタ、どけ。」

私は何が何だがわからず、そのままその場で立ち尽くしてしまった。

「ツトム、いきなりそんなこと言われたって顔してるぞ。」

そう言って寝転がっている男はすくっと立ち上がると、私の方に歩いてきた。

私は近づいてくるその人を凝視しながら、少し後ずさりする。

顔から首にかけての筋が浮き出るのを感じた。

私の顔はおそらくひきつった恐怖の顔だったはずだ。

「えっと、大丈夫だから、別に変なことをするわけじゃなくて。あの、とりあえずそこに。」

その男は私の様子を見ると、両手を胸のあたりで小さく広げながら苦い顔をしてたどたどしくそういった。

私はさらに廊下をずるすると下がる。

後ろにある玄関からの冷気が足元を抜けていくのを感じた。

「いや、その、変なことをするわけじゃないんだよ。だから、その怪しいやつにも見えるかもしれないけど、そんなことはなくて、って言っても信用されないか。えっと・・。なあ、ツトム。」

助けを求めるようにそう言ってその男は向こうを向く。

もう一人の方は椅子に座ったまま大笑いしている。

「笑ってないで何とかしろよ。」

「おもしれえわ。頑張れ。」

「おい。」

その男の人の希望は一瞬で蹴られた。

「ええっと、その。とりあえず、このまま立っててもしんどいでしょ?だから、、こっちに来てもらって、、」

「・・・。」

私は変わらず、黙ってその男の人を見つめ続ける。


しばらく緊迫した沈黙が続き、このままどうしようもないかと思ったとき、突然後ろから扉の開く音がした。

私は予想だにしない方向からの音で、顔を後ろに向けたと同時に、そのままバランスを崩して左を向いて倒れた。さっきの男も慌てた様子で私のところによってくる。

「ああ!大丈夫かい。」

幸い、左腕をついて右手で着地したので体は特になんともなかった。しかし、安心できるわけではない。すぐに顔を上げて音のした扉の方に向ける。

すると、玄関らしい扉の前で立ち尽くす一人の女性が見えた。

「えーっと、ただいま、です。」

その女性は唖然としながら言った。

「ああ、ありがとう。えっと、ムラタが下手くそでちょっとトラブっててな。」

奥の男がそう答えた。すると、その女性は一瞬動きを止めたものの、すぐに状況を理解したようで荷物を横に置いて靴をぬいで上がってきた。

「ムラタ君ちょっと。」

その女性は、小さい紙を取り出して私の上でその男に渡す。

「これ、井村さんのとこのやつ。これが引換券になってるからとってきてくれる?」

「は、はい。わかりました。」

男はそう言うと、私の横を通って玄関から出て行った。


 その女性は玄関の扉が閉まるのを確認すると、倒れたままの私のところで膝をついた。

「大丈夫?、ごめんね混乱するのは分かるのだけど。少し座れる?」

優しくそういうと、手を差し出す。

私はその言葉を聞くと、なぜか少し胸のあたりが落ち着いたように感じた。声なのか、それとも同性だからなのか。いつの間にか意識するでもなく自然と差し出された手に私の手も乗っていた。そのまま腕を軸に腰を支えながら体が引き起こされた。

「ここだとなんだからあっちに座ろうか。歩けるかな。大丈夫?」

私は会釈するように小さくうなずく。

すると、その女性はゆっくりと私をエスコートするように手を引いて、リビングらしいところへ歩いていった。


 私は小さなローテーブルの前で正座をして目を泳がせていた。それに、何が何だかわからない中でまだ私の困惑と警戒が解かれたわけでもなかった。

さっき私の手を引いていた女性がテーブルの反対側に座る。

「大丈夫?」

その人が聞いてきた。しかし、口が重たい。

何かをしゃべろうとするのだが、この一言が出てこない。

私は下を向いたまま手を強く握った。


しばらく沈黙が続く。

そこへ、さっきは奥に座っていた人が湯飲みにお茶を入れてやって来た。

「ほい。お茶な。のど、かわいてるだろ?」

その人は湯飲みを置いてそういうと、再びキッチンに戻る。

私は黙って湯飲みの中を見ていた。

白い湯気が立ち、ほのかに茶葉の香りがする。

でも、腕がまだ上がらない。

そんな私を見ていたのか、さっきの女性が私に話しかける。

「彼は少し口が悪くてね。別に悪気があるあけじゃないんだけど、普段からああだから。」

「おい、聞こえてるぞ。」

すると、奥からその男の人の声がした。

「ええ、聞こえるように言ったからね。でも本当のことでしょう?」

 私は特に顔色を変えるでもなくこのやり取りを黙って見ていた。

もしかしたら怖い人たちではないのかもしれない。

この人たちは悪い人たちではないのだろう。確信はないが、不思議とそう思えるようになってきた。

 私はゆっくりと膝から手を上げてきて、両手で湯飲みを包み込む。

ちょうどよい温度で、ずっと握っていられるように感じた。

そして、ゆっくりとお茶を口へと運んでいった。

味は普通だ。そう普通。体に温かさが広がっていくと同時に、だんだん警戒していたのが馬鹿みたいに思えてきた。

「どう。大丈夫?」

その女性が聞いてきた。

私は返事をしようかと思ったがとっさに会釈で返してしまった。

「そう、ならよかった。それで、私たちは誰って話よね。」

その人は笑ってそう言った。

まあ、確かに。聞きたいことは山ほどある。 


そもそもどうして私はここにいるのだろうか。

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