覚醒!バニーガール
魔王。
俺たちの住んでいた世界では、ゴブリンのような妖魔、オーガのような鬼、デュラハンのような所謂アンデッド、そして俺たちのような悪魔__人間がいうには、まとめて魔族と言うらしい__を束ねる者のことを言う。
俺__『ベルゼ』は代々魔王を担ってきた家系の長男として生まれた。俺自身は魔王じゃないんだけどね。
弟が生まれるまでは魔王になるための教育を受けていたし、俺自身も魔王になると思って生きていた。
弟の『サタン』はそれはもうヤベー奴だった。サタンが5歳の頃、くだらないことで喧嘩になり、当時15歳だった俺をボコボコにした挙句、やり足りなかったのか通っていた学園の悪魔をタイマンで全て捻ったのだ。15歳にして悪魔生での挫折を経験した俺は、弟に魔王の座を明け渡すことを決意した。
悔しくなかったわけじゃないけど、勝てないものは仕方ない。圧倒的な力を前にしたとき、弱者は諦めるか捻じ伏せられるしかないのだ。
サタンとはそれ以降そこそこ良い関係を築いてきたからか、弟が魔王になった後、俺は魔王の側近になった。これでもNo.2である。
そんな生活が続いたある日、No.2として人間の生態を観察せよとのお達しがあり、弟との相談の結果、異世界に行くことが決定。
教師として潜入するまでは上々。
そんな俺は____
非常に困ったことになっていた。
すっかり忘れていたのだが、今日は飲み仲間との駄弁り兼現在の情報交換の日だった。忘れていたのでこの日に紅音とカフェに行く予定を立ててしまったのだ。
本当は断ってごねて逃げてしまってもいいのだが、先も言った通りここは異世界。元の世界の情勢も知っておかないと、あっちの世界のもしもに動けないのだ。
正直、「またあとで!」なんて笑顔で言われてしまったのでこんな飲み会放っておきたいが、No.2なので仕方ないのだ。……ちくしょう、行きたくねえなぁ……。
「ほら行きますよベルゼ様。他の皆さんはもう待っていますし」
「わかった、わかったから首絞めるのやめてもらえないかな。そんなことしなくても自分で歩けるから」
「こうしないと逃げる悪魔が数名いるんですよ。レヴィア様に至ってはこれでも逃げますし」
「……お前らも大変なんだな__あ!」
「どうされました?」
胸倉を掴んでいる方のオーガが首を傾げる。
「連絡だよ、連絡。今日紅音と出かける予定だったから」
「紅音って……ああ、協力者のことですか。わかりました、連れていきながらメールか電話でも__」
「グワァアアアア!」
野太い悲鳴に驚いて振り向くと____
「大丈夫ですか!千秋さん!」
バニーガール姿の紅音が、オーガを踏みつけにして立っていた。上着といえば燕尾服くらい。ご丁寧にふわふわのうさみみまで着いている。
いや似合っているし可愛いしエロいとは思うがお前の方が大丈夫かと問いたい。
「な、なんだこの痴女は!」
「痴女とは何ですか痴女とは!私のどこが痴女というんですか馬鹿!」
「ば、ばか!?貴様みたいな女に言われぶべら」
「リィイダァアア!?」
リーダーと呼ばれたオーガが倒れた拍子に、胸倉から手を離される。
えっ、ちょっ、落ち____!
背中に当たる感触はアスファルト__ではなく。柔らかな手。目の前には発展途上な双丘。どうやらお姫様抱っこをされているらしい。仮にも魔王(の兄)が女の子に守られてるのはちょっと恥ずかしい。
「す、すみません千秋さん!大丈夫てすか!?」
「俺は全然大丈夫だけど、紅音は?」
「私も全然……千秋さんは変わらず優しいですね……ぇ」
漸く自分の服装に気がついたのか、真っ赤になりながらゆっくり俺をおろし__
「うわあああああチクショーやったらああああああ!!」
紅音が口汚くなりながらオーガに襲いかかった____!




