『一人称使い』と『三人称使い』
このエッセイは、主に書き手の方向けの内容になります。
読者――いわゆる読み専の方々には興味の薄い内容になるかもしれません。
それでも宜しければ、暫しお付き合いいただけたらと思います。
では、早速内容の方に移ります。
まず最初に、小説を書いたことのある方々であれば知らない人はいないかもしれませんが、一応捕捉しておきます。
一人称とは、描写されるシーンごとにメインとなる登場人物の視点で書かれる文章です。
対して三人称は、第三者視点――第三者がナレーションのように語る文章になります。
この一人称と三人称といった異なる視点には、多くの方が得手不得手を感じるものです。
自分はこれを、利き腕のようなものだと思っています。
育ってきた環境(今まで読んできた文章)により大きな影響を受けるので全く同じとは言えませんが、訓練すればどちらも使いこなせるようになることなど、共通点は多いと言えるのではないでしょうか。
このエッセイでは、一人称で書くのが得意な人を『一人称使い』、三人称で書くのが得意な人を『三人称使い』という呼称で記述しています。
さて、この『一人称使い』と『三人称使い』についてですが、やはり生活やスポーツにおける利き腕のように、ジャンルによって有利に働くケースもあれば不利に働くケースもあります。
例えば、ライトノベルに多く見られるファンタジーは、基本的に主人公を中心として物語が存在するため、登場人物視点で書くことのできる『一人称使い』の方が有利と言えるでしょう。これは登場人物に感情移入しやすい、いわゆるRPG的な面が強いからでもあります。
特にライトノベルでは、大抵の場合主人公が若いことから、年齢の近い読者が自分を重ねやすく、物語の世界にすんなりと入り込むことができます。
物語に入り込みやすいということは、文章がすんなり入ってくることにも繋がるため、非常に読みやすくなるのです。
同じようなファンタジーでも、大人向けだったり外国の小説だと、どうにも硬く感じたり途中で読むのを放棄してしまうことがあったりするのは、こういった感情移入のし辛さが一つの要因となっています。
対して『三人称使い』は、ホラーやサスペンス、コメディなどのジャンルで強みを発揮します。
登場人物の主観では無いため感情移入はし辛いですが、その分、登場人物が明らかに読者とは異なる価値観を持っている場合でも、他人目線であれば忌避感を覚えにくいという点で有利と言えます。
たとえばですが、主人公が物凄く駄目人間で、それが徐々に成長し、素晴らしい人物になる物語があったとします。
この場合、いくら最終的に素晴らしい人物になるのだとしても、誰がどう見ても駄目な人間の主観で物語が進んだら、読み続けるのはかなりの苦痛です。普通の人は、まず間違いなく途中で読むのをやめてしまうでしょう。
しかし、こういった場合でも、三人称であれば工夫次第で読者を惹きつけることが可能です。
また、ホラーやサスペンス、ギャグ寄りのコメディなどは、ある意味感情移入してはいけない物語もあります。そういった作品でも、三人称であれば俯瞰目線で臨場感を楽しめる作品に仕上げることが可能です。
ただ、現在web小説の主流はやはりライトノベルですので、『一人称使い』の方がどうしても有利になる場面が多いと言えるでしょう。
全作品を確認することは難しいですが、ランキング入りをしている作品の多くが、一人称で書かれた作品です。
今でこそ大人にも読まれるライトノベルですが、やはり主となる年齢層は若年層ですので、書きやすく読みやすい一人称の作品の方が人気となるのは仕方ないのかもしれません。
ただ、前述している通り『三人称使い』にも特有の強みがあるので、それをライトノベルに活かすことは可能です。
これは個人的意見ですが、特にその強みを活かせる部分は主人公の性別に関する部分だと思います。
読者であれば気になる要素である主人公の性別ですが、当然ながら読む側が男性であれば男のキャラクターの方が感情移入もしやすいですし、女性であれば女のキャラクターの方が感情移入しやすいです。
特に恋愛要素が絡む場合、視点となるキャラクターの性別は読み手にとってとても重要となるため、読み始める基準としている人も多いのではないかと思います。少年漫画における恋愛モノの読者層や、少女漫画における恋愛モノの読者層なんかを見ればわかりやすいですよね。
これは当然書き手側にも言えることで、やはり『一人称使い』は主人公が同性である方が書きやすくなってきます。もちろん異性を主人公とするのも可能ではありますが、違和感を消すのは至難の業と言えるでしょう。
実際、読んでいると作者の性別を察してしまった……なんて経験がある人は結構いるのではないでしょうか。
当然と言えば当然ですが、やはり異性を完全に理解することはできませんからね……
こういった問題を『三人称使い』は、客観視、あるいは複数視点を同時に描写することで、ある程度解決することができます。
語り部である第三者に作者の性別は多少影響しますが、実際の登場人物の主観をそのまま語っているワケではないので、読者の考察や主観が入る余地があるからです。
また、主人公やヒロインが複数いるケースでも、『三人称使い』は強みを出すことができるでしょう。
一人一人の心理描写をしっかりとする必要があるため難易度は上がりますが、その分読み手の性別や性格に依存し難くなりますので受けが広くなります。
以上に述べているのはあくまで一例に過ぎませんので、他にも探せばそれぞれの強みが色々と見えてくるハズです。
そういった強みを活かすことで、『一人称使い』の方も、『三人称使い』の方も、さらなるステップアップを目指せると思います。
やりたいことに合わせて『両刀使い』を目指すのも良いですし、比較的自由なweb小説であれば、少し邪道ですが上手にブレンドしてみるのも面白い試みでしょう。
最後に補足となりますが、web小説を書く『一人称使い』が抜け道としてよく利用する『視点の切り替え』という手法があります。
これは話を一旦区切った上で、誰々視点と補足を入れるなどして視点を他の登場人物に切り替える手法のことです。
あまりスマートなやり方ではありませんが、『一人称使い』が苦手な客観的視点、多人数の視点を補足することが可能となるため、便利な手法と言えます。
多用することはあまりオススメできませんが、そういった工夫で苦手な視点を克服するのも一つの道です。
※視点を切り替える場合は、しっかりと区切りを入れる必要があります。
区切りもなくいきなり視点を変えている作品をごく稀に見かけるのですが、読者が混乱するのでできる限りやめるようにしましょう。
以上、お読みいただきありがとうございました。
この作品では『二人称使い』については触れておりません。
二人称は特殊な視点で、取り扱いが難しいためです。
使いこなせる人は稀有な存在と言えるでしょう。
いわゆる、特質系能力者みたいなポジションだと思っておいて良いかもしれません。