03 ここは異世界…
夢を見ていた。
だが、それは悪夢だった。
『お前、カースト底辺のくせに俺様に逆らうってのか!』
激怒しながら俺に向けて筆箱を投げつける男。
奴の名は安地 平斗。
こいつが転入し、同じクラスになってから俺の学園生活は崩壊した。
登校すれば机に『死ね』などの誹謗中傷の文字が書かれ、下校前に取り巻きの人物とともに暴力を振るわされた。
これに気付いた家族や他のクラスが校長や担任に抗議をしたり、警察に相談しようとしたがいずれも効果がなかった。
それは奴が先回りして、父親が文部科学省の人間であることを盾に校長や担任に金と脅しで今回のいじめを見てみぬふりをするように仕込んでいたという。
また、奴の母親もどこかのお偉いさんらしく、母親の圧力も加わってあらゆる悪事をもみ消された。
さらに、警察のほうも取り巻きの一人が親が警視庁で、これも先回りされて対応しないように仕向けたらしい。
結局2年になってから1ヶ月で退学するしかなくなったのだ。
ただ、何も出来なかった事を悔いた教頭の手腕によって学籍・就学状況証明書と成績・単位取得証明書を発行してくれるのが救いだった。
それでも、俺はあいつを許せなかった。 しかし、俺には力がなかった。 悔しかった。
いつか絶対にあいつに仕返しをしてやる!
そう決断した瞬間、視界が真っ白になった。
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「…う…」
重い瞼を開けると、その天井には中世的なシャンデリラみたいなものが飾ってあった。
「あ、お気づきになられましたか?」
そう言って俺の顔を覗き込む一人の少女がいた。
金髪ロングの幼さが残る印象を持った少女だが、ナナやノノとは同い年か少し年下くらいの子なのだろう。
「ここは…?」
ゆっくりと上半身を起こしながら、その少女に尋ねる。
「ここは…貴方にとっては異世界と呼ばれる場所。 その世界にある国の一つ、ステラ王国の私の部屋です」
「異世界…」
ハッキリとした答えを少女から出され、衝撃を受けた。
つまりあの魔方陣は、異世界に転移するためのものだったというわけか。
「ん…、あれ?」
「ここ…は?」
考え事をしていた俺は、隣で気を失っていたナナとノノが同時に目を覚ました。
「二人ともお目覚めになられたようですね」
「そう…みたいだな」
少女と俺は姉妹の目覚めに安堵したが、ここが異世界であるということを二人に説明しないといけない。
「ナナ、ノノ。 どうやら俺たちは異世界に飛ばされたみたいだ」
「ええっ!?」
「本当なのですか!?」
俺が姉妹に向けて伝えた言葉に驚いた様子で顔を近づけてきた。
そこで横から少女がフォローしてきた。
「本当です。ここはステラ王国の私の部屋です。 あなたたちは転移の影響で気を失っていたのです」
「転移…」
「ええ。正確には、ここステラ王国と敵対している国が、『異界集団召喚』という禁術を行った影響によって巻き込まれた形で転移したという方が正しい答えですが…」
巻き込まれた?
どういう意味だ?
そんな疑問が浮かんだ矢先、新たな人影が見えた。
「メルル、失礼するよ」
そう言って入ってきたのは、俺のいた世界では全く見たことが無い緑色のセミロングヘアで、ゴスロリ衣装を身につけていた少女だった。
ここが王城だとしたらメルルと呼ばれた少女も、そして彼女も王族か何かなのだろうか?
「彼らがメルルの部屋に現れた、転移被害者かい?」
「ええ、そうです」
二人の少女が確認した後、こちらを向いた。
「色々と混乱してるところ申し訳ない。 ボクはアリアード・エル・ステラ。こんな成りでも第六王女だけど、気軽にアリアと呼んでくれると嬉しいかな?」
「自己紹介忘れてましたね。私はメルルーナ・エル・ステラと申します。 第八王女なので継承権はありません。 なので私の方も気軽にメルルと呼んでください」
「あ、俺は九重有人と言います」
「私は高槻 七海。ナナって呼んでるよ。 よろしくね~」
「こら、ナナ! すみません、私は高槻 野乃香と申します。 ナナとは双子の姉妹です。よろしくお願いします」
「うん、アルト君とナナちゃんとノノカちゃんだね。こちらこそよろしく」
「ところで、さっきの巻き込まれたというのは…? あと、転移被害者って?」
お互いの自己紹介が終わったところで、先ほどの疑問をぶつけることにした。
さっきの意味は早く知っておくにかぎるからな。
「その疑問に答えるには、まずこの世界における現在の情勢から言わないといけないね」
そうアリア王女が言うと、一呼吸おいてから改めて説明を始めた。
「現在、このステラ王国を含む共存主義国家群と人族至上主義国家と戦争してるんだ。 現在は膠着状態なんだけどね」
「え…?」
この世界は戦争している。
それを聞いて俺たちは固まった。