02 異世界のある王国にて (Side メルル)
「それは本当なのですか?」
「ああ、あのアッシュ王国がまた異界集団召喚を行ったそうだ」
私、メルルことメルルーナ・エル・ステラは、報告を聞いて怒りを隠せなかった。
ここ最近、敵対しているアッシュ王国が異界集団召喚を立て続けに行っているからだ。
アッシュ王国は、私が住むステラ王国とは違い人族至上主義国家で、ステラ王国を含む『七人委員会』に属している国家と敵対している。
『七人委員会』は、人族の3国家と、亜人族2国家、魔族2国家の計7国家からなる国家組織で、共存主義を掲げている。
この世界は、そんな主義、主張の違いによる戦争が長引いている。
こちらは、七人委員会の精鋭たちによって有利な状況になってはいるが、さっき言ったようにアッシュ王国が異界集団召喚を立て続けに行っており、それによる戦力で対抗するつもりのようだ。
「なんでそこまでして…」
「異界の人間のほうが平均的に現地人の私たちより身体能力は高いからな。 それによる数の暴力で我々を滅ぼし、世界を人族至上主義に染めるつもりなのだろうね」
そう言って私の疑問に答えたのは、先の報告の主でもあるエリザベート・エル・ステラといい、私の姉である。
一般的にエリーゼという愛称で呼ばれている。
その人がいうには、異界の人は私たちよりも能力が高く、召喚の際に様々な能力が付加されるので即戦力として利用される事が多い。
ただ、集団召喚なので指定された集団以外にも魔力の分散具合で範囲外の者も巻き込まれて召喚されるデメリットもあり、巻き込まれた者に関しては、どこに転移されるかがランダムなので運が悪いと、モンスターの巣窟にいる事も珍しくない。
「ファミリアによる情報によれば、実行した術者は、アッシュ王国の第三王女だそうだ」
「あの魔力がとてつもなく高いというあの穏健派の…」
「ああ。 彼女が自分で進んで実行するはずがないな。 多分、国王に無理やりやらせたのだろうね」
それを聞いてますます不快感が生じた。
現アッシュ国王も、そして第三王女以外の王子、王女は根っからの人族至上主義者。
特に国王に関しては召喚の権限ももっており、いくら反対しようとも国王の決定が全てである。
「兄様や姉様たちは、他の七人委員会所属国家と連絡を取り合って、巻き込まれた人たちの保護に全力だ」
「第三王女の魔力で行ったから、かなりの人が召喚に巻き込まれるのでしょうね」
「そうだね。 地方領主や貴族の問題も山積みなのだがね…」
「ですね…。 この騒動を機に何かやらかすかも知れないですし…違法奴隷とか」
私とエリーゼお姉さまは、今後の国内の状況を想像して頭を抱えた。
どこの国もそうなのだけど、ここステラ王国も貴族や領主の不正が増えてしまっている。
特に、七人委員会所属国家間では奴隷は『犯罪奴隷』しか認めていない。
これはいわば殺人や強盗、国家を揺るがす不正をしたものにのみ奴隷落ちさせて特定の場所で強制労働させるというもの。
それ以外は違法奴隷扱いとしているのだが、地方ではここ最近の集団召喚騒動に隠れて違法に多くの人を奴隷にして売っているらしい。
しかも犯罪奴隷としてでっちあげてだ。
エリーゼお姉さまともう一人のお姉さまが現在これを担当しているのだが、人手が足りず、手に負えない状況だという。
「とにかく今は異界の人たちの保護を優先するそうだ。 メルルも城内や城下町を巡回してくれないか?」
「わかりました」
こうしてエリーゼお姉さまとの会話を終えた私は、ひとまず自分の部屋へと戻ることにします。
今はドレス姿ですので、動きやすい服装に着替えるためです。
そして、部屋のドアを開けて中に入った瞬間でした。
「え? わわっ…」
突然、魔方陣が現れ、光が発生しました。
あまりの眩しさでとっさに目を瞑ってしまいました。
「まさか…この光は…」
光が収まり、恐る恐る目を開けた直後、自分の目を疑う光景がそこにありました。
「うそ…、この人たちは…」
そう。
異界の男女3人が気を失った状態で現れたのです。
「だ、大丈夫ですか!?」
私はとっさに癒しの魔法を気を失った三人に掛けました。
これで起き上がってくれるといいのですが…。