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1.




ここはとある高校




他校の例にもれず、生徒は勉学に励み、青春を謳歌している。

人生は一人一人違えど、おおよその道のりというものは決まっているものだ。

この世に生まれ、学校に入り、仕事に就き、家庭を築き、そして死んでゆく。


だが、その道のりの中で一人一人に物語が生まれる。

千差万別あれど、それが人生を美しく彩るのだ。

そして中には、普通では考えられない奇妙な物語を紡ぐ人間もいる。

非日常とは、人生の道の途中で現れる怪物か、はたまた願いをかなえる女神か、それは誰にもわからない。



これは、日常の中で非日常と相対することになった二人の高校生の物語である。










時は放課後


上田飛市は一人帰路をたどっていた。



「補修なんか適当に理由付けてバックレるに限るぜ。あ~だりぃ…。」



学ランの下はタコのような宇宙人のプリントがされてあるTシャツ、茶髪の波打つ長髪、およそ優等生という言葉が全く似合わない風貌だ。

友人の悪ガキたちが担任に捕まる中、彼はうまく撒けたようだ。


「早く帰ってジャ〇プ読も。」


力を全く感じられない瞳でそう呟き、グダグダと歩みを進める。



「ん?」



前の方に人の姿を見つける。そこには同じクラスの小柄な少女、それと他校の生徒が三人ほどいた。



「なんだありゃ…」



飛市は怪訝な表情でその集団を見やる。彼女らが友人同士楽しく談笑している様子には見えなかったからだ。



(絡まれてんのか…?)



他校の生徒の方は少女に向かって話しかけているが、それは嘲笑だったり見下したり、およそ敬意に欠けるような態度だった。


少女は無表情で投げつけられる言葉をただ受け止めるばかり。



「穏やかじゃねえな…」



胸にもたらされた不快感は飛市に行動を起こさせる。飛市はその集団に割って入った。




「おい、女の子一人にあんまりじゃねえのか?寄ってたかって三人なんかで詰め寄って。胸糞わりいだろうが。」


「誰だお前?」



飛市は他校の生徒三人を睨みつける。相手も飛市に冷たい視線を向ける。



「お前、蓮村と同じ高校のやつか。こいつに気があるのか?相当シュミ悪いぞおまえ。」



そういって他校の三人は不快な笑い声をあげる。


「なんだお前ら。いちいちウゼエんだよ。この子は確かにクラスはおんなじだ。

でもそんなのはどうだっていい。要はお前らぶん殴らねえと腹の虫がおさまんねえってことだよっ!」


飛市の怒気が乗った啖呵が他校の三人をけん制する。


「おぉ、こわいこわい。俺たちは別におまえと喧嘩がしたいわけじゃない。

お前も三人相手じゃ分が悪いだろ?」


「何人だろうが関係ねえ。痛い目見たくなかったらとっとと消え失せろ…。」


「ああ、そうするよ。ただ最後に一つだけ忠告してやる。こいつを助けようなんて気は起こさないほうがいい。

俺たちはこいつとおんなじ中学だったんだ。こいつのことはよく知ってる。」


「…」


「この化け物はこういう扱いされて当然なんだよ…。」


「…」


「じゃあな、悪趣味な王子様。」





そう捨て台詞を履いて三人は去っていった。




「…チッ。次会ったら覚えとけ。」


飛市は先ほどの学生たちを脳内にあるぶん殴るリストにファイルする。


「お前、蓮村だろ?大丈夫か?」


「…」



飛市は少女に話しかけるが、返事は帰ってこない。



「なんであんなことになってたんだ?」



少女は沈黙している。その光の失った瞳で真ん前に視線をかなぐり捨てている。









遠くで電車の通る音が聞こえる。









少女が少しだけ口を開く




「ありがと。…じゃ。」



そう言うと少女は飛市を躱し、ゆっくりと歩みを進める。



「あ…お、おい!」



飛市は呼び止めるが、少女は気に留めることもなく歩き続ける。


どんどん置き去りにされていくが、やはり気がかりな飛市は少女についていく。



「なあ、教えてくれよ。あいつらと何があったんだよ。なんで化け物なんて呼ばれてたんだよ。」



少女に後ろから飛市は投げかける。しかし、声は少女のところまで届かないようだ。



「なあ、教えてくれよ。教えてくれたっていいだろ?」



2人は距離を保ったまま歩き続ける。声は一方通行。


飛市は少女が段々と遠くに行ってしまうようなやるせなさを感じつつも、しばらく歩きながら

少女に投げかけ続けた。



夕日が徐々に沈んでゆく頃、人気のない道に差し掛かったところで少女は歩みを止めた。


そしてゆっくりと振り返り、飛市に目をやる。


飛市も歩みを止め、お互いが初めて目を合わせる。







街路樹が風にそよぐ音が聞こえる



少女のさらさらしたショートヘアーがふわりと風に遊ばれている







「話す気になってくれたか?」



飛市は少女に近づこうとした。…はずだった。






「…あ、あっ?!」




飛市は少女に近づくのをやめた。…というよりも一歩進もうと足をあげたところで体が固まってしまった。

あまりにも不可解なことに驚き叫び声をあげる。


(なんだ…?体が固まって動かないっ…!)


首から下が生きた銅像のようになってしまった飛市を少女は顔色一つ変えずに見続けている。



「…うわああああああっ!!」



飛市は再び叫び声をあげる。

それもそのはず。今度は二人の周りに落ちていた空き缶や石、コンクリートブロックの欠片などが突然ゆっくりと宙に浮きだしたからだ。今現在起きている超常現象を目の当たりにして飛市はもはやパニック状態だ。


「た、助けて…ヒッ!」


目の前を見ると、この状況で少女は光の灯ってない瞳で飛市をただ見つめていた。


その不気味さ、自分は決して敵わないという畏怖に身を振るわせながら飛市は少女に身も心も支配されるしかなかった。





少女はゆっくりと口を開き、語った。




「あいつらの言う通りよ。私には関わらないほうがいい。

今起きてることはすべて私がやってること。」


「…!」




飛市は少女の言葉で悟った。先程の少年の言葉の意味を。


彼女、蓮村律は超能力者だった。普通の人間には使えないはずの異能を持つ人間。則ち________










 私は      化け物












日常の中に潜む非日常が大きく口を開けた。

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