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28.ウェルンの街

 私は部屋に戻ると、医療セットを準備し始めた。

原因が何かは分からないので、できるだけ幅広い症状に対応できるようにしないといけない。


 回復魔法も通用するかも、現段階では分からない。

薬草やポーションなどもできる限り、カバンの中に詰め込んで行った。


「よし、こんな感じで大丈夫ですかね」


 私は白衣を脱ぐと、椅子にかけておいた。

準備を終えて、私はベランダに出た。


 春先の風は暖かな感じがする。

王都に来てから忙しいながらも充実した毎日を送っている。


「こっちに来てからたくさんの命を救えましたね」


 陛下の計らいで病院勤務もできて、医師としてのキャリアを積むことができていると思う。


「でも、原因不明ですか。まずは、原因調査もしないといけませんね」


 原因が分からないことには、対処のしようがないだろう。



 ♢



 翌日、私は早朝から出発する準備を始める。

いつもの服装の上から白衣を羽織った。


「さて、行きましょう」


 私は、医療セットの入ったカバンを手に持つと、王宮の庭へと出た。

そこには、騎士団の馬車が停車している。


「サクラさん、おはようございます」


 私に気づいたライムントさんが声をかけてきてくれる。


「おはようございます。今日はよろしくお願いしますね」

「こちらこそ、よろしくお願いします」

「どうぞ」


 ライムントさんは私に手を貸して馬車に乗せてくれる。


「ありがとうございます」

 

 私は、ライムントさんの手を借りて馬車に乗り込んだ。

そして、同じ馬車にライムントさんも乗る。


「では、出発しましょう。目的のウェルンの街までは夕方には到着すると思います」

「分かりました」


 そう言うと、馬車がゆっくりと動き始めた。

地面を踏む蹄鉄の音が規則正しく聞こえてくる。


「どうです? 病院には慣れましたか?」

「そうですね。だいぶ慣れたと思います」


 到着するまで、大してやることはない。

ライムントさんと他愛もない世間話をしていく。


 途中、魔獣の類が出現することもあったが、騎士団の人たちが討伐してくれるから安心だ。


「サクラさんの噂は最近度々耳にしますよ。頑張っているようですね」

「私は、諦めたくないんです」


 目の前で消えかかっている命というのを何度も目にしてきた。

たとえ、それが絶望的な状況であったとしても、私は最後まで諦めたくはない。

そんな医師でありたいと私は思うようにしている。


「本当に強いんですね」

「強くなんか無いですよ……私は怖いんです。目の前で人が亡くなるのは」

「失礼しました。でも、頑張って前に進もうとしている姿は素敵ですよ」


 ライムントさんは優しい声で言った。

これから、危機的状況にも立ち向かわないといけないこともあるだろう。


 ライムントは自分の命を犠牲にしてでも誰かを助けようとする。

私も、医師として最後まで意地でも諦めたくはない。


 もしかしたら私たちは似た者同士なのかもしれない。


「それにしても、原因不明となると厄介ですね。策はあるんですか?」

「回復魔法が使えるといいんですけど、それがダメなら原因を探って薬を作るしか無いですね」

 

 毎回思うことだが、回復魔法は万能の魔法ではないのである。


「原因を探るとなると、時間がかかりませんか?」

「そうですね。一朝一夕でどうにかなる問題ではないかもしれませんね」


 回復魔法が効かなかったら、まずは症状を少しでも抑える応急処置が必要だろう。

その応急処置が済んだら本格的に原因を探ることになりそうだ。


「私も、できる限りのことは手伝いますから言ってくださいね」

「ありがとうございます。いつも助かります」


 そんなことを話しているうちに、馬車は着々と進んでいく。


「そろそろ、着く頃ですね」


 ライムントが言った。

外を見ると、あたりは夕焼けに染まりつつあった。


 正面にはウェルンの街が見えてきた。

そのまま、馬車は街に近づいて行き、街の中に入る。


「見た感じは平和そうな街なんですけどね」

「そうですね」


 原因不明の病が流行っているとは、なかなか思えない感じだった。


「まずは、領主様にご挨拶に行きましょう」

「分かりました」


 確か、今回の話はウェルんの街の領主様が直接陛下に持ち込んだ話だと聞いている。

馬車は街の中央通りを抜けて領主邸へと進んでいく。


「到着しました」


 そして、馬車は大きなお屋敷の前で停車した。

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