1プロローグ 憧れの身
主人公が転移する前の出来事
俺達は災厄を齎す魔王を打ち倒した…異世界に飛び込んだ最強能力とチートを持った勇者達。俺達は人類最大の敵を越えていた筈だった。力量は測った。今見る相手は…俺達よりも力が遥かに下回っている筈だ。なのに、こんな合間も無く、敗北した俺達…!
グホッ…クソッ
“こんなの不正だ…!
“不確かなのはテメェの方だ。数字の差違で物差しに使うなんてのはな、単純な奴が考える事なんだろうが。そんなもんあったっても…”
“グハァ!”
“絶対生き残れる。訳ねえだろ”
◇◇◇
俺は確かにそうだったとあの記憶から鮮明に覚えていた。身元も。そして家も。
俺はごく普通の会社員だった。ごく普通の不幸も幸福もない平凡な毎日だったな。一部はオタクに寄せた趣味もあった。美少女よりもドラゴンのフィギュアも沢山棚に並んでいた。その近くで俺はベッドで寝ていたんだ。大好きな日曜日の朝が来る。そう信じていた。そう一直線に向けるものかと思っていた。
目を開けたら、早朝の光が差し込んでいた。しかし、俺の寝ていた寝床はベッドではなく、枝を集めた巣。フィギュアもなかった。気付いた時には…部屋が自然の洞窟だった事。服を着ていない。何か身体に違和感が伝わる。
(なんだこりゃあ…!)
水たまりを自分の姿を見た時、龍になっていた。しかもまだ子供龍!
(これは…俺の姿なのか…)
轟く震えが耐えなかった。
岩を触れたりすることで夢の世界では無い事に自覚する事で俺の胸の奥から何かが煮えたぎる。それは
(幼体だけどすごい…!)
夢でない事に叶えられた俺は喜びに満ちて背中の小さな羽を羽ばたかせた。人間でずっといたいと考えてはなかった。だがもしもなれるとしたら躊躇いなくその方向に必ず、俺は歩んでいた。
今、俺1人(1匹)ではない事に目の前の生命の気配を察した。
俺同様大きさの子供。そして蒼き鱗を覆った両親達が息子達を見守っていた。
すごいなあ。正統派な姿をした個体と目に触れるとは。
あまりの素晴らしさが豊富で元人間だった俺の人生も頭から薄れていった。
親は怖い一面を張っておきながらも面倒は良い方だった。空腹だと早くも察しては微かな獣の肉を剥ぎ取って子供達の側に置く母だった。子供達は多めだと見てその肉に無邪気に飛びついた。俺もかじりついて…不味いと舌に伝わらなかったが生ではよく寂しいような冷たさだった。祝いの焼きたての七面鳥が恋しい。やはり肉は“ウェルダン”が俺のメインだ。
はて…幼体時でまだ火は吐けるか…
出るか出ないかの上で俺は息を吸い込んだ。軽く溜まったところを吹き返す。紅い炎々たる火の放射を生肉に向けた。
零れる程度ではなかった。ちゃんと思うように真っ直ぐ放射できた。龍だから火を噴くぐらいの程度に備えおかないと俺は気が済まない。
俺はこの獣のウェルダンステーキにかぶりついた。