国…それは2つ結びと歓喜 VIII
見開かれた目は、瞬きを忘れたようだった。我に帰り、辺りを見渡す。
トワさんがいない…。
ここは、どこ…?
ぐるっと一回転して辺りを見ても
人、ひと、ヒト…。
目に入るもののほとんどが、ヒト…。
みんな似たような服装をしていて女の人はみな、派手で丈の長いものを着ていて、男の人はみな、つばのない被り物をかぶっている。
屋台が大通りの道に沿うように並んでいる。
「安いよぉ〜!」
「そこのお嬢さん!寄ってきな!」
「今日限りの特別セールだぞー!」
「王国誕生祭おめでとぉ〜!!」
華やかな帽子や服を売っている店…いい匂いの煙を立たせて客を誘う店…
水晶玉を目の前に、占いを受けている男女のペア、腕相撲をして力比べをする筋肉質な男達、荷物を運ばせるロバを引き、声を張り上げる売り子の少年、はしゃぎながら道を走り抜ける子供達…
どの方向からも大きな声が聞こえてくる。あまりの熱気に私は目眩を覚える。
くるくると辺りを見渡していると、目が回ってくるようだった。
本当にここは…さっきの国なのか…??
焦ってパニックになりつつある私を不思議そうに人々は見る。
コワイ…
お願いですから、そんな目で見ないで…
不安になって両肩を抱きしめるような格好になる。そして、さらに恐ろしいことに気づいてしまった。
「…っ!!…いない…?!」
どちらの肩にも、腕にも、"彼女"の姿がない。あの柔らかな心地がどこにも感じられない…!
とんでもないことになってしまった…
血の気が引く感じがして、明らかに冷静さを失っていると、
「パレードが通るぞぉぉぉぉーーーー!!!」
誰かの声がひときわ大きく、高らかに響く。そのとたん、歩いていた人々は、みんな道沿いに寄り始める。屋台と屋台の間、細い道に入るちょっとした隙間に、人は移動していく。
誰もが道の真ん中を開けようと、移動をしている。
何が起きているんだ…何でみんな端によっていくんだ…?…!訳がわからない!
「わっ」
ふと、誰かが後ろからぶつかってきて、私は少しよろめく。
「オマエさん、早よ避けんとパレードがやってきちまうぞ!」
そう言われて呆然とする私も気にかけず、ぶつかった人はそそくさと行ってしまった。
パレード…? なんだそれは…?!
「X X X!」
後ろから呼ばれたような気がした。その声はまっすぐ耳に入って来たのだ。
いや違う、私の名前じゃなかった。
反射的に振り向くと、手を掴まれ、そのまま通り沿いに引っ張られる。
華やかなつばの広い帽子を落ちないよう片手で抑え、また片方で私の手を握る少女。
しかし、その姿には見覚えがあった。
わずかな空いたスペースに落ち着くと、その人は少し怒り気味で言った。
「やっと見つけた!も〜どこ行ってたのよ!探したんだから!」
「…すみません… 」
でも、不安だった気持ちは、少しだけ落ち着いた。
その人は、トワさんだったから。
そっと息をついた時、私は大事なことを思い出し、自分の肩を指してまくし立てた。
「トワさん!!いないんです!!さっきまでちゃんと肩にいたのに…。一緒じゃなかったですか…!?」
トワさんはありえないくらいあっさりと答える。
「ん?ダレが?」
ダレって…今までみんなぬいぐるみで、私たちの肩にも…
…あれ…トワさんの肩にもチカさんがいない…。
「見て!パレードが来るわよ!」
私が戸惑っている一方で、トワさんは大通りの奥を指差す。道沿いに大勢の人がごったがえすなか、奥には視界の開けた広場が小さく見えた。さらにその後ろには、背の高い、一番目立つ立派な建物がそびえ立っている。
「トワさんっあの大きな建物は何ですかっ」
「あれはこの国の中心!王様の宮殿よ!目の前の広い庭から、パレードがこの道を通って国中を回るの!あっホラっ!」
トワさんの言うように、何やら楽器を持つ、みんな同じ衣装の人たちが並び始める。
一体、何が始まるのか…と思っていると、先頭のバトンを持つ1人がこちらに礼をした。
そのとたん、周りから拍手が一斉に沸き起こる。
「来るぞぉ〜!」
「ヒュー!ヒュゥヒュー!」
すごい盛り上がりの中、その人は後ろを向き、楽器隊に向かって指揮を始めた。
パーパッパッパーーーパッパッパッパーーーーー!!!!!
シャーーーーン!!
大きな軽快な音に、野太い音、弾けるような音、そして金属のぶつかる音…最初のコールのようだ。
音がやむと、周りの人々は再びわっと盛り上がった。その盛り上がりようにさすがに怖くなっていると、トワさんは私の肩に手を回し抱いてくれた。
ふわっとかすかに優しい香りが鼻をついた。
指揮をしていた人がキビキビとした動きで、かつバトンをリズムに合わせてぐるぐる回しながらこちらに来始める。後ろの楽器隊も、演奏をしながら後ろをキビキビとついて来ている。
音楽は、緩やかなメロディで始まった。
道に入って来ると、辺りはさらなる拍手と歓声、熱気に包まれた。
楽器の集団は目の前を通っていく。迫力のある音が心臓と共鳴するように身体全体に響き渡った。
何だか気持ちがふわふわしてくる。
なんだろう…この気持ちは…感じたことのない…知らないのかもしれない。
湧き上がってくるこれは…
楽器隊が通り過ぎると、一段と華やかで美しい服を纏う人たちが踊りながら目の前を通り過ぎていく。男女問わず、慣れた動きで音楽に合わせて踊り、観衆一人一人に笑顔を向けているようだった。
とても、楽しそうだった。
女の人のスカートがふわりと綺麗になびく。
思わずうっとりと目で追ってしまう。
「あっ見て!来たわよっ!」
急にトワさんは興奮して少し離れたところを指差す。踊っている人の中に、カゴを持って歓声をあげる人々に何かを配る人たちが見受けられた。
「あれは、何ですか!」
私は音に負けないよう、少し大きな声でトワさんに問うた。