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第17話 無双の貴族令嬢と不遇の天才鍛冶師、コンビを組む

◇◇


 ミレーヌが建てさせた館は、レンガ造りの3階建て。

 まさに『大豪邸』と表現するに相応しい威容だった。

 

「すっごい広い中庭ね!」


 勝手についてきたセレナが綺麗に整えられた庭園ではしゃいでいる。


「ふふ。いつでも遊びにきてくださいね。『お隣さん』なのだから」


「うん! ありがとう!」


「おいおい。本当にここに住むつもりなのか!?」


 未だに目の前の現実が飲み込めないでいる俺に対し、ミレーヌはあっけらかんと返した。


「住むつもりじゃなかったら家なんて建てないわ。でもこんな大きな館を頼んだつもりはないのに……パパの差し金ね」


 やっぱりミレーヌの親父さんは、娘を溺愛しているようだな。

 ……となると彼女を『赤の刑場』送りにしたゴードンはどうなってしまうのだろうか?


 うむ。あまりにもおぞましい光景しか頭に浮かんでこないから考えないようにしよう。


「ふふ。でも本当に見せたいのはこれじゃないの。こっちへ来て!」


 ミレーヌの後について敷地の端……つまり俺の家との境にほど近い場所まで足を運ぶ。

 するとそこにはこじんまりとした真新しい小屋があった。


「入ってみて!」


 半ば押し込まれるようにして、小屋の中に足を踏み入れる。

 そして部屋の様子が目に映ったとたんに、くらりと立ちくらみがした。


「これは……」


 鉄を溶かす『精錬炉せいれんろ』、空気を送り込む『ふいご』、鉄を叩く『金床かなどこ』、鉄を加工する『火ばさみ』、それに『金槌』もある。


「お兄ちゃん! ここは鍛冶場ね!!」


「ふふ。その通りよ。どう、リオ? 気に入ってくれた?」


「どう? と聞かれてもなぁ……」


 本音を言えば、胸がドキドキしてる。

 だが俺には興奮する『資格』なんてない。


「まあ、いいんじゃないか」


 言葉を濁すと、ミレーヌは真っすぐな目で俺を見つめた。

 いつになく真剣な表情の彼女は、ぐっと語調を強めて言った。


「リオ。あらためてお願いするわ。ここで私の武器を作って欲しいの」


 全身がカッと熱を帯びる。


「なぜだ? なぜここまでして俺に武器を作らせたがる?」


「なぜ? そんなの『リオが私にとって最高のパートナーだから』に決まってるじゃない!」


「パートナー……」


「それに師匠が教えてくれたの。『手に入れたいものがあるなら、なりふり構わず全力で手に入れろ』ってね。これが今、私にできる全力よ。どう? これでもまだ足りない?」


「足りないわけないだろ。だが俺は……」


 ――もう鍛冶はしないんだろ? だったら迷う必要なんてないじゃないか。


 耳元でもう一人の俺がささやく。

 あらゆる感情と雑念を取り払うべく、静かに目を閉じて、呼吸が落ち着くのを待つ。


「ダメ、かな?」


 自信なさげなミレーヌの声が鼓膜を震わせる。

 

 ――やめとけって。こいつは、なりふり構わず、ずかずかと土足で相手の懐に入ってくるような女だぞ。そういうヤツは熱っするのは早いが、冷めるのも早い。すぐに飽きられて捨てられるのがオチだぞ。ベンジャミンと同じようにな。


 ああ、そう言えばそうだったな。

 ベンジャミンも屈託のない笑顔の持ち主で、いつの間にか俺の懐に潜り込んでいたもんな。


 だが目をつむったとたんに、これまでの出来事が流星のように脳裏をよぎっていった。



 ――私はあなたのことを『すごい鍛冶師』って思ったわ。


 ――鍛冶師を辞めるつもりなんでしょ? でも私は続けるべきだと思う。だから勇気を出して!


 ――ふふ。決まりね! ここはドーンと冒険者の私にお任せあれ!


 ――さすがリオ! やっぱりあなたは天才だわ!



 俺はゆっくりと口を開いた。

 心の奥底に秘めていた『本当』の自分に身を任せて。



「3つ条件がある」



 真一文字に結んでいたミレーヌの口が半開きになる。大きな瞳がさらに大きくなった。

 俺はゆっくりと続けた。


「超一流の鍛冶師は『Sランク』の冒険者しか相手しない。だから俺のパートナーである以上は『Sランク』を目指してほしい」

 

 ――おいおい、鍛冶師を辞めるつもりじゃなかったのかよ……。

 

 もう一人の俺が深くため息をつく。

 しかし俺の口は止まらない。

 

「2つ目は『冒険に出る時は俺も連れていってほしい』。ミレーヌは武器がなくちゃ何もできないだろ。だからさ……。心配なんだよ。ただここで待つだけってのは」


 それまでこわばっていた表情を崩したミレーヌが微笑む。

 その顔が眩しくて、俺は視線を横にそらした。

 

「3つ目は……やっぱり俺は武器を壊されたくない。だから『鉱石』を探すのを手伝ってほしい」


「鉱石?」


「ああ。きっとこの世界のどこかにあるはずさ。とんでもなく頑丈な『鉱石』が。それを使って俺が『絶対に壊れない最強の武器』を作ってやる。どうだ? 3つの条件を全部のめるか?」


 ミレーヌは悩む素振りすら見せず、目をキラキラさせながら俺の両手をしっかり握った。


「もちろんよ!! ははは! 私、すごく嬉しい!!」


 無邪気に喜ぶミレーヌを目の前にして、セレナが耳元で「ミレーヌを絶対に手放しちゃダメだよ。お兄ちゃん」と意味ありげにささやく。

 

 だがそんな妹の言葉すら気にならないくらい、俺は興奮していた。


 ――また武器が作れる!


 一度は諦めた希望が、再びよみがえっていくのを感じていた。

 もちろんミレーヌ以外の冒険者からは、これからも白い目で見られることだろう。

 それでもたった一人でも自分のことを頼りにしてくれることが、こんなにも嬉しいなんて、生まれて初めて知ったよ。


「ありがとな。ミレーヌ」


 感謝の気持ちが素直に口をついて出てくる。

 そらしていた視線をミレーヌに戻した。

 

「うん! こちらこそ、ありがとう! リオ!」


 こうして【一撃必壊】の貴族令嬢ミレーヌ、【不壊】の天才鍛冶師リオという『最強のコンビ』が誕生したわけだ。


 さあ、これから二人で大暴れしてやる。

 そして俺たちを『赤の刑場』送りにした奴らを見返してやるんだ!



第1章 完

これで第1章は完結です。

お読みいただきまして、まことにありがとうございます。

次からリオの故郷を舞台に、新たな展開がはじまります。

これからもどうぞよろしくお願いします。


もしこれからも応援いただけそうでしたら、ブックマークや評価を入れていただけるとすごく励みになります。また感想での応援にもいつも励まされております。

何卒よろしくお願いします。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 素敵ですね(ΦωΦ) 利害を超えた友情を感じます。 [一言] 連載楽しく読ませて頂いています。
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