貴方へのラブコール
ずっと願っていた。
魔物が蔓延るこの街で、この学園で、先生だけは無事でいないか。
そんな理想をずっと願っていた。
だが、理想は理想でしかない。現実との擦り合わせができていなければ、空想となんら変わりがない。
理想と現実の差を問題と言うらしい。なら、目下の問題は、先生の危機だろう。
筋骨隆々、子供向けの絵本でよく見るような厳つい顔をした鬼が、先生の胸倉を掴んでいる。同じような奴があと数名、先生の周りを囲んでいた。先生が抵抗しても、当然鬼たちに比べると細い腕じゃ蚊が鳴くほどにしか思われないらしい。軽くあしらわれて、先生を連れて行こうとする。
なんなんだろうか、学校の敷地内で一昔前の不良の真似事だろうか。もしくは人身売買だろうか。他はともかく、先生に危害を加えようとするのは許せない。
____感情的な質であるような気がしていたのだが不思議と頭は冷えていた。腹の奥で廻る怒りは確かに認識しているのだが、すぐに襲い掛かろうとは思えない。
実力差を理解しているからだろうか。確かに、ただの中学生とプロレスラーじゃ、逆立ちしようが土下座しようが勝てそうにもない。
「____あ」
あった。ただひとつだけ。私がなんとか逆立ちしたら勝てるかもしれない方法。
やってみせよう。いや、やらなければ。先生を助けなければ。
『先生を、守りたい』____!
____これは、恋の物語。
「大丈夫ですか!千秋さん!」
兎原紅音の物語。