第2話〜おかしな夢
【4月10日】
「おーい、阿部。起きろよ〜」
「……っあ、すいません」
教室に担任の小川先生の声がゆったりと響き、俺の意識はゆっくりと覚醒していった。
やってしまった…。
背中に、クラスメートたちの笑う気配が伝わってくる。
よりにもよって教室の最前列、それも真ん中の列での居眠り。
目の前でうとうとしてたら、さすがに定年間際ののんびりお爺ちゃん先生でも見逃してはくれなかった。
「最近居眠りするのが多いなぁ。春眠暁を覚えずって言葉はあるけど、まだ新学年になったばかりなんだから気を引き締めるようになぁ。じゃ、続けるぞ」
まだ1時間目が始まってからさほど経ってない時間帯。
俺は一度伸びをしてから、目の前にある黒板に集中し直した。
…………。
昼休み。
ちょっとした自己嫌悪を抱きながらカバンから弁当を取り出す。
結局その後も昼休みまで、2回も居眠りを注意されてしまった。
最近とある理由で、夜あまり眠れてないのが原因だ。
「阿部君、昨日夜更かしでもしたの?」
「ぎやま…」
俺に話しかけてきたのはクラスメートの杉山裕司、通称ぎやま。
ぎやまは心配そうに近くの席に座ると、昼食のサンドイッチと炭酸を机に置いた。
「あー、なんか最近夢見が悪いって言うか。全然寝てる気がしないんだよね」
「ふーん、けどほんと居眠りする人多いよね」
実際、俺だけでなく何人も授業中に注意されていた。
今ぎやまが座っている、隣の席の常夏なんかはほぼ全ての授業で寝ていたのを俺だけは気付いていた。
妙に姿勢が良く、両目も開いていたが、心地よい寝息だけは隣の席の俺の耳にはっきり届いていたし。
結局バレずに、昼休みは委員会の仕事があるとかでチャイムが鳴ってすぐに教室を出て行ってしまったが。
「ちなみにどんな夢とか覚えてるん?結構どんな夢かでストレスとか原因を診断できるらしいけど」
「あー、毎日ほぼ同じ夢だから覚えてるよ。気が付いたら夜の校舎で目が覚めてさ…」
…………。
気がつくと俺は学校にいた。
正確に言うと、目が覚めると、学校にいた。
別にこれは、俺が授業中に居眠りをしてしまったわけではない。
授業中、ほんの一瞬だけ寝てしまいすぐに目を覚ました時のように、はっと切り替わるように、教室で目が覚めた。
入学した時から変わらない、一番前の真ん中の左側の席。
俺はそこに制服を着て、黒板の板書を眺めるように、きちんと姿勢を正した状態で座っていた。
(ああ、またこの夢か…)
どこかはっきりとしない思考で、漠然とそう思った。
実のところ、この夢を見るのは初めてではなかった。
確かこれは明晰夢、だっただろうか。
夢だと自覚しながら見る夢。
あまりその手のことに詳しくないので合っているのかは微妙だったが、とにかく俺はそれを夢だと理解していた。
ぼんやりと把握できるだけでも教室の窓の外は暗く、時計は長い針も短い針も12、つまり0時を指している。
自転が逆にならない限り、外が暗くて時計が正午を指すわけがない。
俺はいつの間にか、深夜0時の学校にいた。




