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第0話 神が創りしこの第二の世界において

俺はこの歳になっていつも思う事がある。

何でいつもこんな事になってしまうんだろうって


桜木小学校1年1組

ある日の夏、お昼の休みが終わった次の、授業参観の時間

今日は自分の良い所、悪い所を書く宿題の発表の時間。

前の席から順に右から左にかけて発表をしていく…

どんどんと自分の席に近付いて来ている事が分かる…

そして遂に…


『ハイ!素晴らしかったです!恵ちゃん。』


僕の右隣の席の人の発表が終わってしまった。

パチパチパチパチ!

教室の皆はその人に全力の拍手を上げていた。


『では次、茂上平次くん!発表をお願いします』

『はひ』


僕は下がビショビショに濡れた椅子から立ち上がる。

僕は用意して来た宿題の紙を広げ言葉を発しようと必死になった。

しかし、第一声を上げようとした刹那

教室にいる36人の生徒と幾人かの参観に来た親達の鋭いナイフの様な目がひとつひとつ全て自分に向かっている事に気付いた。

それは僕が立ちすくみ困惑する時間が長くなればなる程、より鋭利になって行き…


そして…


『うぅ……ウプッ…』


『茂上…くん…?』


『う………おえええぇぇぇぇ……』


6月27日午後2時35分

教室中の皆に見られながら、僕は盛大に吐いた。




時は数分後、保健室のベッドの中


僕はみんなの前で自分が最低な事をしたことにこれ程までにないほど、自分にとてつもなく嫌悪感を抱いていた。


死にたくなるような思い、そんな僕に保健室の先生は必死に励ましの言葉を掛けていた。


『茂上くん、やっちゃった事は仕方ないよ。熱もないようだし教室に戻ってみんなに改めて聞いてもらうしかないよ』


僕はその言葉が全てで正しい事に気付いていた

でも…宿題の紙は自分の吐物でグシャグシャに…

何より、自分がこの状況下であの場所に戻り、また1から発表を始めるという事を想像すると身体中から凍て刺す様な汗が出てくるのを感じられずにはいられなかった…


『先生…僕もう耐えられないです…帰らせて下さい…』

『駄目に決まってるでしょ、熱もないし親とも連絡が取れないのであれば授業に戻るしかありません。』


僕はどうしたらいいんだ

いっその事ここで全てを無かった事にしたかった気分だ

自分が産まれて来てしまった事

自分が他人の前で吐く様な弱い人間に育ってしまった事

僕は全てを忘れてしまいたくなり、やがてそれは自分の左上にある筆記用具入れのハサミに手を伸ばす行為へと現れた。


その瞬間、保健室のドアが開く音が聞こえて来た。

ガラララッ!

その人は紛れもなく、僕の担任の女の先生今泉先生だった


『茂上くん、授業は終わりましたよ。クラスのみんなが茂上くんの事を心配してー…』


先生は茂上が鋭いハサミを喉に突き立て今にも血が吹き出そうな距離で震えているのに気付いた。


『ちょちょちょ茂上くん!?それは駄目ぇぇぇえ!!!』


僕は命を絶つ寸前、担任の先生に止められたのだった。






ここで全てが終わってい






僕は今泉先生の言葉により、再び自分の教室へと戻るよう説得させられていたのだった。

先生の手を繋ぎ、まるで子供とは言え男とは思えない行為により深く自分に嫌悪を抱いていた。

そしていよいよ、自分の教室の前へと辿り着いてしまった

僕は息を呑み唾を飲む

それを見ていた今泉先生は微笑みながら呟いた


『大丈夫ですよ。私のクラスのみなさんは優しくて明るくとてもいい子達なのです。もちろん茂上くん、あなたも含めてですよ。

茂上くんは勉強を頑張っていて何にでも努力をしようとする素晴らしい私の生徒なのです。そう、だからこそ、この先どんな失敗を重ねてしまっても、その心を、かならず、忘れずにいて下さいね。』


僕はその言葉を聞き、数時間前の失態が心を蝕む悪魔が浄化された時の様に身体が少し軽くなるのを感じ取った。


ガララララ

教室のドアが開かれ、僕は恐るおそる入って行き、クラスの人達に会わせる顔を分からないなりに作っていた。

怖くてクラスの人達の目が見れなかった。

あの心に刺さる様な鋭い鋭利な目。

僕は下に顔を向けながらも、自分の席へと戻っていった。


座ってから、少しして隣の席から声が掛けられた。


『茂上くん、もう身体は大丈夫なの?ぽんぽんさん痛くない?』

『うん、大丈夫…』


隣の席の女子の恵さんからだった。

普段は何も話さないクラスの人だけど、今掛けられたその言葉は何よりの僕の救いの言葉だった。

それは一人だけじゃ無い、この教室にいるほぼ全員

自分の事を心配してくれていたのだった。

一部の人間はクスクスと嘲笑う姿が見えたが、自分が思っていたよりも優しい対応をしてくれたクラスのみんなにより、その事も直ぐに忘れて行けそうだった。


『では、帰りの会を始めましょうか』


今泉先生は微笑みながら恒例行事を済ませ何事もなかったように僕達全員を見送ってくれた。


でも茂上が今、気になっているのは授業参観に来てくれるはずだった自分の母親の姿である。

クラスで皆の前で発表する恐怖心を和らげてくれると思い、いてくれるだけで良かった母親の姿が。

僕以外のクラスのみんなは全員が別路で帰る親達と共に話し合っている姿が見えた。

自分はただ、それを見ているだけだった。




その数分後、僕は先生達の誘導の元、自分の家へとたどり着いた。

複雑な気持ちを抱きながら自分の家に入った。


『おかえりなさい』


僕の母は何事もなかったようにそう言い掛けてきた。


『お母さん、何で今日の授業参観に来てくれなかったの?来てくれるって言ってなかったっけ…』

『授業…参観…?ああ…ごめんね、急に仕事の予定が入っちゃって』

『酷…いよ…僕、お母さんが来てくれると思って…』


僕は学校で起こった事を粗方話した。


『それは残念ね…でもね、お母さんもお父さんも仕事で忙しくて大変なのは前にも言った通り分かってくれたでしょ?

私だって忙しくて平次にずっと付き合ってあげてる時間は無いの、だからね』


僕はこの時、初めて「理不尽」と言う言葉を理解した。

僕は今日、学校で起きた事が原因なのか、或いは自分が元々そう言う人間だったのか、僕はこの時自分を育てた親に絶対に言っては行けない言葉を口にしてしまったのだ。


『じゃぁ…さ…産んでくれなくて…良かったのに……』


泣き目になりながら僕はカスリ声でそう解き放った

母は激怒した

今までに見た事もない様な形相だった

自分の事を育てた立場の人間からしたら当たり前の反応だ、間違っているのは自分だ。

そう言い聞かせ、僕は泣きながら二階にある自分の部屋に走ったのを、俺は今でも覚えている


『ちょっと言い過ぎちゃったわね…』


そしてそのまま、次の日の朝

自分は母親に挨拶もしないまま独りで学校に向かった

朝ご飯も食べていない、気分が上がらず授業にあまり集中できない、茂上は浮かない顔をしながら一日を過ごした。


帰り道にて、今日の帰路担当の今泉先生が黄色い旗を上げながら先頭を歩き、それに生徒がついて行く

僕はその頃、家に帰る時に母親にどんな顔をすればいいか、この先どうすればいいかを考えながら下を向きただ歩いていた。


そして…僕は考え事をしていたせいで、石につまずき近くの草むらに家の鍵を落としてしまったのだ…

僕は必死に探した、もし無くしでもしたらまた……

お母さんに怒られる。

この頃の自分は酷い恐怖心と深い絶望感で涙目になり、ひざに泥を塗りながら必死に探した


『無い…無い…!!!!!』


下校中の同級生全員が茂上に目を向けた

でも僕はそんな事など気にも止めない程焦っていた。


涙で視界が悪くなりながらも必死に探す

しかし目的の落とした鍵は一向に見当たらない…

そんな事をしていたその時

先頭にいた先生と数人の同じクラスの人達が茂上の前に現れた

先生は皆に呼びかけ生徒達を集めたのだ


『皆さん、茂上くんが困っています!友達が困った時はお互い様です。手分けして探してあげましょう!』

『はーい!』


探してくれた人達は同じクラスのリーダーのような人、健一くんと隣の席の恵さん、そしてその友達だった。

今泉先生は後続の先生達に他の生徒の帰路を任せ、ここに残っていた。

茂上は小さな声で言った


『いいって…自分で探すから…』


そう、これは人としての優しさが僕に向かっている場面なのだろう

普通はこの状況を経て喜ぶ人間が「普通の人間」なのだろう

でも…僕は……


みんなには愛してくれる親達がいる。授業参観の日、みんなには話しかけていた親がいた。僕とは違い人の前でも発言ができる強い力がある。僕には全て無い。

「理不尽」だ


『先生ありました!』

『おっよく見つけてくれました!健一くん!』


昨日も思った様な事、自分はその嫉妬に駆られた状況からなのか、はたまた元からそう言う人間だったのか

もう自分は確信していた。おそらくはその後者なのだろう。

自分にとてつもなく強い嫉妬と嫌悪感が走る

そして僕はまた、言ってはいけない事を口にした


『だから…いいって言ったのに…』


僕はカタカタと震えながら発した

それを見たクラスのみんなは呆れるような目に変わり


『…行こうぜ』


みんなは自分達が各々で帰りの道に戻った


『も、茂上くんんんん汗汗汗』


先生は汗が噴き出ていた

そんな一年生だった


約一年後、二年の新しい教室

朝の点呼が始まっていた


『21番茂上平次』


僕はボーッとしていた。


『茂上平次!返事をしなさいッッ!!!』

『あっ…はい…!』


新しくなった男の怖い先生、もう今泉先生はいない

もう僕は目が死んでいた。

友達も作れない、親とも仲が悪い、頼れる大人もいない


お昼の休み時間、僕はいつもの裏庭のベンチで一人寂しく読書をし座っていたのだった。


すると突然誰かがここに近づいて来るのを感じた


『やっぱりここにいた』


それは紛れも無く他のクラスの担当になったはずの今泉先生の姿だった


『どうしたの?茂上くんのクラスのみんなはあっちでドッチボールしてるみたいだけど…』

『あっ!そうなんですか!?ちょっと行ってきます!』

『…』

僕は逃げた、今泉先生にだけは僕の現状を知って欲しく無かったから

しかし、

ガシッ

先生に腕を掴まれた


『ちょっと待って、先生にも、良かったら話を聞かせてくれないかな、お願い』

『う…あ……あ………はい…』


僕はまたベンチに戻った


僕は今の現状を粗方話した、親との関係、友達との関係、その他の上手くいかない今までの出来事を

自分の好きな人には話したくなかった事をほぼ全て…

休み時間が終わる学校のチャイムはとっくに過ぎていた


『そっか…色々大変過ぎますね…』


今泉は明らかに小学二年生の子供が背負っていいものでは無い程の重すぎる話に絶句しながらも新人教師なりに必死に解決策を考えていた


『そうですね…茂上くんの話、やっと聞けて良かったです。先生にも話してくれなかったので困っていたのですよ』

『はい…ごめんなさい…』


静かな風が吹いている、茂上は泣きそうになりながら答えた

それを見た今泉は微笑みながらこう答えた


『茂上くんの気持ちは分かりますよ、あの鍵を拾ってくれた時に発した言葉の理由も、みんなの前ですくんでしまう気持ちも、嫉妬しますよね…』


僕は疑問に思った。

何故あの時の僕の気持ちが分かったのか

僕はその事を疑問に思い直ぐさま問い掛けた


『な、何で僕の気持ちがわかったんですか??』


僕はまえのめりになりながら話した

すると先生は汗をかき恥ずかしがり笑いながらこう答えた


『ま、まあ、先生も中学生くらいの時茂上くんと似たような性格だったからさあー汗汗汗』


僕は驚いた、完璧で可愛くて優しい先生が。

先生は前を見て遠い目で静かにこう答えた


『寂しいよね……親にも頼れなくて、友達にも恵まれなくて……でも悪いのはいつだって弱い自分………私も同じだったからさ…』


僕は今まで心の奥底にあったモヤモヤが一瞬にして晴れるような気分がした。

この時に得たものは非常に大事な事なのだろう。

そして、この恩は一生忘れない事を



時は進み、あれから数年が経つ

いよいよ迎えた卒業式、最後の別れ。

僕は最後の校門の前で振り返り先生を探した。

先生はこちらを見ていた

僕はそっと手を振り先生も静かに手を振った

それが僕の最後の小学校の思い出だった。


そしていよいよ中学生、教室に入り自分の席を探す

そして僕は自分の席を見つける



しかし




俺はその時、確か絶句した。

机には沢山の悪口の落書き、汚い水。

教室の横で微かに嘲笑う声が聞こえた。

その正体は同じクラスだった健一とその友達だった






あれから二十年は経つのだろうか。



俺はこの歳になっていつも思う事がある。

何でいつもこんな事になってしまうんだろうって


床には沢山の血、一人の肉の塊

溢れる血を服が吸い取り、また服からこぼれた血をカーペットが更に吸い込む



勤めていた会社の嫌味な上司や最低な同僚や部下をオフィス毎爆破させ殺した

その帰路で幸運にも偶然出会った俺を虐めた主犯の健一を家に呼び何度も刺して殺した

セクハラや嫌がらせで今泉先生を自殺させた二年の時の先生を最後まで苦しめながら殺した


じきに警察が来るだろう

この糞野郎を捕まえに

当然だ、でも俺はこの薬を飲んで




死ぬ




糞みたいな人生だったよ、母さん、産んでくれてありがとう


俺は手に乗せた薬を口に入れようとした

その時


正面の椅子に透き通るような真っ白な足をしている少女が座っているのに気付いた

白色の長髪、白色の肌、白色の眉、白色の服、赤い目、日本人じゃない顔つき、微笑んでいる口。

そんな得体の知れない物体が挨拶するかのように問いかけて来た


『やあ、茂上くん』


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