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失敗譚  作者: 裃白沙
6/6

ほらね?

 ――――


「結局ね、犯人はその三人組の中に居たんですよ」

 紗綾はそう言うと、組んでいた手をほどいてアイスコーヒーに手を伸ばした。

「しかしそれだと、残りの三人の内、誰が死んでもおかしくないんじゃないか?」

「ええ、飲み物に青酸カリが混入していた場合はそうなりますね」

 紗綾は事もなげにそう言うと、アイスコーヒーを持ったまま、スィと立ち上がって窓際に寄りかかった。今日はエンジ色のジャケットを羽織っている。結んだ髪がほのかに光を照り返す。

「でも、コップの中のウーロン茶から青酸カリが検出されたんじゃないか」

 私が尋ねると紗綾は微笑んだ。

「これは私の言い方が悪かったみたいですね。そうです、ウーロン茶には青酸カリが入っていました。でも、その青酸カリがいつ入れられたものかはわかりませんね」

「どういうことだい? じゃあはじめからそのコップに……」

「いいえ、そういう意味じゃありません。ウーロン茶に入っていた青酸カリは後から入れられたものってことです。犯人は確実に『セベ』を殺そうとしていたんです」

 紗綾はそう言いながらこちらを向くと、卓上のクッキーに手を伸ばした。

「本当はもっと早く気がつくべきだったんです、だって、被害者はターキーを決めて程なくして死んでいるんですよ。ウーロン茶を飲む暇なんてなかったんです。だとしたら、ウーロン茶に青酸カリが入っていてもそれが原因ではない」

「じゃあいったい……」

 まだ真相にたどり着かない私が可笑しいのか、アイスコーヒーを吸い上げる紗綾の口元には笑窪が浮かんでいた。

「手ですよ。手に青酸カリがついていたんです。そんな手で口元を触っていた。そしてターキーを決めて安心して唇をペロリと潤したら……」

「指? いつ被害者の指に青酸カリを塗ったんだ……?」

「簡単な事ですよ、すぐ手元にあるものです」

「……まさか、ボーリングの球? しかしそれじゃあ他の人がその球を使ったら……」

 紗綾は私の言葉に頷いた。

「それは大丈夫ですよ。だって、あの四人組、ボーリングが上手かったんですもの。上手い人はボールを無暗に変えてみようとはしません。自分にあった球を知っていますからね」

 紗綾はそう言いながら花形のクッキーをかじった。それをコーヒーで流し込むと、目を細めて窓の方を向いた。

「ね、簡単な話でしょう。それに私は現場を見ていたわけです。それだというのになかなかこれに気がつけなかった。とんだ失態ですよ」

「でも、結局解決できたんじゃないか? 今の話を聞いていると、君がそれに気づいたときはまだ現場は……」

「ええ、間に合いましたとも。だからすぐにまた三人が呼び集められたんです。でも、それが拙かったんですね」

「というと?」

 紗綾は私の質問に微笑で返すと、

「犯人は『セベ』の使っていた十四ポンド球の穴に青酸カリを塗っていたんです。でも、それだと十四ポンド球を使った人間全員に死の危険がある。しかしあのグループに十四ポンド球は二つしかない」

「つまり、十四ポンド球を使っていたもう一人の人間が犯人ってことだね」

 紗綾は静かに頷いた。

「予想通り、残されていた二つの十四ポンド球の穴からは青酸カリが検出されました。それも片方は多量、もう片方は微量。つまり犯人と被害者は何度かお互いの球を取り違えていたんですね」

 紗綾はそう言ってアイスコーヒーを吸った。

「でも、彼も覚悟を決めていたんでしょうね、呼び集められたとき、彼も青酸カリを舐めましたよ、『セベ』と同じ要領でね」

 アイスコーヒーを飲み干すと、私はもう一杯注いであげた。紗綾とグラス越しに目が合った。それを避けるように、紗綾は眼を閉じた。

「容疑者死亡、動機は不明。と、失敗譚の終わりには相応しいですよね」


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