#4 旅…それは歌 驚きの連続 光り輝く感情
「どうして泣いているんだい?」
そっと寄り添ってくれるような、だけど、芯のある…そんな声がした。
深くうつむいていた私はぐしゃぐしゃのままの顔を上げる。
その人は、覗き込むようにして私を見ていた。
ふと、彼は笑顔を見せた。心臓の鼓動が一音だけ、少しだけ大きくはねた。
涙はいつの間にかとまっていた。
「僕はラヴ。仲間と音楽をしながら旅をしているんだ」
突然自己紹介をされた。
仲間?
私は辺りを見回す。思った通り、周りには人間はこの人しかいない。
それに、音楽をしながら…?どうやって…だって、この人は楽器を持っていない。
いろんな疑問に包まれ、困惑している私を見ると、彼はウロウロと歩き始めた。そして手を後ろに組んで足を揃え、私に背を向けた形で立ち止まった。
風が吹く。
彼の着ている深緑色の薄いコートがはためく。
今まで感じたことのない不思議な雰囲気を彼は纏っている。
ふと、彼は急に片手の指をパチンと鳴らした。
そして振り向き、私に問う。
「君は、悲しんでいるね」
「はい……え?」
私はあわてて自分の口を押さえる。
あれっ…なんで私…勝手に口が答えたみたい…。
「どうして泣いていたのか、教えてもらえないかい?」
「ヒトを傷つけてしまったんです」
驚くほど、言葉はスルスルと出てくる。
彼は次々と質問した。
「その人はどうして傷ついたんだろう」
「私が…感情を出してしまったから。…感情に任せて、余計なことをしてしまったから」
「何で感情を出しちゃダメなの?どうして感情に任せて余計なことをしちゃいけないの?」
「ヒトを…傷つけるから…」
「ありゃりゃ、元に戻っちゃったなぁ」
何なのだろう。いくつ質問を重ねるのか…。何を知りたいのか…。不安は募るばかりだった。
「質問を変えよう。
感情を出しちゃいけない理由。それはヒトを傷つけてしまうこと以外にまだあるんじゃないのない?」
どきっとした。え…理由?傷つけてしまうから…もう感情は出したくない。それだけが理由……
ちがう。
そう自分が小さく呟く声がした。
ちがう、もっと根本的な理由があるじゃないか。
でもこれは誰にも言いたくない。
だってこれは私と彼女の秘密だから。話したくないから。
でもなぜか私の口元はそれを言いたいかのごとくムズムズとしている。
だが私は取り憑かれたようにそれを口にする。
「『ココロココニアラズ』…だから…」
ハッとして、私は口を押さえた。
あれ、何でこんなカンタンに自ら…
どうしよう…バレてしまった…。バレてしまったら何をされるかわからない…。
どうしよう、どうしよう…。
「よくできました」
「…え?」
耳を疑った。彼の顔を見ても、ニコニコと笑っている。険しかったり、苦笑いでもない。
私が1番安心する『笑顔』だ。
♪ ある日パパと2人で語り合ったさ
"この世に生きる喜び そして悲しみのことを"
彼は突然歌い出した。のびのびと、背が伸びているような歌声。
不思議とその声は私の中にまっすぐと入ってきた。
そして次の瞬間、私の周りは緑で埋め尽くされた。草原が広がっていた。
彼は腕を広げて歌う。とても楽しそうに…!
♪グリーングリーン 青空にはことりが歌い
グリーングリーン 丘の上にはララ
緑がもえる
風で巻き上がった草が青空の上で踊るように飛んでいく。
こんな景色は見たことがなかった。
しかし、ふと気が付いた時には私は砂漠で座り込んだままだった。
「ぃ…ぃ今のは?!」
「プッアハハハッ いいねいいね!驚いてくれた!これは僕から君たちへの贈り物さ」
「おくりもの…?」
「サマヨイに何を渡したのさ?」
彼女の声を聞いてハッと気づかされた。
この人には、ぬいぐるみがいない…
どうして…?ニンゲンなら、イキノコリなら必ずいるはずだ。
「歌、だよっ!」
「「歌を?」」
歌って、贈ることができるものだっけ?
「そう、この歌は僕が作ったものじゃないんだけどね。でも君を見た時、遠く遠く離れた国で教えてもらったのを思い出したんだ。
『この世で生きる喜び、そして悲しみ』
喜びと悲しみがあるだけで僕らの見ている景色は一瞬で変わる。
僕はこのことを伝えたかったんだ。だから歌った。
感情があるから、生きていることが楽しくなるっ!オドロキの連続さっ!」
「驚き…?」
「そうそう、驚き!そんなわけで…」
そう言うと、彼は私の手を握った。
「えっ?」
あからさまに動揺してしまった私など構わず、彼は暗くなり始めた空を指差す。
暗い空には何かが浮いている。
大きな何かが…
「ぬいぐるみちゃんっサマヨイにしっかり捕まるんだよ!
それじゃあ、旅を続けよう!
Are you ready?」
何が起こるのかなんて予想もできない。
おどおどしていると、彼はまたパチンと指を鳴らす。
「Go!!」
「へっ?!」
驚いて私は目を瞑る。
そしてその一瞬の間に、私たちの姿は砂漠から消えていた。
そこは、砂漠じゃなかった。
そして、ラヴさんの他に4人増えている?!
ラヴさんはその4人と並んで言う。
「ようこそ、僕らの飛行船へ!」
「「えぇーーーーーーー!!!」」
私と彼女の声が飛行船中に響いた。




