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いたずら好きな白狐は戯れが過ぎて困ります

作者: 石坂英治

叔母の家は小さな岬にある。

その日、私はギックリ腰の父の代わりに叔母(父の妹)の家に行き、たわわに実ったミカンの収穫の手伝いすることになった。

 岬の家に行くには列車とバスを乗り継ぎ3時間ほどかかる。

最寄りのバス停には小さな小屋があり、バスを降りると叔母が小屋の中のベンチに座り居眠りをしていた。私を出迎えてくれていたのだ、気持ちよく寝ている叔母を起こすのは少し気が引けるが「叔母さん、叔母さん、起きて」肩をポンポンと叩くと叔母は顔を上げて「おぉ正雄か、良く来たな」と言って重そうに腰を上げ、杖をついて私と一緒に家まで歩いて行った。

 「ミカン狩り」

 家に着くと叔母は「早速で悪りんだけどよ物置から三脚を出しておいてくれねーえか」三脚と言っても庭師が使う大きな脚立だ。

物置と言っても都会の建売住宅で例えるなら、二件分の敷地に二階建ての家ほどある大きな物置だ。物置の中にはトラクターやコンバインなどがあり、そのわきをすり抜けて大きく重い三脚を担いて庭に出したのだ。

 叔母の家に入り一服すると早速、庭に植えてある大きな温州ミカンの収穫を始めた。そう、ミカン狩りと言ってもミカンの木が沢山あるミカン山ではなく庭に植えられている大きなミカンの巨樹である。そのミカンの木は毎年五百個ほどの実をつけるのだ、よって収穫には庭師が使う大きな三脚が必要となる。

 収穫用のミカンのコンテナ2個ほど採り終えたところで、叔母が「正雄、今日はこの辺にしときましょう」と云うので縁側に座り一服していた。

 「漁港」

 叔母の暮らす岬には小さな漁港があり、地元漁師とも付き合いが長く良く獲れたての魚介類を分けてもらっていた。そんな付き合いも有り叔母は採れたミカンを大きなスーパーのポリ袋に詰めて「おい正雄、これを下の水森さんの家まで届けてくれんか」つい「あぁ好いよ」と言ってみたものの、袋を持ってみると見た目以上に重かった。

 長い急坂を折り返しながら、重いミカンを持ち汗だくになりながら漁港近くの水森さんの家に着いた。水森さんが出迎えてくれて「あら、こんなに沢山持ってきてくれて何時もわるいね、まぁサイダーでも飲んでゆき」家の前の縁台でや一休みすることにした。

 さてと、叔母の家に戻ろうとしたとき、小さな揺れの後に少し大きな地震がきた。「水森さん、大丈夫ですか」と家の中を覗くと「大丈夫、大丈夫、このところ地震が多いけど何ともないけ」あゝ良かった震度で言うと4ぐらいはあっただろうか。ま、何事も無くてよかった、帰ろうとすると「待ちんさい、さっき獲れた魚を持って行きんさい」といい私に大小数匹の魚と氷を入れたビニール袋を持たせてくれた。ミカンが魚に化けた、同じくらいに大きくて重い。

 「帰り道」

 魚と氷の入った重い袋を手に持って、通称七曲りと呼ばれている急な坂道を登って行った。行きは下り坂だったので差ほど苦にならなかったが、登りはまるで修行だ。

 あと一つの折り返しで坂道は終わろうとしたときである。また、小さな揺れの後に大きな揺れがきた。今度の揺れは大きい、木々は揺さぶられ鳥たちは一斉に飛び立ち電柱は根元がひび割れるほど大きく揺さぶられ、電線は大きく波打っていた。

 私は急いで坂道を駆け上がり叔母の家に急いだ。叔母の家に着くと叔母は家の外に出ていた「叔母さん大丈夫、怪我はない」叔母は私の顔を見て安心したのか「怖かったよ、物凄く揺れてな」叔母は体が震えたままだった。

 家の外見はとくに壊れた様子も見られなかったが、家の中は食器や家具が倒れて足の踏み場もない状態だった。私は震える叔母の肩を抱いて「大丈夫だよ、いま父に電話するから」何度も電話を掛け直しても電話が通じない。

 仕方なく叔母を連れてバス停まで行き、そのバス停の小さな小屋で少し休むことにした。

 「白狐」

 私の肩をポンポン叩き「おぃ、おぃ、おきんさい」どうやら私は寝てしまったようだ。眠い目をこすりながら辺りを見渡すと、私の目の前に見慣れない人が立っていた。「あんた、こんな所で寝たらあかんで」うん、バス停の小さな小屋だったはずなのに、小さな祠のお地蔵様の台座に座って寝ていたようだ。

「あれ、バス停の小さな小屋だったのに」私を起こしてくれた人は「おめえさん、白狐に騙されたんじゃねぇか」「白狐」「あぁ、この辺りじゃよそ者を見つけては白狐が悪さすると昔から言われているじゃ」本当かよ21世紀の現代において白狐が人を化かすなんて有りえねだろう。そうだ、大地震だ「オジサンさっき大きな地震が寄っただろう」そう言い返すと「地震、そげなもの起きておらんぞ」そんな馬鹿な、私はハッキリとこの目と五感で地震をかんじていたんだ。その人は「ところで、あんたは何しにこの村まで来たんか」と云うので、この先の叔母の家にミカンの収穫に来たことを話すと「そうか中村さん所へ来たんか、それだったら車で家まで送ってやるけん、ちっとまってろ」そう言うと、その人は近くの畑まで行って軽トラに乗ってやってきた。

 「繰り返し」

 軽トラに乗り叔母の家に続く沢沿いの一本道を走っていると、また地震が襲ってきた。「ほら、地震だ」やっぱり気のせいじゃなかったんだ。

「地震なてどこで起きているんだ、何処も揺れてなんてないぞ」この人は何を言っているんだ、この大きな揺れが分からないのか「とにかく揺れが収まるまで車を止めてようすを見ましょう」そう言うと、その人は大きく笑いながら沢に向かって急ハンドルを切って車ごと沢へ落ちて行った「わー!”助けてくれ」と思わず叫んで足を突っ張った。

 はっと我に返ると私はバスに乗っていた。バスの車内からは、やだあの人、夢でうなされていたのかしら、クスクスと失笑する声が聞こえてきた。

 バス停でそそくさとバスを降りて、叔母と待ち合わせていた小さな小屋の中に入った。先に着いていた叔母を起こすと一緒に家まで向かって歩いて行ったのだった。

ただ、叔母には大きな耳と尻尾があることに、私は気づいていなかった。


 

 

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― 新着の感想 ―
[良い点] 赤ずきんちゃんじゃないけど、中身が狐に変わっていて、どこから夢で何処迄が現実か、ゆめうつつですね。 ごく普通の田舎の風景(多いんですよね、自分て採れたものの土産)のお陰で、深刻な感じはしま…
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