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4.






夜、飛市の自室。



部屋の主はベッドの上で大の字になりながら物思いにふける。


あの少女がぶつけた感情。それは自分の行いによるものだ。


飛市は全て理解している。




(俺はどうせ女の敵だ。王子様なんかじゃない。)




少女に対する奇行。それは自らの本懐に沿う。


正直なところ正解は分からなかった。あの少女を救う方法。


それでもできることがある。クラスの女子に煙たがられる自分だからできること。



「あの様子だと明日ぐらいで最後かな…」



終わりは近い。悔いはない。むしろそれでいい。


もうあの子は一人じゃないのだから。







次の日…




「りっちゃんおはよ~。」


「…おはよう。」


「…り、りっちゃん?」



朝、教室に入ってきた律にいつもの明るさはない。友人がいつもと様子が違うことに沙苗は戸惑う。


(怒ってる…?)


沙苗とそれ以上口を利くこともなく、律は黙って自分の席に着く。


そこへ、いつものように飛市は調子よく教室へ入ってくる。



「おはよう蓮村ぁ!なぁなぁ、ちょ~っと頼みたいことあるんだけどよ?もうパンツだけじゃ物足りないから、いっそ上も下も脱いで下着だけに…」


最早恒例となったセクハラをかます飛市に対し、律は勢いよく彼の顔面に平手を見舞った。





「…いい加減にして。」





教室全体が一瞬時が止まったかのように静まり返る。


それはぐちゃぐちゃに絡みついた想いを断ち切る一撃。


まっすぐ少年を見る目にじわりと涙を浮かべ、震える声で静かに言葉をぶつける。





律が自分の机に突っ伏し、飛市が自傷気味の乾いた笑い声をこぼす頃、クラスのボリュームが再び上がってゆく。


「蓮村さん大丈夫?」


クラスの女子が律を心配して集まってくる。以前は見られなかった少女を囲む思いやりの輪。


その中で律は押し寄せる感情の波に飲まれ続ける。


あの少年との思い出は、湧き上がる感情を怒りだけでは済ませてくれなかった。


胸がジクジクと引き裂かれたように痛む。




「あーあ、フラれちまった。」


あっけらかんとした態度で飛市は仲間内に溶け込んでゆく。


「おめー息くせーからだろ。」


「あ?ぶっ殺すぞ?」


「脇が臭ぇんだこいつは。」


「胡散くせーし辛気くせーもんな。」


「お前らさぁ!いじめだかんなそれ!」



飛市は何もなかったかのように、いつものようにふざけ合い、笑い合う。


少女と同じ胸の痛みを抱えたまま。












「りっちゃんっ!」




「…!ごめん。」


「ボーっとしてるね。やっぱりさっきのこと?」


「…まあ、うん。」


「大丈夫だよ~。みんなりっちゃんの味方だよ?」


「まあ、あんだけはっきり態度で示したんだ。もうちょっかい出してこないだろ。」


呼珠は内心訝しんでいた。昨日までとは律が飛市に向ける態度が変わったように思えたからだ。


(我慢の限界って感じではない気がする…。アイツとなんかあったのか?)


「その…。みんなありがとう。びっくりさせちゃったね…。」


「そんなことないよ~。りっちゃんが大変なのみんなほっとけないんだよ。私もね。」


沙苗は慈愛を纏った表情で律に寄り添う。以前は在りもしなかった、律を気にかけてくれるクラスメートの存在。かつて化け物と呼ばれた少女は今、確かにクラスによって守られている。


「それでね、さっきの続き。りっちゃん文化祭の担当決めた?」



ただ今の時間は文化祭における役割決めの最中であった。


クラス演劇、クラスごとの出し物、出店の中で一人一つの役割を担当する。



「うーん…まだ悩んでるかな。さなちゃんは決めた?」


「私はクラス演劇の配役にしようかな。メイド喫茶は…ちょっと恥ずかしいかも…。」


「確かにメイド喫茶よりはいいかもね。じゃあ私も…」


「おぉっと。実はリッチーもう決まってんだよね~。」


「え、どういうこと?」


「あ、蓮村さん。呼珠ちゃんから聞いたよ?メイド喫茶やってくれるんだって?」


「えっ?!私、一言も…」


「そうなんです!リッチーは是非このぷりちーフェイスを役立てて欲しいと自ら立候補したのですっっ!

自分の猫耳メイド姿なら必ずやお客さん全員を萌え萌えキュンで卒倒させることが出来るとっっ!!」


「いや言ってないし!」


「ちなみにウチはバックヤードでニヤニヤしてるからよろしく~。」


(お前が見たいだけだろぉーーーーーーー!!!)


「蓮村さんかわいいから絶対似合うよ猫耳メイド!楽しみにしてるねっ!」


「うぅ~…。」


「と、言うわけで期待してるよチミ。頑張りたまえ。」


呼珠は律の肩をポンと叩く。


「あんたねぇ!勝手に決めるのはなくない?!」


「細かいことは気にしない気にしない。ウチはあくまでリッチーの需要を理解した上で推薦しただけ。

後藤ちゃんもリッチーかわいいから大歓迎って喜んでたよ~。」


「私も、りっちゃんのメイド姿見たいなぁ。絶対かわいいよ~。」


「それに、今のリッチーにはいい気分転換になるだろ。こういう時こそはっちゃけとけって。」


「そうは言っても極端すぎるでしょ。もー…。」


(今から恥ずかしい…!コスプレなんてやったことないし、どうしよう…。)











その後、文化祭の準備期間が始まる。


普段の授業では味わえない高揚感を胸に各々が日々自分の役割を全うする。


ただ今の時間はクラス演劇の練習を行っている。本番に関わる生徒以外も道具作成等でクラス全員が演劇の作業に当たっていた。



「さなちゃんはヒロイン役だっけ?」


「そうなの。セリフもいっぱいあるし今から緊張が…うぅ。私背景の木とかでよかったのにぃ~。」


「し、小学校じゃあるまいし…。確か『暴走のフリーレーン』ってヒロインの見せ場が結構あったよね?」


「なんか難しくて長い呪文を唱えたり主人公に告白したりするの。私呪文を全部ちちんぷいぷいに代えてって頼んだけどダメだったよ…。」


「(そりゃそうだろ…。)メイド喫茶の方はまあイメージ通りね。おかえりなさいませご主人様…。ううー想像したらまた恥ずかしくなってきたっ…!」



2人はため息の二重奏を奏でる。



「おたまが勝手なことしなければ…。アイツのライブの時に空き缶でも投げてやろうかしら。」


「でもりっちゃんと同じだね。緊張したり恥ずかしくなるのは一緒っていうか…。だから私もがんばろうって気持ちになる。」


「さなちゃん…。」


「もうこうなったら当たって砕けろだよ!失敗しても命は取られない、そう思って頑張るよ!」


「…そうだね。やるからには楽しむぐらいじゃなきゃね。一緒にがんばろっ!」


「うん!」








演劇の練習が終わり、後片付けが始まった。



(ちょっと持ちすぎたかな…。)


沙苗は演劇に使った道具を積み上げて抱えていた。視界が遮られ、ステージから運び出すのに苦労している。


ステージの階段に向かって歩いている最中、沙苗は足元に広げられた台本が落ちていることに気が付かなかった。


ステージの脇から出てきた律は、彼女が今正に台本を踏もうとしている場面に出くわす。



「さなちゃん止まって!!」



咄嗟に叫ぶ律だが、最早手遅れだった。


「わっ、あっ…」


沙苗は台本を踏んだ拍子に足を滑らせる。体勢を立て直そうとするが、物を持った状態でうまくバランスが取れず、そのままよろめきステージから落下しそうになる。



「さなちゃん!!!」



律は友人の危機を目の当たりにし、咄嗟に能力を使おうとする。




その瞬間、律の脳内によぎる過去の記憶。


自らを苦しめたあの日の出来事が律の意思を揺さぶる。



「…くっ!」



律はためらいそうになる自分を戒め、迷いを断ち切る。


今自分が動かないと友人を助けられない。迷っている暇はない。


固い意志を持ち直し、律は沙苗に向かって右手を向け、思念の力を行使する。


その瞬間、ステージから足が離れ空中に投げ出された沙苗の体は静止する。


沙苗が持っていた道具が床に落下し大きな音を立てると、その場にいたクラスメート達は一斉に音のした方へ注目する。


クラスメートたちが見たのは人間が宙に浮いている光景。


あまりにも奇天烈な光景に一同は理解が及ばず、ただ口を開いて唖然とするしかなかった。


沙苗は自らの意思とは関係なくゆっくりと床に着地し、そのまま腰を抜かしてぺたりと座り込む。




「りっちゃん…?」




彼女の視線の先には、こちらを見ながら呆然としている友人の姿があった。





「あ…」





「今の、りっちゃんがやったの…?」






脳裏によぎる、ついこの前までのこと


正体を知られた者の末路 心を閉ざす日々


苦い思い出が脳内でどんどん膨れ上がり、質量を増してゆく




「来ないで…」




沙苗は立ち上がり、ステージ上の律の下へゆっくりと向かってくる。


律の体がわなわなと震えだす。自らの正体を知った友人が近づいてくる。


化け物に戻りたくない。友達が友達じゃなくなってしまう。


律に判決を下す足音がゆっくり、ゆっくりと大きくなってくる。




「いや…」




遂に友人は律の真ん前に立ち、こちらを真っ直ぐに見つめている。


律の恐怖がぶくぶくと膨れ上がり、体からあふれそうになる。



「りっちゃん!」


「…!」


律の精神が悲鳴をあげ、めまいがして倒れそうになる。









その時、律は勢いよく抱きしめられる。


「…えっ?」


「ありがとう…。りっちゃんありがとう…!」




目の前の友人は涙を流しながら自分を強く抱きしめている。




「りっちゃん魔法が使えるんだね。素敵な魔法…。私りっちゃんがいなかったらどうなってたか…。」




早苗の言葉はまっすぐで、純粋だった。


異能への恐怖は、そこには微塵もなかった。


自らの能力 それは忌むべき力


あの少年に救われてからもそれは拭いきれていない。


しかし、少なくともこの友人は伝えてくれた。


この力による行いへの感謝の言葉。


律の恐怖で淀んだ心が洗い流されてゆく。




「ありがとう…。さなちゃん、ありがとう…。」


律は大切な友人を抱き返す。その頬には涙が伝う。


「…どうして?助けてもらったのは私の方なのに。」


「それでもっ…!ありがとう…。」


「…変なの。」


沙苗はやさしく微笑んだ。















律と沙苗は遅れて教室に戻った。


2人が教室に入った瞬間、教室は一瞬静まり返る。


嫌な沈黙が教室を支配し、それはすぐさま元の賑やかな雰囲気へと戻る。



「なあ、お前らさっきなんかあった?」



律の友人、呼珠が2人のもとへやってきた。



「…うん。ちょっとね。」


「まあ言いづらけりゃ別に言わなくていい。」


「ごめん、おたまには後でちゃんと話す。今は人が多いから、3人だけの時に話す。」


「それは別にいいよ。それより聞こえないか?教室の声。さっきから噂してんだ。リッチーが魔法だか超能力だか使ったって。」



沙苗ちゃん浮いてたよね…


蓮村さんがやってた…


超能力だよな…


実際見ると怖いかも…


蓮村さんって何者?…



(やっぱり、見られてた。)



先程の時間はクラス全員が体育館か教室かに分かれてクラス演劇に関する作業をしていた。呼珠のように教室にいて事情をよく知らない者もいるが、約半数ほどは体育館にいて律が能力を使うところを目撃していた。


「ウチはそっちで何があったか知らないし、無理に聞き出そうなんては思ってない。ただ、噂の内容聞いてるとリッチーに対して良いこと言ってるようには聞こえない。正直気分よくねえよ。」


友人を悪く言われている気がするのか呼珠の態度からは憤りが滲んでいる。



「りっちゃん…。」


「私は…大丈夫だから…。」



沙苗は律が大丈夫なように思えなかった。きっと自分たちを巻き込みたくなくて平気なふりをしていると。


自分を助けてくれた律が、その行いによって苦しんでいる。ならば…


沙苗は自分を奮い立たせ、友人のために勇気を振り絞る。




「あ、あのっ!!」



沙苗は大きな声で教室全体に呼びかける。


大人しめの性格で知られる沙苗の大声にクラスの注目は一気に彼女に集まる。



「う、え、えーと…その…。」


沙苗は怖気づきそうになるが、ぐっとこらえて再び話し始める。




「り、りっちゃんのこと悪く言わないで!!りっちゃんは悪いことしてない。私のこと助けてくれたの!」


「そうかもしれないけど、実際見たらちょっとびっくりだよね…。」


「私、やっぱり怖いよ…。」


「俺たち超能力なんて使われたら勝ち目ねえよ!」


「信じられない…。蓮村さんって本当に人間なの…?」




得体の知れないものに対する漠然とした恐怖。その根源である律に心無い言葉が向けられる。


先程の一件から状況は変わってしまった。律を守っていたクラスの姿は今や見る影もない。




「そんな…。あんまりだよ!!りっちゃんは私たちのクラスメートだよ?!私たちと何も変わらないよ!」


「人間かどうか怪しい奴は違うだろ。」


「そうだよ!そいつは化け物。私たちとは違う!」


「ずっと正体隠してたなんて、信じられない!」


「沙苗もそいつの仲間なのよ。化け物は全員クラスから出て行って!」



憎悪のボルテージは上がってゆく。最早止まるところを知らない。



「ひどいよ…。」


「こいつら…!」



呼珠は苦虫を嚙み潰したような顔で激しく憤る。自分たちに向けられる心無い言葉の数々に我慢は限界を迎える。



「お前ら…」


「待ってっ!」



呼珠が罵詈雑言に向かって凄みかけたところで律がそれを止めた。


「…私は大丈夫だから。」


「大丈夫なわけあるか!お前今平気なふりもできてないんだぞ!?」


「本当に大丈夫…。慣れてるから…。」


「…!」




慣れている


その言葉の意味は容易く想像できた


呼珠はまだ知らなかった。目の前の少女が歩んできた道のりを。



(じゃあこいつ、こんな地獄みたいな状況を今までも…)




その時、ひときわ大きな声が教室に響き渡る。





「おいっっ!!!!!!」





その声に教室の全員がビリビリとするような感覚を覚える。


声の主は飛市だった。



「お前らいい加減にしろよ…!寄ってたかって女子一人にあーでもないこーでもない言いやがって…。蓮村のこと悪く言うやつはなぁ、俺がぶっ殺してやるからなぁ!!女だったら犯す!」



飛市の発言は案の定女子の顰蹙を買い、ギャーギャーと罵詈雑言が彼に向けられる。



「てか上田も化け物一味だったわけぇ?!」


「そんなんじゃねえ!てか蓮村は化け物じゃねえ!ぶち犯すぞっ!」


「キモーーーイ!!」



(上田…)




律は飛市と女子たちの掛け合いを黙って聞いていた。


眉を顰めたくなるほど粗末で品がなく、バカバカしい言い争い。


それが不思議なことに、自分の心が軽くなっていくような気がする。


あの日彼ははっきりと言った。その言葉に自分は助けられた。


意味が分からなかった彼の行動。それがなんとなくわかった。


彼はずっと言葉通り行動していた。この場にいてなぜか安心を覚える理由も、きっとそうだ。





(あいつ、ずっと私のこと守ってくれてた…。)





「だからお前は何で蓮村のこと必死に庇うんだよ?!」


「バーカ、そんなこともわからねえかよ?!何を隠そう、俺たち付き合ってんだよ!」



教室中が驚きの声をあげる。



「うわーやってんねぇ…。それはマジで蓮村さんに同情するわ。」


「ふ、ふざけんな!お前あれだからな!蓮村がどうしてもっていうからOKしたんだよ!」


「嘘つくな!どうせハメ撮りとかで脅して無理やり付き合ってるだけでしょ?!普通の神経してればあんたなんか生理的に無理よ!」


「ちげえよ!100%純愛だっつの!こう見えて俺モテモテだから。ま、芋くせーお前らには俺の魅力がわからないみたいだけどな!」


(まあ一から十までデタラメだけどな。とりあえず付き合ってることにしとけば蓮村守る口実にはなるだろ。俺天才じゃね?よし、あとはいろいろ適当に誤魔化して…)








体が動いていた


熱い 鼓動が速い


自分が今狂ってるのは君のせい


当然分かっている それはデタラメ


でも本当だったら そう思ってしまった



律はうっとりした表情で飛市の右腕に抱き付いた。









「そうだね…。」








「えぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!??!?!!?!??」


あまりにも衝撃的であったため飛市は激しく絶叫した。


「なんでそんなに驚くのよ…。」


「そりゃ驚くだろ!てかお前熱あるんじゃね?!あれ?俺も熱あるかも。集団感染か…?」


(ドキドキする…。でも上田とこうしてると落ち着く…。)


「てかそろそろ離れろよ!お前も冗談だって分かるだろ?…あ。」


「やっぱ嘘じゃない!てか蓮村さん意外と大胆でびっくり。口裏合わせにしてもノリ良すぎない?」



律は急に現実に引き戻される。大勢のいる前で付き合ってもいない男子に抱きついている。今の状況に恥ずかしさが一気に押し寄せ、冷や汗を流す。


「わ、分かってるわよ!こいつの出まかせに乗ってあげただけ!じゃなきゃ誰がこんな奴と…!」


「いや、そうだとしてもいきなり抱き付くか?!」


「あんたも最後まで嘘つき通しなさいよ!私めちゃくちゃ恥かいたじゃない!!」


「いや、びっくりしたんだよ!やっぱり付き合ってない男女同士いきなりそういうのは良くないだろ!」


「真面目かっっ!!!あんた脳みそピンクのくせに真面目ぶってんじゃないわよ!!たかが女子に一回抱き付かれた程度でなにキョドってるわけ?!!」


「し、しょうがねえだろ!?俺そういうの初めてだったんだよ!」


「初心かっ!!素直かっっ!!私だって初めてだったわよ!!…って何言わせんだバカっ!!!あーもう…ほんっと信じらんない!このバカッ!バーカバーカ!」



(…こいつら仲いいなー。)



教室の一同は繰り広げられるメオト漫才を呆れながら見ていた。













時は放課後



「りっちゃん、帰る時間だよ?」


「…そうですね。はは…。」


そこには燃え尽きて真っ白になった律の姿があった。


「なんというか…、てぇてぇだったわ。」


「殺してぇぇぇぇぇぇぇ!!!」



律は恥ずかしさで気がおかしくなりそうになる。


そこに飛市が申し訳なさそうにやってきた。



「は、蓮村…?」


「ひっ…!!」


「うっ…そ、その…さっきはごめん。あの時思い付きで付き合ってるなんて適当言って、お前に思いっきり恥かかせてしまった。」


「本当にねっ!!…って言いたいとこだけど、私もあの時はどうかしてたわ。あんたの冗談に勝手に乗って、最後逆ギレしてきつく当たって。こっちこそごめん…。

でもね、あんたが私のためにがんばってくれたことはわかる。上田は上田なりに考えて私のこと守ろうとしたんでしょ?毎日私にちょっかい出してたのも、クラスのみんなに私のこと気にかけてもらえるようにするため。なんとなくそうなのかなっては思った。だから、今はもう気にしてないよ?

あの時、あんたは私のこと守るって言ってくれた。それで実際に今までそうしてくれた。今回だってそう。そのことは、純粋にうれしいって思ってるんだよね。」


律は笑顔で語りかけると、飛市は照れくさそうに律から視線を外す。


「そ、そうか…。それは、よかった…。」



「…脈だね。」


「…たまちゃん?」


「蓮村さん。」



2人が会話をしているところにクラスメートが何人かやってきた。


「ごめん、私たち邪魔かな…?」


「い、いやいやいや!そんなんじゃないから!」


「さっきはごめんなさい。蓮村さんには本当にひどいことを…」


「アタシも、蓮村ごめん。」


「わたしも。」


「俺も、ごめん。」


「みんな…。」


「あの時は蓮村さんが得体の知れないものに見えてた。でも、蓮村さんは例え特別な力を持っていても人に危害を加えるような人じゃない。そんなこと、少し考えればわかることだった…。」


「結局、ウチらがただビビッて気が立ってただけだったんだよね。マジ情けなかったわ。でも蓮村と上田が喧嘩してるの見てたら、ビビってるのも馬鹿らしく思えてさ。」


「私の能力で怖い思いするのは分かる。だからずっと隠してきたの。安易に使って痛い目を見たこともある。でも、みんながそう言ってくれるおかげで私は救われるし、もっとみんなと仲良くしたいって思えるから…。」


「蓮村さん…。」


「わたし、ちょっと見たいかも。蓮村さんの超能力。」


「えっ?!」


「私も気になる!本物の超能力なんて初めてだもん!」


「アタシも見たい!」


「…その、他のクラスに内緒にしてくれるなら。」


「もちろん!もし能力のことで何かあったら私たちが絶対助けるよ!」


「じ、じゃあ、例えば…。」



律は自分の机にあったペンを能力で浮かせる。そのペンは律の指の動きに合わせてくるくると空中で回る。



「すごーい!」


「あ、ありがと…。」


「リッチー、まさか本当にレベル5だったとは…。」


「それはいろいろマズいって!!」




能力を披露する律の周りにいつの間にか人だかりができる。律を邪険に見る目はなく、あるのは仲間との楽しいひと時。


非日常が日常と溶け合い調和を始める。


異能を持つ少女は、ようやく等身大の自分で人生を歩むことが出来るようになった。




(また上田に助けられちゃったな。ずっと本当の自分を隠してきたけど、まさかこんな日が来るなんて…。)






(私、やっぱり上田のこと…)









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