旅…それは歌 驚きの連続 光輝く感情 VII
「うおぉ!えぇ〜?!」
急に演奏が止まったかと思うと、フールさんがこっちを見ている。
「あっ!えぇーっと……ノックは……したのですが……」
「ごめんごめん、いやぁ〜びっくりしたぁぁ!あ、全然いいんだよ?気づかなかった俺が悪いし」
「あ、いや、それは」
いや、それは違う。そう言いたかったが、テンパってうまく言葉が出てこない。
「ハハッそんな焦んなって。ほら、ここのソファ、座んなよ」
焦っていることはバレバレのようだ。
「はっはい、ありがとう、ございます」
促されるままソファに座らせてもらった。フールさんはゆっくりとギターを立てかけ、小さな机を挟んで向かい側の椅子に座る。
しまった、私だけくつろいでるっ。
急いで地べたに座ろうとすると、
「あ〜いいのいいのっ!長旅の疲れは1日足らずじゃ癒せねーぞ!こういう時ぐらいくつろげ、なっ!」
元気いっぱいでニッと笑うフールさん。つられて私も少し笑う。
「にしても、よく寝たなぁ〜。あれ、めっちゃ寝心地いいだろ?」
「はっはい……というより、スミマセン。最後まで寝てました……」
「だから大丈夫だってぇ〜!ニンゲンが一番自由になれる場所は夢の中なんだ。それが現実で起ころうと起こるまいと、自分の大切なものとして残る!まぁ、大抵忘れちゃって思い出せないけどなっ!
それに、俺だってサマヨイの次に遅く起きたんだぜ?ラヴに叩き起こされたんだ」
面白くなって小さく笑うと、フールさんはまたニッと笑った。
「ねぇ、"おバカさん"はなんな楽器やってんの?」
「ちょ、ちょっと!!?」
とっさに反論する。や、でも確かに……いンや違う!失礼極まりない!
しかも先輩なのに……!
「アッハハ!いいねぇ彼女!そうさ!俺はバカなんだ!アハハ!!」
私はほっとして息をつく。心の広い方でよかった。
全く、急に何を言うんだか。あとで怒らないと。
「そんでもって、俺の使ってる楽器だよな?」
「ギターですか?」
「やっぱギターに見えるよな。だけどありゃベースっつって、その曲の最低音部、つまりは土台となる低い音を演奏するもんだ。
あれがあるのとないのとで、曲全体の響きが全く変わる」
「大事な役割ですね。とても大変そう……」
「まぁそれなりに。でも思った通りの音を出せる。これ以上の喜びはないな。それが『Minimum』として演奏できるなら尚更だ」
「みなさん、とても楽しそうに演奏されますよね。それに一人一人がなくてはならない方達というか、昔からつちかってきた絆というか……」
そう言うと、フールさんは椅子をどけて地べたに座り、壁に寄り掛かった。
「楽しい……か」
寂しい笑顔を見せるフールさん。まさか、私失礼なこと言った?!
「あのっ……」
「ごめん、大丈夫だよ!君のせいじゃない。ちょっと思い出したことがあってさ」
「思い出したこと」
「そう」
フールさんは懐かしむように語り出す。
明るく。何かが物足りないように。
「俺さ、このMinimumに入る前は、ちゃんとした国に住んでたんだ。ちゃんとした家族もいて、何不自由なく、ここまで育った。
俺は昔から音楽が好きで、そのベースは長い長い間ずっと俺の相棒なんだ」
相棒……私は無意識に彼女の頭を撫でていた。
相棒と言われて思い浮かべたのが彼女だったからか……ちゃんと肩に乗っているかどうかの確認なのか……。
「俺、18歳の時までは、学校で友達とバンドやってたんだ。もちろん俺の担当はベースだった。
地味だと思うだろ?だけど俺はそうは思わない。むしろ嬉しいくらいだ。それくらいベースが好きだった。
そのバンドも男ばっかで暑苦しいけど、それなりに活動して、観客もそれなりにいて、そりゃあ楽しかったもんさ。
俺のテンション爆上げの原因はこのバンドなのよ!」
面白い話に引き込まれた。我慢していても、小さく笑いが漏れてしまう。
しかしフールさんは、壁にもたれなおす。表情にわずかに影がさす。
私はハッとして表情を固くする。
「でもさ、卒業する時にな。みんな音楽やめちまったんだ。家の仕事継ぐ奴もいたし、音楽となんら関係のない学校へ進学する奴もいたし、今でもどこにいるのか、何してんのかわからなぁ奴もいる。
俺は、俺らは、1人になっちまったんだ」
フールさんは立てかけているベースギターを見つめている。
「俺はベースを捨てたくなかった。アイツとの付き合いは俺にとっちゃなくてはならないもんだ。アイツと分かち合った音楽の楽しさを忘れたくなかったんだ。」
まるで生きているもののことを話すように語る。
なくてはならないもの、忘れたくない感覚。初めて聞いた話なのに、私はあまり、と言うより全く縁のない話のはずなのに。
こんなに響いているのはなんでだろう。
「なんかやんなきゃと思ってな。無我夢中で方法考えたよ。それで思いついたのが音楽の教室を開くことだった」
「学校、ですか?」
「いんや、そんな大それたもんじゃないって、ハハッ!」
「でもすごいです!フールさんが味わってきた音楽の楽しさを自ら伝えようとするなんて……誰でもできることでは無いと思います!」
フールさんは驚いた顔をすると、すぐ笑った。
「ハハッ!そんなことを言われたのは初めてだ!……まぁでも、そう簡単にはうまくいかねーさ」
「えっ」
「生きていくには、食わなきゃいけない。寝なきゃいけない。そんな最低限にすることをすれば、音楽なんてする時間はないんだ。生きていくためには働かなきゃいけない。
分っちゃいたけど、どうしてもそっちには目が移らなくてさ。ギリギリの生活の中で、まだ何も知らない純粋に音楽を楽しむ子たちに教えることが唯一の生きがいだった。
もしかしたら、音楽を続けて先で、一緒に音楽に溺れたバンド仲間にもまた会えるって思ってたのかもな」
生きがい。
生きていてよかったと思うこと。
私は、なんだろう。
旅をすること?
そもそも、私は生きがいを持っているのか?
ふと、フールさんの口調が少し明るくなった。
「そんな時だよ!ラヴと出会ったのは」
「ラヴさんと」
「あぁ、ラヴだけじゃない。そん時はもうすでに、ヒーローもカラもティブも居たんだ。俺がMinimum
に入ったメンバーだ。
会ってすぐ歌を聞かせてもらった。そしたらさ、なんかわかんねーけど周りの景色が変わるんだ。
ラヴの声で。
ラヴは俺よりいくつか年下だけどちゃんと音楽の真理を知ってるやつだと思った。そして何より、明確な目標を持っていた。
その目的を叶える手伝いをしたいと思った。だから頼んだんだ。俺も行きたいって。
これが、俺が今ここにいるまでの話さ!
いやぁ〜喋った喋った!辛気臭い話してすまねーな!
こんな話することないと思ってたのにな!ガハハッ!」
「いえっ、こんな貴重な話をしてくださり、ありがとうございます。私は、何も関係ないのに」
「ぜーんぜんいいんだよ!それに、サマヨイだから話せたのかもしんないし!」
そう言ってニッと笑うフールさんに私の心はポッと暖かくなった気がした。
「うっ嬉しいです……!」
興奮して体が熱くなってるのが分かる。
ふと、彼女が質問を投げかける。
「そんでさ、さっき言ってたあのボーカルの目的って何なの?」
私も知りたかったけれど、度胸がなくて聞けなかった質問。
「あっあのっ!大切なことだったらいいんです!」
急いで付け足す。
「俺の口から話してもいいけど、ん〜。うんにゃ、そこは本人に聞いた方がいいかもなっ!」
「ラヴさんにですか?」
「そっ!」
ポッと浮かんだラヴさんの顔。緊張して聞けないかも……。
「え〜めんどくさ〜」
「コラ」
「アッハハ!やっぱお前らおもしれーな!その関係、忘れんなよ!」
「っはいっ!」
「アタシゃ知らねーで」
「もぉ〜」
出てきた笑いは止まらなくて、フールさんの部屋中に笑い声が響いていた。




