プロローグ さて俺の能力は…
俺の焼き上げた肉を他の子供達が一斉にちらちらと目を向いてきた。何?ほんのちょっと調理しただけでくどいのか?と思いきや
“いいなぁ。それ”
“美味しそうじゃん”
“そんな方法があるんだったら早く知ればなぁ”
知らない…だと…いや無理もないか。相手は魔物とはいえ、自然界に馴染む方の生態系を抱えている動物だからだと俺は彼等の奥底を見通した。
子供達は即真似して俺と変わらない出力であぶり始めたのだった。
“やった。焼けた”
と心踊るのがいれば何かと早過ぎると思いきや、全く焼き加減がレアだった。
…ステーキというのも知らないよな…
平らげた後に俺は怪訝にも目を細めた。無邪気な子供達だがなかなか洞窟から出たらがないのが妙だ。
目の前に出入り口があるも親がそれを外出を防ぐかのようにその場で据えている。
理由としてはまず父親から
“恐ろしい奴がうようよしている”
からだ。
“人間かな?勇者かな?”
“それよりも恐ろしい”
“何だよ。あんた…じゃなくて親達は名を馳せる伝説の龍なんだろ?”
“…数年前はそうだった…だが知ったんだ。俺達の正体を”
数多の人間の巣窟を焼き払い、勇者達の群れを悉く蹂躙した、天災とも位置付けに相応しい“紅龍”。それが嘗ての存在だった…父の巨大な顔をヌッと俺の前に近付けた。
“外に出てはならないと言いたい…が絶対ではない。川までか、反対側の海までなら許してやろう”
おいおい…依存症かよ…強豪中とも称えられた存在が命を尊重するとはな
悪いプレゼントでも貰った気分で、俺は羽を羽ばたい、穴から飛び出した。
だがそんな気分が一瞬にして消え去ったのだ。上空から舞う時。上からの森林。快晴。柔らかく漂う風。ミントの匂いでも感じられたかのような優しい…爽快が俺を覆った。広大さを感じる。この世界で俺は据え立っている。空を飛んでいる。翼の持たない存在の憧れの能力だ。
俺は真下の森に目掛け降下したのだった。
(しかしじれったいなぁ)
自分の飛行速度がハエよりも速くない。風に吹かれてふわりと流れる風船並みに遅い。
森の影に覆われながら、樹木を避けながら飛び交う。
極端な鈍さだと親達よりも遥かに下回っているのが悪くも想像できる。親ができるのだから、子供達だってできる筈だ。というより速度を上げなければならないじゃないか。
生きる為には飴だけじゃなく、鞭も与えろってんだ。俺の世界では周りの暮らしが豊かになるつれ、50代だの親持ちのおっさんが家に出なく所を見るとどうしようとも情けない。実際、俺宅の隣に奴の最期を目の当たりのした事がある。2階の窓からだ。1階で自分の部屋で座り込む姿で俯いているのがはっきりと見えた。何故カーテンなど閉めないかと思っていたんだがな。窓は大きくまるで虫が入った飼育ケースを眺めているような感覚だった。
過去の思いに耽る、ふと俺はある木の柱に瞳を向けた。茶色とは違う黄色で即気配を察した。俺はその物体の存在を確かめるよう、近づいた。
動物?こんなボールみたい物だと見慣れない気分だ。ここは日本ではない。日本。いやその世界にはいない。
やはり魔物だった。蜘蛛みたいのな。でも待てよ。飴玉みたいな胴体に脚が針金のように細長い。なんか…パパイヤかレモンって風な魔物だ。
その魔物が俺の存在に察したかのようでこちらに顔を向いてきた。口辺りから黄色い汁を散射するのだった。俺の顔に黄色い滴りが張るのだった。
“うわっ汚っ!”